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また君にあえた日  作者: 日向


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2/10

ひまりとはるとの、秘密の場所

ひまりが小学生になって、二週間がたった。

 毎朝、黄色い帽子をかぶって、ぴかぴかのランドセルを背負って学校へ行く。

 お隣のはるとは中学生。

 家を出る時間が少し違うので、毎日一緒に登校できるわけではないけれど、ひまりは朝になると、いつもお隣の玄関を気にしていた。

 今日も、はるとが出てくるのを待っている。

「ひまり、そんなに見ていたら、はるとくんが出てくる前に学校に遅れちゃうわよ」

 お母さんに言われて、ひまりは慌てて時計を見た。

「ほんとだ!」

 ちょうどそのとき、お隣の玄関が開いた。

「おはよー、ひまり!」

「はるとお兄ちゃん! おはよう!」

 はるとは、いつものように笑いながら手を振った。

「学校、楽しいか?」

「うん! 昨日ね、折り紙でうさぎさん作ったの!」

「へえ、すごいじゃん」

「あとね、給食のカレーがおいしかった!」

「そっちの話のほうが大事そうだな」

「うん! おかわりしたよ!」

 ひまりが胸を張ると、はるとは声を出して笑った。

「じゃあ、今日もいっぱい食べてこいよ」

「はーい!」

 たったそれだけの会話だったけれど、ひまりは朝からご機嫌だった。

     *

 その日の放課後。

 ひまりが家に帰ると、庭先ではるとがしゃがみ込んでいた。

「はるとお兄ちゃん、なにしてるの?」

「お、ひまり。これ見てみろよ」

 はるとの足元には、小さな植木鉢が置いてあった。

 土の真ん中から、緑色の芽がちょこんと顔を出している。

「これ、なあに?」

「ひまわり。学校でもらった種を植えてみたんだ」

「ひまわり!」

 ひまりは、植木鉢の前にぺたんと座った。

「お花、咲くの?」

「ちゃんと水をやって、お日さまに当ててやればな」

「いつ咲くの?」

「うーん、もうちょっと先かな」

「明日?」

「明日じゃないな」

「じゃあ、あさって?」

「もっと先!」

 はるとは困ったように笑った。

「花が咲くまで、毎日お世話してやらないとな」

 ひまりは、うんうんとうなずいた。

「ひまりもお手伝いする!」

「ほんとか? じゃあ、一緒に育てようぜ」

「うん!」

 ひまりは嬉しくて、ぱちぱちと手を叩いた。

 これから毎日、はるとと一緒にお花のお世話ができる。

 考えただけで、楽しみで仕方がなかった。

     *

 それから、二人の新しい日課が始まった。

 学校から帰ると、ひまりはランドセルを置いて、お隣の庭へ向かう。

「はるとお兄ちゃーん! お水持ってきたよ!」

「おう、ありがとな」

 二人で小さなじょうろを持ち、植木鉢に水をあげる。

 はるとは水をあげすぎないように教えてくれた。

 ひまりは、土がびしょびしょになるまで水を入れようとして、何度も止められた。

「ひまり、そんなにあげたらお花がおぼれちゃうぞ」

「えっ! お花、おぼれちゃうの!?」

「いや、そういう意味じゃないけど……」

 はるとは笑いながら、じょうろを受け取った。

「ちょっとずつでいいんだよ」

「そっかあ!」

 ひまりも一緒に笑った。

 ある日は、植木鉢の近くに小さな虫がいた。

「はるとお兄ちゃん! むし!」

「お、なんだろうな」

「こわい?」

「別に怖くないよ。小さいしな」

 はるとがそっと葉っぱの上に逃がしてあげると、ひまりは目を丸くした。

「はるとお兄ちゃん、すごーい!」

「これくらい普通だって」

 はるとは照れくさそうに頭をかいた。

 そんな毎日が、ひまりは大好きだった。

     *

 ある日の夕方。

 ひまりがいつものように庭へ行くと、はるとは植木鉢の前に座ったまま、じっと土を見つめていた。

「はるとお兄ちゃん?」

「……あ、ひまり」

「どうしたの?」

 はるとは、少し困った顔をしていた。

「芽がさ、なんか元気ないんだよな」

 見ると、昨日までぴんと立っていた葉っぱが、少ししおれていた。

「お水、足りなかったのかな」

「ちゃんとあげたんだけどなあ」

 はるとは、しょんぼりと肩を落とした。

 ひまりは植木鉢をのぞき込んだ。

 猫だった頃、雨の日に濡れてしまったことがあった。寒くて、動けなくて、どうしたらいいのかわからなかった。

 あのとき、はるとはタオルを持ってきてくれた。

 何も言わず、ただそばにいてくれた。

 ひまりは、はるとの隣にちょこんと座った。

「……だいじょうぶだよ」

「え?」

「お花さん、きっと元気になるよ!」

 ひまりは、にこっと笑った。

「だって、はるとお兄ちゃんが、いっぱいお世話してるもん!」

 はるとは、少しだけ目を丸くした。

 それから、ふっと笑った。

「……そうだな。もうちょっと様子を見てみるか」

「うん!」

 二人は並んで、植木鉢を眺めた。

 しばらくすると、はるとがぽつりと言った。

「ひまりって、ほんと元気だよな」

「そう?」

「うん。ひまりがいると、なんか楽しいんだよな」

 ひまりは、にぱっと笑った。

「ひまりも、はるとお兄ちゃんといると楽しいよ!」

「そっか」

 はるとは、優しくひまりの頭をなでた。

「じゃあ、明日も一緒にお世話しような」

「うん! 約束!」

 二人は小指を絡めた。

     *

 次の日の朝。

 ひまりが庭へ出ると、植木鉢の芽は昨日より少しだけ元気になっていた。

「はるとお兄ちゃん! 見て見て!」

 はるとも玄関から出てきて、植木鉢をのぞき込んだ。

「おっ、ほんとだ!」

「元気になったね!」

「よかったなあ」

 二人は顔を見合わせて笑った。

 まだ、お花は咲いていない。

 いつ咲くのかも、わからない。

 けれど、毎日少しずつ大きくなっていく芽を見るのは、とても楽しかった。

 ひまりは、ちいさな葉っぱにそっと手を振った。

「おはよう、お花さん!」

「まだ花じゃなくて芽だけどな」

「じゃあ、おはよう、芽さん!」

 はるとは、また大きな声で笑った。

 その笑い声を聞きながら、ひまりも一緒に笑った。

 お隣同士の二人。

 年齢は違うけれど、二人には同じ楽しみができた。

 いつか、大きなひまわりが咲く日まで。

 明日も、その次の日も。

 二人はきっと、ここで一緒に水をあげる。

 そして、ひまりはまだ知らない。

 この小さな植木鉢が、いつか二人にとって、忘れられない大切な思い出になることを。

 今日も、お隣の庭には、二人の笑い声が響いていた。

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