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12話 共通点があれば仲良くなるのに時間はいらない

 スイーツ巡りから暫く経ったある日、ルミナスは学園の図書館で本を探していた。この世界についてより知るためだ。神話、創世記、建国記、その他諸々、ヒントになりそうな本を片っ端から読んでいくつもりだ。学園生活を過ごしながら読むため幾つか取捨選択を行わなければいけないだろうが、それでも数多くの本を読むことができるだろう。


(今日はセレナさん用事があるって言っていたし、ちょうどよかったわね)


 セレナの言う用事とは何だろうか。

 気になりはするが、それはきっと彼女が心配だからだろう、とルミナスは思うことにした。


(誰かとお茶会でもしているとか……ではないでしょうね)


 大方ディランと特訓でもしているのだろう。予定があるからとセレナがルミナスの元に来なかった日に、たまたまセレナを見かけたことがある。その時、セレナはディランと魔法の練習をしたり、トレーニングを行ったりしていた。最初のループの時は二人でお茶会を楽しんでいたのに。仲がいいことに変わりはないのだが、このような形になるとは思いもしなかった。

 ちなみに、ディランとのペア練習は、ペア期間が終了した今も毎日ではないが続いている。今の課題は、闇魔法を一定時間固定することだ。

 しかし、ディランとの練習に加え自主練習も行なっているため休みは必要である。故に今日、休憩がてら図書館に来たのだ。気持ちはともかく体は休ませることができる。


(あら、これ面白そう)


 ルミナスが手を伸ばしたのは最近巷で有名なロマンス小説。ルミナスは、セレナたちに関係すること、学園生活に直接関係すること以外の記憶はボンヤリしているなりにも割と覚えている。そのため、何冊か読んだ本も覚えていた。しかし、どれもサロンで令嬢たちが読んでいたもののため、やや内容に偏りがあった。

 それは、しがない貴族のヒロインと王子が出会い、恋に落ちるという内容だ。お忍びでパーティーや市場、祭り等、王子が何に訪れているか、家族とのごたつきの有無などが各作品の違いだった。基本的な部分が同じなのによくそこまで盛り上がれるな、と思うが、彼女たちはそれ以外の部分に魅力を感じていたのかもしれない。自我がハッキリとしているルミナスなら、同じように楽しめる可能性もある。


(まぁ、私が取ったものは主人公が男性みたいだけれど。珍しいわね)


 自分で選んだにも関わらずどこか他人事のように思うのは、タイトルに惹かれて選んだからだ。

 タイトルは『暁光の中で芽吹く君へ』。著者名はテオドールで、なんと表紙絵も彼が描いたらしい。深みのある群青色の空が温かい橙色に染まりゆくグラデーションからは、どこか切なく、それでいて凛とした美しさを感じることができた。


「今日はこのくらいにしておこうかしらね」


 ルミナスは席に本を持って行き、既に出来上がっていた本の山に新たな数冊を重ねた。


(先に神話を読んで、これはお楽しみとして取っておきましょう)


 ルミナスは神話のページを開いたのだった。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「よ……っと」


 翌日、ルミナスは新しい本を取るため、本棚に手を伸ばしていた。脚立を使っても届かない位置にあるとは、困ったものだ。


「お取りしましょうか?」

「あら、ありがと……う」

「おや、またお会いしましたね」


 代わりに本を取ったのは、先日大衆演劇でルミナスを助けた青年だった。


「私はセオドア•アルティスタです」


 そう言ってお辞儀をするセオドア。

 ルミナスは勿論、彼のことを知っている。一番最後、四回目のループにて、セレナが恋人に選んだのは彼だった。

 舞踏会ではディランのように関わることはなく、学園生活でも平和に解決しようとしてきた人物である。

 目立ちはしないものの、心優しく、セレナにキツく当たらないようルミナスに何度も説得してきた。最初はマナーのなっていない行動で他の貴族にも虐められていたセレナだったが、彼の様々な助力のお陰で立派なレディーに育っていた気がする。

 二人の穏やかな空気も相まって、貴族たちの視線は柔らかいものとなっていき、彼女にキツく当たり続けたルミナスに対する視線は、冷ややかなものになっていった。


 何度も心を入れ替えるチャンスはあったのに、何故、ルミナスは変わらなかったのか。


「ルミナス様?」

「えっ? あぁ、ごめんなさい! 何かしら?」

「ルミナス様も本がお好きなんですか?」


 机の上に置かれた本の山を見て、セオドアは言った。


「昔はそうでもなかったのだけれど、ある本に出会って面白さに気付いたのよ」

「そうでしたか。題名をお聞きしても?」

「『暁光の中で芽吹く君へ』よ」


 セオドアの目がほんの一瞬、僅かにだが見開かれた。


「もしかして、貴方も知っていらして?」

「え、ええ。あまり知られていない作品ですから、驚いてしまいました」

「あら、そうなの?」


 いい作品なのに残念だ。最初は絵に引かれて選んだものの、内容も素敵で一夜で読み切ってしまった。本を読んで泣いたのは、これが初めてだ。


「そういえば、これは神話に関する本ですよね。僕も読んだことがあります。ルミナス様は幅広い分野がお好きなのですね」

「ええ。大衆演劇を観て、知りたいと思ったのよ」

「そうでしたか! ルミナス様はどの場面が心に残りましたか?」


 嬉々とした表情で尋ねてくるセオドア。


「悩むわね……苦しみながらも世界を救うんだと主人公が覚悟を決めたシーン、かしら?」

「分かります。あの時の表情はまさに初代国王を彷彿とさせましたね。自分が神の血を引いていると知り困惑する主人公、それによって変わった人々の態度が悲しくて……」

「分かるわ。だからこそ、立場が変わろうとも、心は変えずに支え続けた仲間との関係がほんとにこう……よくて」

「だから裏切りシーンは辛かったですよね。しかも、本当は主人公のためにしたことで、恨まれたままでいいのだと一人静かに息絶える姿は……っ、すみません、涙が」


 セオドアは目頭を押さえた。かくいうルミナスも、ジンとした熱さを感じていた。


「私もわかるわ。だから、心に残った場面は決めれないわね」

「ですね」

「そういえば、恋愛のシーンは、歌と踊りも混ざって明るく楽しいものになっていたわね。あのメリハリも好きよ」

「実はあれ、回によって選曲が変わるんです」

「あら、そうなの?」

「はい。よければレコードを持っているので、お貸ししましょうか?」

「ありがとう。ぜひお願いしたいわ」


 ルミナスがそう言うと、セオドアは朝の光のように爽やかな微笑みを浮かべた。ループ時から優しい目をしていたが、このように笑顔を向けてくれたことはなかった。

 自分が変われば相手も変わる。そんなことを、誰かが言っていたっけ。


「あぁ、でも、一つ衝撃を受けた部分があったのよ。今日はその内容の確認をしに来たのよ」

「それでこの本を?」

「ええ。冒頭の説明に出て来た神話――」


「万年筆が腕に刺さって人間が生まれたシーン」


 二人の声が重なった。セオドアがフッと眉尻を下げて笑った。やはり、ここは誰もがツッコミたくなるシーンらしい。


「実はこの万年筆、書物によって別の物で書かれているんです」

「そうなの?」

「はい。例えばこれ」


 セオドアが本の山から取り出したのは、『アメトリア王国設立記』


「これでは剣として書かれています」

「サイズが全然違うわね」

「そしてこっちは……」


 次に出されたのは『オブシディアン帝国と近隣諸国の関係』


「これには爪楊枝と」

「つ、爪楊枝? それだとあまり血は出なさそうだけど……」

「私もそう思います。だからこそ研究のしがいがあるのかもしれませんね」

「何か研究をなさっているの?」


 そうルミナスが聞けば、セオドアは「私ではなく家が」と付け加えた。


「ニフリート王国は書物の保存数が大陸一です。そのため、隣国のベリル共和国と共同開発を度々行うみたいで。私の家は代々王室図書館の管理を行なっているため、こういった書物に触れる機会が多いのです」


 そうだったのか。各国の特色は学んだことがあるが、自国ならまだしも、他国の貴族達がそれぞれ何をしているのかまでは知らなかった。

 セオドアは自身の役割に誇りを持っているようで、愛おしそうな手つきで本の表紙を撫でた。本好きでもありそうだ。

 そういえば、ベリル共和国出身貴族の中には、セレナの(元)恋人がいたはずだ。というか、よく考えれば、セレナの恋人達は全員違う国の貴族だ。オブシディアン帝国、ニフリート王国、ベリル共和国……エグマリヌ公国。よくバラけたものだ。この大陸には五つしか国がないため、多少被ってもおかしくはないだろうに。


(最後の国、このアメトリア王国の誰かとセレナがくっつけば、このループが終わったりして)


 いや、やめておこう。よくよく考えてみれば、たった一人の人間がこの世界を動かすなんてこと、あるはずがない。あったとしても、誰と結ばれるかが重要なんて、意味が分からない。

 もしそうだとして、ループを終わらせるためにセレナと誰かを無理にくっ付けようとしたり、逆に仲を引き裂いたりすることはしたくない。


 なら、どうすればいいか。


(……まず、舞踏会の終わりに死ななければいいのでは?)


 そうと決まれば、こうして呑気に本を読んではいられない。


「アルティスタ様」

「同級生ですし、セオドアでいいですよ」

「ではセオドア様。私、ちょっと用事ができたので帰るわ。レコードはまた見せてくださる?」

「えっ、ルミナス様?」


 私は図書室から駆け出した。

 はしたない。そんなことは分かっている。

 けれど、この時の私は、かつて出てことのないほどの名案に、気分が高揚してしまっていたのだ。


「ディラン!」

「ルミナス様?!」


 着いたのは鍛錬場。

 汗に濡れ、木刀を握るディランに近付いた。隣には拳を握るセレナの姿が。


「私を――」

「わ、私を?」


 何故か言葉をリピートするセレナ。

 ルミナスに手を掴まれ、たじろぐディラン。



「ムキムキにしてくださらない?」

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