27.アカリ
ペルジュ王国:
後藤隼人が女を物色しながら街道を歩いている。
バグナール帝国を脱走した後、毎日のように女を漁っていた。
顔なじみの娘を見つけた。
「佐藤明莉か、久しぶりだなー」
「くっ、後藤隼人!」
佐藤明莉は咄嗟に逃げようとした。
「逃がさねえよ」
後藤隼人が佐藤明莉の進行方向に回り込む。
佐藤明莉が剣を抜く。
右手を切り落とされてから、左手の片手剣になった。
片手だとどうしても剣のスピードが遅くなるため、極限まで剣を軽くした。
突きを多用した戦い方に変えた。
受けに回ると剣が弾かれるので、常に攻めることを心がけた。
使えるものは何でも使うことにした。
ただ、精霊の力が落ちてた。
「おい、明莉、お前はおれには適わない。降伏しておれの物になれ」
「死んでも嫌よ」
「ならもう片方の腕も切り取って、抵抗できなくしてから可愛がってやる」
「《精霊の力を我に》《ボッグ》」
佐藤明莉が泥沼魔法を発動する。
泥沼化が完了する前に、後藤が地面を蹴って飛び退いた。
彼の着地点を予想して再度
「《精霊の力を我に》《ボッグ》」
泥沼化が完了している。これで彼は泥沼にはまるはず!
だが、後藤は足が沈む前に高速で足を動かし、こちらに向かって走って来た。
交差した瞬間、とっさに右手の剣で突きを繰り出す。躱される。
そのまま速度を落とさずに通り過ぎ、50メートルの距離で立ち止まった。
「《精霊の力を我に》《ヘルファイア》」
「《精霊の力を我に》《バリ…》」
魔法を予想してバリアで防御しようとするも、間に合わない。
「キャー」
精霊の力が落ちているため、致命傷に成りかねないような損傷を負う。
全身が焼け爛れ激痛が走る。目が開かない。
「うぅぅ…」
「やっぱ、お前はいらねーや」
後藤が振り上げた剣を振り下ろす。
「ギャー」
佐藤明莉の右腕が斬り飛ばされた。
後藤が剣を振り上げる。
「お前はこんな何処かも分からない世界で、誰にも知られずに死ぬんだよ。じゃあな」
剣が振り下ろされた。
「《バリア》」
「カキン」
後藤が振り下ろした剣が弾かれた。
「《パーフェクトヒール》」
明莉の火傷がみるみるうちに治り、左右の腕が生えていく。
(全身の痛みが消えていく。両手がむず痒い)
明莉が目が開いた。
…
「大丈夫ですか?ペルジュ王国の方ですよね…?え、お前、明莉か?」
「…え、従兄ちゃん?
うわーん~~~うわーん~~~従兄ちゃ~ん」
…
「なんだてめー」
感動の再会を無視して、後藤が斬りかかってきた。
おれが明莉に覆い被さるよう明莉を抱きしめ、後藤の剣を背中で受ける。
「ドシッ」
切りつけてもビクともしない。
「なんだ!くそっ」
「ドシッ」「ドシッ」「ドシッ」
「なぜ斬れねー」
「お前が弱いからだろう?」
「おれが弱い!?ふざけるな、おれは無敵だ、誰よりも強えーんだよ」
「明莉、痛いところない?」
「あれ?ぜんぜん痛くない。腕も元に戻ってる。服が焼け焦げている…キャーーー」
際どいところを残し、服のほとんどが焼け焦げてボロボロに破けていた。
「とりあえず、これ着て」
おれは格納魔法で、ゴードンさんから貰ったマントを取り出し渡して上げた。
明莉がマントを羽織る。
「ちょっと従兄ちゃん、これ短いんですけど」
見ると上半身用の短いマントだった。
「無視すんじゃーねー。誰なんだてめーは?」
後藤が喚く。
「あー、うちのお爺ちゃんとお祖母ちゃんには3人の子供が居て、
長男が大地叔父さんで、次男がうちの父親で、その妹が明莉の母親で、
おれと明莉はいとこ同士という関係になる」
「馬鹿みてーに長い説明の割には、自分の名前も名乗ってねーじゃねーか」
「ああ、佐藤琢磨だ!よく覚えておけこのクソ野郎!」
「そうか、おれはごと「バゴッ」」
おれの拳が後藤の口にめり込んだ。前歯の数本が飛んで行く。
「興味ねー」
後藤が後ずさりながら距離をとる。
「てめーぶっ殺してやる。《精霊の力を我に》《ヘルファイア》」
業火魔法を放ってきた。
おれは頭上を手のひらで払い、業火を消す。
「き、消えた?」
「《精霊の力を我に》《ヘルファイア》」
再度業火魔法を放ってきた。
おれは頭上を手のひらで払い、再度業火を消す。。
得体の知れないものでも見たような、怯えた顔でおれを見つめる。
ゆっくりと後藤に歩み寄る。
「うわー」
後藤が叫びながら剣を振り下ろす。
「バキッ」
左手でその剣を掴み、砕く。
そのまま左手で後藤の胸倉を掴み、体を持ち上げた。
「うわーーー」
慌てて後藤がおれの顔面を殴るが、おれはそれを無視する。
後藤の顔面を殴る。
「ひぃ」
殴る。殴る。殴る。
「ひぃ、いたっ、いでっ」
何度も何度も殴り続ける。
…
「かん、べん、して、くだ、さい、さ、とう、さん、…」
後藤の意識が途切れた。顔面が血に染まり崩壊していた。
おれが手を離すと後藤がその場で崩れ落ちていった。
『精霊の力が抜けていきす。敗北して心の折れた者には興味がなくなるのでしょう』
(精霊も結構冷たいんだな)
…
「本当に従兄ちゃんなの?」
「ああ、異世界に飛ばされてしまってね。明莉も異世界に飛ばされたってとこか?」
「うん、従兄ちゃんが行方不明になってから1年くらい後に」
「大騒ぎになったろう?」
「うん、従兄ちゃんが行方不明になった後、従兄ちゃんの部屋から凄い内容のエロ本が見つかって、悲しんでいいやら呆れていいやらで、叔母さんも複雑な顔をしていた」
「…だよねーあれ見たらそうなるよねー」
「大丈夫、私ならあの性癖も耐えてみせるから」
「…いや、そもそも興味本位なだけで、性癖じゃないからね」
「こんなマント着せといて、いい訳しなくても大丈夫」
「明莉は何処で、転移に巻き込まれたんだ?」
「駅のホームで電車を待ってたら。従兄ちゃんは?」
「おれはコンビニ帰りに」
その後、おれ達はこの世界に転移した経緯や、どう過ごしてきたかなどをしばらく語り合った。
……
…
「従兄ちゃん、マティルダさんって人を探しにここに来たんだ!?」
「明莉はその友利紬って友達とペルジュ王国のお姫様を探すのか?」
「うん、紬は一緒に逃げたんだけど途中で逸れてしまって」
「この国は今どういう状況なんだ?」
「バグナール帝国から来た人達は暴走気味で、旧ペルジュ王国の人達は政権奪回に向けて戦ってるって感じ」
「じゃあペルジュ王国の人達を助けようか」
「従兄ちゃんがいれば無敵ね。頼りにしてるわ」
………
……
…




