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また君にあえた日  作者: 日向


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4/10

ねこさんと、はるとの宝物

朝、ひまりが玄関のドアを開けると、そこには昨日と同じ茶色と白の猫が座っていた。

「あっ! 猫さん!」

 猫は、ひまりを見ると小さく鳴いた。

「にゃあ」

「おはよう!」

 ひまりはしゃがみ込んだ。

 けれど、猫はすぐに逃げようとはしなかった。

 ひまりが手を伸ばしかけると、猫は少しだけ後ずさりした。

「あ、ごめんね。びっくりしちゃった?」

 ひまりは手を引っ込めて、にこにこしながらその場に座った。

「ひまり、学校に行く時間よー!」

 お母さんに呼ばれ、ひまりは慌てて立ち上がった。

「猫さん、またあとでね!」

 猫は、まるで返事をするように、もう一度鳴いた。

 ひまりは嬉しくなって、黄色い帽子をかぶり直した。

 今日も、いい一日になりそうだった。

     *

 学校から帰ると、ひまりはランドセルを置いて、すぐに庭へ出た。

 猫は、まだ玄関先にいた。

「まだいたの!?」

 ひまりは驚いて、それから嬉しそうに笑った。

 お母さんが用意してくれた猫用のご飯を、少し離れた場所に置く。

「ここに置いておくね」

 猫はしばらくひまりを見つめていたが、やがてそろそろと近づき、ご飯を食べ始めた。

「おいしい?」

 ひまりが小さな声で尋ねる。

 もちろん、猫は答えない。

 けれど、夢中で食べている姿を見て、ひまりは満足そうにうなずいた。

「よかった!」

「ひまり、また猫とお話ししてるのか?」

 声のした方を向くと、学校から帰ってきたはるとが立っていた。

「はるとお兄ちゃん! この猫さん、昨日からいるの!」

「へえ。ずっとここにいるのか?」

「うん! ご飯も食べてくれたよ!」

 はるとは猫の様子を見ながら、ゆっくりしゃがみ込んだ。

「どこかのおうちの猫かなあ」

「おうち、ないのかな?」

「まだわからないな。首輪もないし……」

 はるとは少し考えてから言った。

「母さんにも相談してみるよ。近所で探してる人がいないか聞いてみよう」

「うん!」

 ひまりは元気よく返事をした。

 猫はご飯を食べ終わると、二人を見上げて、小さく鳴いた。

「にゃあ」

「おかわりかな?」

 ひまりが言うと、はるとは笑った。

「ひまりは、食いしん坊だからなあ」

「はるとお兄ちゃんだって、給食のおかわりするんでしょ!」

「なんで知ってんだよ!」

 二人は顔を見合わせて笑った。

     *

 次の日、はるとは学校から帰ると、小さな箱を持ってきた。

「ひまり、これ見てみろよ」

「なあに?」

 箱の中には、古い写真が何枚か入っていた。

「部屋を片づけてたら出てきたんだ。昔の写真」

 はるとは一枚を取り出した。

 そこには、まだ小学生だったはるとと、小さな三毛猫が写っていた。

 猫を両手で包むように抱き、満面の笑みを浮かべている。

「わあ! かわいい猫さん!」

 ひまりは写真をのぞき込んだ。

「この子、ミケっていうんだ」

「ミケ?」

「うん。昔、よく会いに行ってた野良猫なんだよ」

 はるとは、写真の端を指でそっとなぞった。

「毎日ご飯をあげたり、雨の日に段ボールを置いてあげたりしてたんだ」

「そうなんだ!」

「でも、ある日、交通事故に遭っちゃってさ」

 はるとの声が少し小さくなった。

「助けてあげられなかったんだ」

 ひまりは、写真の猫をじっと見つめた。

 懐かしい景色だった。

 あの路地。

 あの段ボール。

 そして、いつも優しく笑ってくれた男の子。

 ひまりは、思わず写真に手を伸ばした。

「……この猫さん、はるとお兄ちゃんのこと、大好きだったんだね」

 はるとは驚いたように顔を上げた。

「え?」

「だって、こんなに優しいお顔してるもん!」

 ひまりは、にっこりと笑った。

「きっと、いっぱい嬉しかったんだよ!」

 はるとはしばらく黙っていた。

 それから、少し照れくさそうに笑った。

「……そうだといいな」

 ひまりは写真をもう一度見た。

 自分のことなのに、なんだか不思議な気持ちだった。

 でも、はるとが悲しそうな顔をしなくなったので、ひまりはほっとした。

「はるとお兄ちゃん!」

「ん?」

「ミケちゃん、きっと今も元気だよ!」

 はるとは少し驚いたあと、優しく笑った。

「そうだな。そうだったらいいな」

     *

 その日の夕方。

 ひまりは、玄関先で猫と並んで座っていた。

 猫は、ひまりの膝の近くで丸くなっている。

「ねえ、猫さん」

 ひまりは、小さな声で話しかけた。

「ミケちゃんっていう猫さん、知ってる?」

 猫は、しっぽをゆっくり揺らした。

「はるとお兄ちゃんね、その猫さんのこと、今でも覚えてるんだよ」

 ひまりは、空を見上げた。

「だからね、ひまりも、この猫さんのこと、いっぱい覚えておくね」

 猫は、ひまりの手に鼻先を近づけた。

 そして、ほんの少しだけ、頬をすり寄せた。

「わあ……!」

 ひまりは目を輝かせた。

「なかよしになれたね!」

 そこへ、はるとがやってきた。

「ひまり、何してんの?」

「見て見て! 猫さんが、すりすりしてくれたの!」

「おお、すごいじゃん!」

 はるとは笑って、猫を驚かせないように、そっと手を差し出した。

 猫は少し迷ったあと、はるとの指先にも鼻を近づけた。

「お前も、誰かにかわいがってもらってたのかな」

 はるとは優しくつぶやいた。

 ひまりは、その横顔を見つめていた。

 いつか、はるとに本当のことを話す日が来るのだろうか。

 自分が、昔のミケだったこと。

 はるとの優しさを、今でも覚えていること。

 でも、今はまだ、言わなくてもいい。

 はるとが笑っていて、猫がお腹いっぱいで、みんなが幸せなら、それでいい。

「はるとお兄ちゃん!」

「ん?」

「明日も、猫さんに会いに来ようね!」

「もちろん!」

 二人は笑い合った。

 夕暮れの庭で、三人の影が長く伸びていく。

 ひまりは猫の頭をそっとなでた。

 今度こそ、ずっと一緒にいられますように。

 そんな願いを胸にしまいながら。

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