11話 出会いはいつも突然に
大衆演劇は盛況のようで、場内まで人々でごった返しになっていた。背もたれのない小さな椅子に座って、ルミナスたちは演劇を観ている。
(令嬢達の噂もあって少し心配だったけれど、なかなか面白いわね)
初代国王についての話ではあるが、歴史物語というより恋愛物語だった。アメトリア王国を建てた初代国王と、彼を支え続けた初代王妃との馴れ初め部分が多い。歌と、踊りと、戦いと。様々な魅せ方をしてくれる。少し誇張が過ぎる部分もあったが、それも大衆演劇ならではの面白みだろう。
とはいえ、歴史にも触れられてはいて、その内容は興味を引かれるものだった。
戦の耐えなかった大陸を四つの大きな国にまで纏め上げ、自身の仲間をそれぞれの国王、皇帝などトップの位置に置かせたのは初代国王だ。そしてそれは信託によるものだという。なんと、国王は神の声が聞こえていたらしい。正確には創造主と言った方が正しいかもしれない。この国では神は創造主であり、創造主は神だからだ。
ただし、この信託や神の声が聞こえていた、という内容は、以前歴史を学んだ時は出てこなかったため、単なる脚色かもしれない。しかし、広大な大陸をたった一代でここまで治めてしまうのは、なかなか難しいことだろう。それもたった数年でだ。
(初代国王がこのような改革を行うことができた理由して語られた内容は、ちょっと無理があると思うけれど)
創造主が作った最初の地で生まれたとされている初代国王は、このお話ではその創造主の血を引いているのだと説明されていた。
ちなみに、この世界はうっかり万年筆が創造主の腕に刺さってしまい、その傷口から流れ出た血から作られたのだとされていた。これは流石にないだろうと思ったのだが、実際に言われている話しなのか気になるので学園の図書館で書物を探してみようと思う。
もちろん、このシーンは恐ろしくて見ることはできなかった。例えそれが演技で、本当に血を流していないとしても。
しかし、隣で観ているダンにふふ、と笑われたような気がしたルミナスは「ちゃんと観ましたけど何か」という雰囲気を出したのだった。
(あと気になったことは……特にないわね)
しかし、それはループに関するもので、という意味だ。仲間との友情、初代王妃(この時はしがない平民の女の子)をめぐる三角関係、迫り来る命の危機、仲間の裏切り、からの改心……などなど、次々と変わっていく展開に、ルミナスは目が離せないでいた。
気付くと一般客と一緒になって笑ったり、ハラハラしたり、感動したりしていたルミナスは、演劇が終わる頃にはすっかりその魅力を堪能してしまっていた。
「はぁ〜本当に面白かったわ」
「そうですね」
ルミナスは熱くなった目頭を押さえた。隣で拍手をしているダンも頷く。セレナはと言えば、涙で頬を濡らすどころか顔面で大洪水を起こしていた。ディランはミニドーナツを咥えながらも一応拍手はしているようだ。
拍手の音が小さくなってくると、退場のアナウンスが聞こえてきた。
「では、僕達も出ましょうか」
「マカロン」
「ええ、そうね。行きま、きゃっ!」
考えることは他も同じ。人にぶつかられたかと思うと、あっという間にルミナスは人々の渦に呑み込まれてしまった。
右から左、左から右へ。規則性のない波に揉まれに揉まれたルミナスは、セレナたちの姿を見つけることさえできなくなってしまったのだった。
(困ったわ。一度出てから探すしかないわね……)
せめてお財布はなくなさいように、と身を固くして流れに流される。
すると、誰かがルミナスの腕を掴んだ。
「こちらへ」
驚いた、と目を見開いたルミナスの瞳に映ったのは、緑色の鮮やかな瞳をした青年だった。やや深みのある柔らかな香色の髪を持つその青年は、ルミナスを安心させるように柔らかく微笑んだ。
そのまま青年に優しく手を引かれ、着いたのは出口だった。お礼を言おうと振り返ったが青年は既に消えてしまっていた。
(また、会うなんて)
顔が見えたのは一瞬で、暗がりだったため見えにくかったがルミナスの知っている人物で間違いないだろう。最も、相手はルミナスのことなど覚えているはずがないが。
優しかったな、と思いながらルミナスは握られていた腕を見つめた。
「ルミナス様〜!」
「うっ?!」
横から突進してきたのはセレナだった。勢いのままルミナスに抱きつかれ、ルミナスの体は三日月型に仰け反った。
「心配したんですよ! なんの抵抗もなく流されて行くんですから!」
「ご、ごめんなさい」
もう!と怒った顔を初めて向けられ、ルミナスは素直に謝った。
「見つかって何よりです」
「そうだ。道案内人がいなくなるのは困る」
「どれだけマカロンが食べたいのよ……」
「目的を完遂したいだけだ」
「……そういうことにしておくわ」
「ディラン様も探してくれていましたよ」
「あら、そうなの?」
セレナの言葉を聞きディランを見てみると、盛大なため息をついて反対側を向かれてしまった。
(また分かりにくい反応を……)
まぁいいか、とルミナスはマカロン専門店に向かうことにしたのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「本当にいいんですか?こんなに貰ってしまって」
「いいのよ。言ったでしょう? 回復祝いだって」
「ありがとうございます……私、大切に食べますから!」
お店でマカロンを買い終えたルミナスは、セレナの手に紙袋を握らせた。中身はもちろんマカロンだ。それもブラックペッパー味六個入り。
えへへ、と照れ笑いを浮かべるセレナを見て、ルミナスの胸は温かくなった。
「ルミナス様の顔を思い浮かべながら食べます!」
「そこは味に集中してちょうだい」
「あ! そういえばホットチリ味を買ったんです! ルミナス様もいかがですか?」
「遠慮しておくわ」
このやり取りに慣れてきたのか、なんて優しいんでしょうと感動するセレナの姿を見てもルミナスは呆れなくなった。ここまで来ると諦めの境地である。
それにしても、流石はマカロン専門店。味の種類がなんと豊富なことだろう。セレナの持っている期間限定のホットチリ味とブラックペッパー味を見てルミナスは思った。
「どれも美味しそうで悩んでしまいました」
お店から出てきたダンの箱を見てみると、薄緑色のマカロンと、黄色のマカロンが詰められていた。
「あら、ダンはライム味を買ったのかしら? それともピスタチオ?」
「いえ、ブロッコリー味です」
「ブロッ?! お、面白い味を選んだのね」
「そうですか? あ、もう一種はレモン味です」
「あらそう。(それは)美味しそうね」
「じゃあ一つどうぞ」
個包装された、弾けるような黄色をしたマカロンがルミナスの手にちょこんと乗せられた。
「えっ? いいのかしら?」
「はい。一人で食べるのもなんですから」
「ありがとう……(実はちょっと気になっていたのよね)」
それにしても、今出てきた二人だけを他人に見せれば、このマカロン専門店がかなりトリッキーな味を出すお店と勘違いされてしまいそうだ。この二人を見ていると、ストロベリー味、ラズベリー味、ブルーベリー味を選んだルミナスの味覚がおかしいように思えてくる。
「なんだそのベリーしかない箱は」
「べ、別にいいじゃない」
「駄目とは言っていない」
「そういうディランは何を選んだのよ?」
紙袋の中を覗いてみると、白色、薄茶色、茶色、焦げ茶色の順に綺麗なグラデーションになってマカロンが並んでいた。ルミナスと同じく二個ずつ頼んでいる。
「ホワイトチョコレート、モカ、チョコレート、コーヒー&チョコレート味だ」
「似たようなものじゃない」
でも美味しそうだ。
「……私も買ってこようかしら」
「今完売したみたいだぞ」
「えっ」
お店を見てみると、店員が閉店作業を行なっていた。ショーケースの中は空だ。
「また来ればいいだろう」
「それもそうね」
「じゃあ、その時はあのお店に行きませんか?」
セレナの声にディランと共に振り返ると、ティラミスを売りにしたカフェが見えた。
「決まりね」
「だな」
二人で目配せをし、今日のところは学園に戻ったのだった。




