29.ユイ
【友利紬視点】
明莉と逸れてから冒険者になった。
まだ駆け出しでD級だが、実力だけはA級クラスなので、A級3人と組んで依頼を受けている。
冒険者ギルドのドアを開け、外に出た時、声を掛けられた。
「あなたは、友利紬さんじゃないですか?」
「え、神崎蓮!?」
「お久しぶりです、元気にしていましたか?」
紬の左目は、神崎の剣で失明させられた。動揺し動悸が早くなる。
「はい、多少不自由ですが、元気に暮らしています」
「そうですか、その左目済みませんでした、僕も立場というものがあったので」
「いえ、気にしていませんので」
「いや、気にしてください。槍で突いたら《プスッ》っていったんですよ、《プスッ》と。あの感触、忘れられないなー。右目も僕に潰させてください」
「…」
「冗談ですよ冗談。そう警戒しないでください」
「そういえば佐藤明莉さんでしたっけ?彼女は一緒じゃないのですか?」
「今は別々に行動しています」
「へー、そうなんですか」
「失礼します」
「ええ、またお会いしましょう」
神崎の刺すような目が、友利紬の去る姿を追っていた。
………
……
…
昨日は神崎の出現に動揺したが、今は狩りの最中だ、狩りに集中しなけらば。
「今日の依頼はレッドベアの討伐と肉の確保だ!攻撃魔法は剛毛に阻まれ、目潰し以外ほとんど効かない。ユイ、随時泥沼魔法をかけながら、レッドベアの目を攻撃してくれ。途中から剣での攻撃にまわってもらう」
パーティ―リーダーの指示が飛ぶ。
「わかりました」
焦ることはない。レッドベアの討伐は今回が初めてではない。
少し距離がある。
「目を狙います
《精霊の力を我に》《エアカッター》」
レッドベアが首を振って避ける。
前衛の剣士が、レッドベアの足に切りつける。
剛毛に阻まれて切れない。
「泥沼行きます」
「《精霊の力を我に》《ボッグ》」
レッドベアが足を泥沼に足を取られる。
這い上がろうとしたところを、剣で攻撃するが、すぐ泥沼から這い出てしまった。
…
長期戦になった。
「目を狙います
《精霊の力を我に》《エアカッター》」
レッドベアが左手で顔面をカバーする。
その間にパーティ―リーダーが、レッドベアの足に切りつける。
レッドベアの足から血が流れてきた。
「よし、ユイ、剣で攻撃してくれ」
レッドベアの足元まで接近し、そのまま切りつける。
「ザクッ」
手応えがあった。
「いけるぞみんな」
パティーリーダーがパティーを鼓舞する。
「無理ですよ」
突然後ろから男の声が聞こえた。
神崎蓮だ!
別のレッドベアを引き連れ、その攻撃を器用に躱しながら行ったり来たりしている。
その後ろで2人の男がこちらの様子を伺っていた。
「それはレッドベア―か?」
パーティ―リーダーが叫ぶ。
「ええ、狩りたかったんでしょう。もう一匹連れてきてあげました」
「あげますよ」
神崎蓮が私達に近づき交差する。神崎蓮の連れてきたレッドベア―がターゲットが、パーティ―リーダーに移った。
「くそっ、MPKか!みんな、おれに構わず逃げろ」
パーティ―リーダーの必死に叫ぶ。
それまでレッドベア―の攻撃を防いでいた盾役のシェルトの頭がレッドベア―の攻撃を受け吹っ飛ぶ。
「「シェルト!」」
レッドベア―の目標が私達女性2人に移った。
「ユイさん、足にダメージを負っているはずです。集中攻撃します」
2人でレッドベア―の足を何度も何度も攻撃した。
「ガア」
レッドベア―が膝を着いた。
2人で左右の目を狙って剣を突き刺した。
「ガア~~」
口の中に剣を突き刺す。
「ガ」
もう一度、もう一度、もう一度…。
「ガ…」
レッドベア―の巨大な体が前のめりに倒れた。
…
少し離れたところで、パーティ―リーダーがもう一匹のレッドベア―と戦っていた。
「グワァ」
パーティ―リーダーがレッドベア―の爪に弾かれ、吹っ飛んだ。腹が抉られ内臓が飛び散っていた。
「「リーダー」」
パーティ―リーダーを倒したレッドベア―が、今度は私達に襲い掛かって来た。
「まだ終わりじゃないですよ。さあ、もっと足掻いてみせてください」
「いったい何を考えているんですか!」
怒りを込めて叫んだ!
「話をしてる暇があるんですか?」
神崎が面白そうに応えた。
私はレッドベア―に神経を集中させた。
「《精霊の力を我に》《ヘルファイア》」
業火の柱が、レッドベア―を包む。
まったく効かない。逆に怒って駆け寄って来た。
「《精霊の力を我に》《ボッグ》」
レッドベア―が泥沼に足を取られる。
レッドベア―の目を向け剣を突き刺したが、頭を振って躱される。
レッドベア―が泥沼から這い上がって来た。
…
「おい、レン。これの何処が面白いんだ?」
神崎蓮に近寄って来た2人の男がつまらなそうにいった。
「そうだな、おれは生きてる女の方がいい」
もう一人の男も賛同する。
「あなた達には分からないのですか、命を懸けた戦いの美しさと儚さが!」
「いや、いいよ、助けようぜ」
「分かりました、いいでしょう」
3人が戦いに参戦してきた。
3人の槍が、レッドベア―の手を斬り飛ばす。
3人の槍が、レッドベア―の足を斬り飛ばす。
3人の槍が、レッドベア―の首をかき切る。
「はい、終わり」
「で、どっちを頂いていいんだ?」
神崎蓮と一緒に居る男が卑しい目をして神崎蓮に話しかける。
「こっちの片目を潰している娘は私が頂きます。そっちの娘は好きにしてください」
………
……
…
【佐藤琢磨視点】
「明莉、こっちの方で業火の火柱が立ったように見えたよね?」
「うん、確かこっちだった」
男性3人と女性2人、何か揉めているようだ。
おれ達が近づくと、一斉にこちらを向いた。
「あれは、紬よね、そうよね?」
「いや、おれに聞かれても」
「紬なの~?」
「明莉ちゃん~」
紬が引き留める男を振り払ってこちらの駆けてきた。
「紬、何があったの?」
「あそこに居る男達が、MPKを仕かけてきたの!」
おれ達が近づいてくるのをみて、もう1人の女性が2人の男を振りほどき、駆け寄って来た。
「助けてください、人殺しです」
3人の男達が、冷たい目でこちらを見る。
「佐藤明莉さんでしたっけ?、お久しぶりです。お元気でしたか?」
真ん中の男が明莉に声を掛ける。
「後藤信也の友達の神崎蓮でしたっけ?…ええ、元気よ。後藤に負けた頃よりずっと」
明莉が右手を振って見せた。
「手が付いてる…」
神崎が驚いている。
「明莉ちゃん、手が付いてる!」
今更だが、紬も驚いている。
「おいレン、こいつらは何だ?」
神崎の右隣りの男が面倒くさそうにいった。
「この娘は私の知り合いです。といっても一度しか会ったことは無いですけど。隣の男は初対面ですね」
「女もちょうど3人になったし、なんでもいいか」
神崎の左隣の男が嬉しそうに言った。
「明莉、こいつらは?」
「あの真ん中の男が神崎蓮、かなり素行の悪い日本人。他の2人はこの世界の住人っぽいけど、知らない人」
「神崎が女を餌に集めたってとこか。村人Aと村人Bだね。放置すると被害者が増えそうだな」
「やっちゃいましょう!従兄ちゃん」
…
「その前に、あの殺された人達を助けるか!」
近くの死体に歩み寄る。
3人の男がおれの邪魔をするように取り囲む。
「勝手に何しようとしてるんですか?」
神崎の言葉を、面倒なので無視する。
村人Aが槍で斬りかかってきた。槍を叩き折る。
村人Bが槍で突いてきた。槍を叩き折る。
神崎が槍を振り回してきた。槍を叩き折る。
呆然としている3人を無視して、死体に近づく。
「《パーフェクトヒール》」
傷が見る見るうちに塞がり、息を吹き返した。
「がはっ」
「リーダー、大丈夫ですか?」
紬が駆け寄る。
「おれはいったい…」
もう一つの死体に近づく。こっちはかなり惨い。
「《パーフェクトヒール》」
頭と体がウニョウニョくっ付き、傷が塞がり、息を吹き返した。
「がはっ…」
「「シェルトさん大丈夫ですか?」」
「生き返ったのか!」
村人Aがつぶやく。
「生き返ったというレベルじゃねー、千切れた身体がくっ付いたぞ」
村人Bがつぶやく。
「何なんですか、その魔法は?」
神崎が喚く。
おれは振り返って3人を見た。
「お前ら、やり過ぎなんだよ《ホールド》」
3人の動きが止まった。
「「「動けない」」」
「何をしたー」
神崎が何か叫んでいるが、無視する。
リーダーがふらふらと立ち上がった。
「よく分からないが、助けてもらったみたいだな。礼をいう」
「いえ、それはいいとして、こいつらどうします?」
「正直、殺してしまいたいんだが」
リーダーが憎々しげに、3人を睨む。
「じゃあ、少し待ってください」
おれはレッドベア―の死体に近づいた。
「《パーフェクトヒール》《パーフェクトヒール》」
レッドベアの飛び散った体の破片がズリズリ近寄り、くっ着いていく。
…
「おれもこうやって生き返ったのか…」
「たぶんおれもです。リーダー…」
シェルトが震えながら言った。
…
二匹のレッドベアが蘇生する。
「ガァー」「ウオー」
《ホールド》《ホールド》
おれは束縛をかけ、2匹を動けなくした。
「彼らにレッドベアと戦ってもらいましょう」
「それじゃ、少し甘くないか?」
蘇生したレッドベアは動こうするが動けない。
「レッドベアの束縛魔法を少し弱めにかけておきました」
「そういうことか!」
リーダーが少し納得する。
「おいおい、冗談だろう?結局誰も死ななかったんだから、いいじゃないか?」
村人Aが叫ぶ。
「おい、どこに行く、こいつを解いていけ」
村人Bも叫ぶ。
「くっそ、食らいやがれ《精霊の力を我に》《ヘルファイア》」
神崎が業火魔法を放ってきた。
おれは右手で頭の上を払い、業火を消す。
「おれの魔法が消されただと!?」
(そういえば、こいつら魔法も使えるのか?)
『マスター、この周辺の精霊の力を吹っ飛ばしてしまえば、使えなくなります』
「んと…《エレメンタルリムーブ》ってこんな感じかな」
『はい、精霊の力が消えました』
(環境破壊って非難浴びそう。あまり使わないようにしよう…)
「それでは、みなさん帰りましょうか!」
「くっそ、《精霊の力を我に》《ヘルファイア》」
神崎は魔法を詠唱するが今度は何も起こらない。
「魔法が使えない!どうなってるんだ?おい、お前達も魔法を放て!」
「「「《精霊の力を我に》《ヘルファイア》」」」
「「「《精霊の力を我に》《ヘルファイア》」」」
…
神崎達3人が、必死におれ達に向け魔法を放とうと詠唱し続けるが何も起こらなかった。
おれ達は、彼らを無視して、狩場を後にする。
「くっそー。おい、やつらは放っておいてレッドベア―を殺るぞ」
おれ達が離れると、今度はレッドベア―に向け必死に魔法を放とうと詠唱する。が、やはり何も起こらない。
「「「くっそー《精霊の力を我に》《ヘルファイア》」」」
「「「くっそー《精霊の力を我に》《ヘルファイア》」」」
…
「くっそー、もう無理だ。お前のせいだ、レンーーーー!」
「「グオーーー」」
数十分後、レッドベア―の雄叫びが聞こえると同時に、3人の詠唱する声が止んだ。
………
……
…
宿屋:
友利紬はパーティ―から離れ、おれ達と行動を共にすることになった。
「改めまして、友利紬です。助けて頂きありがとうございました」
「明莉の従兄の佐藤琢磨です。明莉がいつもお世話になっております」
「あ、私のことは、紬とお呼び下さい。《お兄様》」
「2人して、なに固っ苦しい挨拶してんの?それにユイ、《お兄様》ってなに?」
「明莉の従兄ちゃんなんで、《お兄様》と呼んでみたの」
「却下します」
…
「じゃあ、紬の目を直すね」
「私にもあのすごい回復魔法をかけていただけるんですか?」
「ああ、《パーフェクヒール》」
紬の凹んでいた目の辺りが少し盛り上がる。
「くぅっ」
「もしかして痛かった?」
「いえ、目の奥の痛みが消えました。少し神経が刺激されたというかなんというか…」
「左目を開いてみて」
紬がそうっと左目を開く。
「あ、見えます。琢磨さんの顔もしっかりと」
「うん、大丈夫そうだね」
その後、明莉と紬は、逸れた時の状況やその後のお互いの行動について語り合っていた。
…
「そうだ紬、王都で従兄ちゃんと紬が再現したパンを食べたの」
「おお、あれは美味しかったな」
「紬、従兄ちゃんも醤油を再現したのよ」
「え、醤油を作ったんですか!是非味見をさせてください」
すごい勢いで食いついてきた。
「あ、これなんだけど」
といい、醤油を出した。
「失礼します」
といい、指にたらし舐めてみる。
「本当に醤油です。懐かしいです」
少し震えながらつぶやいた。
「これが種麹。味噌もあるよ」
麹と味噌も出してみせる。
「すごいです。ほかにも調味料持っていませんか?」
「にがりと、あと昆布くらいかな」
「大好きです。琢磨さん」
大好き宣言されたけど、話の流れでの戯言だよね。
「今日は私に醤油を使った料理を作らせて下さい」
といい、何やら料理について色々考えているようだった。
「食材を買いに行ってきます」
……
…
宿屋の自炊場を借りる
「ふんふんふん」
…
「すみません、私の食べたかった物ばかり作りました。日本酒が無かったので白ワイン風味です」
味噌汁。米のご飯。ほうれん草風お浸し。肉じゃが。ざる豆腐。カレイ風干物の焼き魚。
どれも美味しかった。
「十分な調味料もないのに、よくこれだけの物を作ったね。美味しいよ」
「ありがとうございます。琢磨さん。一緒にもっともっと調味料を集めましょう」
…
「ねえ紬、神崎に負けたとき悔しくなかった?」
「うん、悔しかったよ。好きでもない人に嬲られのは嫌」
「じゃあ、強くなってみる?」
「強くなれるの?」
琢磨が持つ、能力アップの剣で練習すると強くなれると説明する。
…
「紬、杖が無いんだけど、槍でも大丈夫か?」
「はい、槍も練習しましたので大丈夫です」
「はい、これが30倍の槍だよ」
「振ってみていいですか?」
「うん、気を付けて」
「えい」
槍が凄まじい速度で振り下ろされる。
「カラン」
紬が槍を離し、両手で自分の体を抱くように蹲る。
(やはり激痛が走るのか?明莉もそんな感じだったな)
と、思った瞬間、今度は琢磨に抱き着いてきた。
「え!」
慌てて回復魔法をかける
「《パーフェクトヒール《|完全回復》》」
「くふぅ」
「え!紬、大丈夫?」
紬が琢磨に抱き着いたまま、眼を伏して震えている。
「凄いです。琢磨様」
(何が凄いんだろう?)
「大丈夫なの?」
「大丈夫といえば…大丈夫です」
明莉がジド目で見てた。
「じゃあ今度は魔法を放ってみて」
「《精霊の力を我に》《ファイアボール》」
巨大な火の球が放たれる。
「カラン」
紬が槍を離し、呆けた顔で空を見上げる。
慌てて、マリアンさん特製の飴を口の中に入れる。
「紬、大丈夫?」
「呆けて涎を垂らしている私の口の中に、飴を入れてくれたのですね。琢磨様」
「あ、はい」
明莉が、ジド目で見てた。
…
こうしておれ達は、紬の特訓をしながら、《転移の洞窟》の情報を収集するのだった。
昨夜4ptになりました。うれしいっす




