表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/99

24話 煌めく太陽

「ルミナス様!」

「うっ!」


 冬休みを終え、遂に学園生活最後の年が始まった。何時もより威力の増したセレナタックルを受け止める。


「貴女さては、冬休み中も鍛錬をしていたわね?」

「はい! ルミナス様もですよね?」


 久しぶりに見たセレナの笑顔と明るい声に、思わず頬が緩みそうになる。しかし恥ずかしいので横を向き、髪を靡かせた。


「公爵家の令嬢として当然よ」

「流石はルミナス様カッコいい!」

「令嬢に筋肉はいらないだろう」

「あらディラン。久しぶりね。安心してちょうだい、令嬢として問題ない程度に留めているから」


 ディランは疑うような目を向ける。本当のことを言っているのに失礼なことだ。むしろ体が引き締まり、コルセットが楽になったというのに。


「それはともかく、町でイチゴフェアが開催されるみたいなんだ。行かないか?」

「わぁ! 行ってみたいです! ね、ルミナス様」

「悪くないわね。どんなメニューが出ているのかしら?」

「イチゴのクレープやアイスクリームがあると聞きましたよ」

「あらセオドア様、ノア様。お久しぶりね」

「はい。お久しぶりです」

「お久しぶりです、ルミナス様」


 本と植物図鑑をそれぞれ持ち、現れた二人は会釈した。セオドアは何かの紙を渡して来た。見てみると、イチゴフェア開催のお知らせだった。


「町に出た際に貰ったんです。興味がお有りかと思って、持って来たんです」

「あら、ありがとう」

「新学期そうそう仲がいいですね」

「あら、久しぶりねダ――ヒッ!」

「ルミナス様?!」


 ダンの声がして振り向くと、そこには一人の青年が立っていた。


(どうして、どうしてここにいるの?!)


 健康的な小麦色の肌に、海を思わせる水色の瞳。ぴょこんと跳ねる、栗色の髪を持つその青年は、ループ二回目のセレナの恋人だ。

 名はカイル・サンターニャ。商業大国エグマリヌ公国の伯爵家第一子で、セレナと結ばれた者達の中で唯一、ルミナスを断罪、もしくは改心させるだけでは済ませなかった、最も会いたくない人物である。

 彼は他三人より情熱的に、セレナを可愛がっていた。そして、ルミナスには穏やかに、且つ、紳士的に説得を行っていた。しかし、心の奥では怒りの炎をごうごうと燃やしていたのだ。

 カイルはルミナスの知らぬ間に「いい儲け話がある」と父に貿易話を持ち掛け、わざと貿易船を沈めた。彼自身の船員達を捨て駒に使って。そして、公爵家の構図をどこで覚えたのか知らないが、その後追い討ちをかけるように賊や暗殺者等によって屋敷を襲撃された。もちろん、家はボロボロになった。

 端的に言うと、ビオスソニオ公爵家は彼の策略に嵌り、没落寸前まで追い込まれたのだ。自身を探し出せと、声高らかに追いかけて来る彼等の姿は、悪魔以外の何者でもなかった。あの時の恐怖だけは、今もハッキリと覚えている。

 父と母は恐怖に震えながらも、ルミナスを逃してくれた。「未来のない自分達より、お前が生き残った方が再建の可能性があるから」と。逃亡用の荷馬車に詰め込まれる寸前、共に逃げようと手を差し伸べた。しかし、逆に手を押し込まれ、叶わなかった。

 荷物で姿が隠される寸前、二人が言ったのは、頑張れでもなく、生きろでもなく「愛している」だった。


(新しいループが始まったんだから、今のカイルは別のカイルよ……でも、どうしても割り切れない……!)


「ルミナス様、大丈夫ですか?」

「!」


 ハッと顔を上げると、ディランもセレナもダンも……カイルも、心配そうにこちらを見ていた。変に刺激を与えてはいけない。公爵家がやましい事をしている訳ではないが、カイルに目をつけられたくない。このまま穏便に終わらせ、極力接触は控える方がいいだろう。

 恐怖で胸がドキドキするが、どうにか作り笑いを浮かべた。


「ごめんなさいね。もう何処かに行ったみたいだけれど、少し遠くに毛虫が見えたものだから驚いてしまったのよ」


 今の私は上手く笑えているだろうか。なんて思いながら、ルミナスは二人の陰から出た。


「ルミナス様にも怖いものがあるんですね〜」

「目に入った途端消しそうですよね」

「失礼ね。そんなことしないわよ」


 あらあらと手を口元に持っていき、茶化すような笑みを浮かべるセレナを軽く小突く。


「ディラン?」


 ふとディランを見てみると、心底嫌そうな顔をしていた。


「何でここにいるんだ」

「えっ?」


 視線の先は、太陽のような笑顔のカイル。その笑顔が過去の彼と重なり、再び固まってしまう。


「!」


 カイルはズカズカとこちらに歩いて来た。そしてルミナスの横を通り抜け、ディランの肩に手を回す。


「手紙を出しただろ〜? さてはお前、照れ隠しか!」

「やめろ、離せ、暑苦しい」

「二人は知り合いなの?」


 カイルを連れて来た張本人、ダンの元に行き尋ねてみる。


「そうみたいですよ。ディラン様を知らないか聞かれたので、案内したんです」

「そうだったのね……」


 二人が知り合いだなんて、初めて聞いた。出来るだけ関わらずにいようと思っていたのに、難しそうだ。


「ディランはオレの弟みたいなもんなんですよ」

「弟じゃない。離せ」


 ディランが手を叩き落とすも、カイルはヘラヘラ笑っている。


「相変わらず冷てぇな〜。せっかく一年振りの再会だってのにさ」

「一年振りですか」

 ダンの疑問にカイルは頷いた。

「おう。家の事情で学園を休んでて、三年になった今日戻って来たんですよ。ちなみに、オレとコイツは従兄弟です」

「い、従兄弟?!」


 二人以外の全員が驚きの声を上げた。

 それもそのはず。二人は見た目も中身もほぼ真逆。家門も別の国なのに、そのような共通点があったとは。


「一時は同じ所で育ったから、従兄弟っていうより兄弟だよな。な! ディラン」

「暑苦しい」


 再び近付くカイルの顔を掴むディラン。

 セオドアとノアも昔から交流のある、兄弟のような存在だと言っていた。あまりにも繋がりが良すぎる。


(まるで、布石が置かれているような……)


 ルミナスはセレナを見た。わちゃわちゃと攻防を続けている二人を遠くから眺め、微笑みを浮かべている。

 これで四人が揃ってしまった。もし彼等が布石で、この世界がセレナを中心とするものだったなら、今回はどうなるのだろうか。


(……小説の読み過ぎかしら)


 目を瞑り、気分を切り替える。

 再び目を開けると、カイルから逃げ回るディランの姿が見えた。


「何だか少し嬉しそうですね」

 隣に立つダンが言った。

「それ、本気で言っているのかしら?」


 ルミナスの目には、ディランが嫌がっているようにしか見えない。


「本当に嫌なら、会った途端に逃げていたでしょうから」

「あぁ、なるほどね……」


 もしくは、ルミナスのように怯えるか、隠れるか。


「じゃあこれから宜しくな〜!」

「勝手に宜しくするな!」


 そう言い残し、カイルはディランを追いかけて去ってしまった。

 残されたメンバーはポカンと口を開けている。


「あの方が、海を統べる太陽の貴公子、カイル様ですか……」

「そんなあだ名があるのね。海なのか太陽なのかややこしいわ」

「ですね」


 セオドアは困り笑いを浮かべて言った。同じ兄(のような者)でも、自身とは全く違うタイプを目の当たりにして、驚いているのだろう。


「彼自身、貿易で功績を挙げているようです。だから海なのかもしれませんね」


 カイルの家は元々商家で、前代家主が伯爵の地位を買ったそうだ。あの国ではお金さえ払えば貴族の地位を得ることができる。その家からヴァールハイト公爵家に嫁ぐ者が出たとは。厳しい家だと噂に聞いていたので、意外である。


「あの姿を見るに、どちらかというと嵐の貴公子って感じね」

「彼が気になりますか?」


 そう尋ねて来たのはダンだった。何でもない顔で、しかし、どこか探るような目で見詰めてくる。


「宜しくって言われたからよ。積極的にお近付きになりたいとは思っていないわ」


 ふぅんと何故かセレナと一緒に呟くダン。むしろ関わらないでほしい。それか、穏便に卒業してほしい。

 ディラン達と同じく友達のような存在になれるのなら、それが一番いいのかもしれない。しかし、そのためには自身の心に踏ん切りをつける必要があるだろう。


「そうだ。いいものを持って来たんです」

「いいもの?」

「はい。家の用事でニフリート王国に行った際、ステンドグラスを使った花柄の栞を見つけたんです。ルミナス様は本を読まれますから、ピッタリかと思って」

「あら、ありがとう……」


 ダンに貰った黄薔薇のステンドグラスは、太陽に翳すとキラキラと輝いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ