↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
また君にあえた日  作者: 日向


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/10

また、あえたね!

私は、もともと野良猫だった。

 お父さんもお母さんもいなくて、毎日ひとりでご飯を探していた。

 雨の日は寒いし、お腹はいつもぺこぺこ。人間が近づいてくると、怖くてすぐに逃げていた。

 でも、ひとりだけ違う人間がいた。

「ミケー! 今日も来たよ!」

 小学生の男の子だった。

 男の子は、私を見つけるといつもニコニコ笑ってくれた。

「今日はね、お母さんに猫のおやつ買ってもらったんだ!」

 男の子は小さな袋を開けて、私の前に置いてくれる。

 私は最初、怖くて近づけなかった。

 でも、男の子は無理に触ろうとしなかった。

「大丈夫だよ。ここに置いておくからね」

 そう言って、少し離れたところに座っていた。

 私がおやつを食べ始めると、男の子はとっても嬉しそうに笑った。

「おいしい? よかった!」

 それから男の子は、毎日のように会いに来てくれた。

 雨の日には段ボールを置いてくれた。

 寒い日には、古いタオルを持ってきてくれた。

 帰るときには、いつも同じ言葉を言った。

「また明日な、ミケ!」

 私は、その声が大好きだった。

 にゃあ、と鳴くと、男の子はもっと嬉しそうに笑ってくれた。

 そんな毎日が、ずっと続くと思っていた。

 でも、ある日のこと。

 私は道路の向こうに、おいしそうな匂いを見つけた。

 お腹がぺこぺこだった私は、夢中で走り出した。

 そのとき――

 キキィッ!

 大きな音がした。

 ドンッ!

 体が痛くなって、私は動けなくなった。

 どうしよう。

 起き上がれない。

 目の前が、だんだんぼんやりしてきた。

「ミケッ!!」

 遠くから、男の子の声が聞こえた。

 男の子が走ってきて、私のそばにしゃがみ込んだ。

「ミケ! ミケ! どうしたんだよ……!」

 男の子は泣いていた。

 私は、いつもみたいに男の子の手にすり寄りたかった。

 もっとおやつを食べたかった。

 もっと一緒にいたかった。

 でも、体が動かなかった。

 男の子の顔が、だんだん遠くなっていく。

 私は、ゆっくり目を閉じた。

     *

 次に目を覚ましたとき、私は真っ白な場所にいた。

 ふわふわしていて、なんだか雲の上みたいだった。

『もう一度、生きたいかい?』

 どこからか声が聞こえた。

 私は、あの男の子のことを思い出した。

 また会いたい。

 もう一度、おやつをもらいたい。

 もう一度、頭をなでてもらいたい。

 そう思ったら、まぶしい光が私を包んだ。

     *

「おぎゃあああっ!」

 気がつくと、私は人間の赤ちゃんになっていた。

 手も足も小さくて、うまく動かせない。

 お腹が空いたら泣くしかないし、眠たくなったら勝手に眠ってしまう。

 猫だったときより、ずっと不思議な生活だった。

 でも、優しいお父さんとお母さんがいた。

 お腹が空けばミルクをくれるし、泣いていたら抱っこしてくれる。

 あったかいお布団もあって、ご飯の心配もしなくていい。

 私は、すくすく大きくなっていった。

 そして三歳になった春。

 お母さんと庭で遊んでいると、隣の家から声が聞こえた。

「行ってきまーす!」

 私は、ぴたっと動きを止めた。

 この声、知ってる!

 お隣の門から出てきたのは、ランドセルを背負った男の子だった。

 少し背が高くなっていたけれど、優しい目も、笑った顔も、ちゃんと覚えていた。

 あの男の子だ!

 ミケって呼んでくれた男の子!

「おにいちゃん!」

 私は、柵のところまで走っていった。

 男の子が振り返る。

「ん? どうしたの?」

「こんにちは!」

 私は、にこーっと笑った。

 男の子は少しびっくりしたあと、笑顔になった。

「こんにちは! 俺、はると!」

 はると!

 私は、嬉しくてぴょんぴょん跳ねた。

「ひまり!」

「ひまりちゃんか! よろしくな!」

 はるとは、柵の向こうから私の頭をそっとなでてくれた。

 その手は、猫だったときと同じくらい、あったかかった。

「じゃあ、ひまり! 学校行ってくるな!」

「うん! いってらっしゃい、はるとお兄ちゃん!」

 はるとは笑って、手を振ってくれた。

 私は、見えなくなるまで手を振った。

 やったあ!

 また、はるとに会えた!

     *

 それから、月日は流れた。

 私は六歳になって、もうすぐ小学生。

 はるとは中学生になって、ずいぶん背が高くなった。

 前みたいに毎日遊ぶことはできなくなったけれど、学校から帰ると、時々うちに来てくれる。

「ひまり、今日学校どうだった?」

「楽しかったよ! 給食にプリンが出たの!」

「いいなあ。俺もプリン食べたい」

「じゃあ、今度お母さんに作ってもらうね!」

「ほんとか? やった!」

 はるとは、いつも笑ってくれる。

 私は、はるととおしゃべりする時間が大好きだった。

 ある日、はるとが小さな猫のキーホルダーを持ってきてくれた。

「これ、ひまりにやるよ。猫好きだろ?」

「わああ! かわいい!」

 私は、キーホルダーをぎゅっと握った。

「ありがとう、はるとお兄ちゃん!」

「どういたしまして!」

 その日の夜、私はキーホルダーを枕元に置いて眠った。

 夢の中で、私は小さな猫になっていた。

 はるとが笑いながら、おやつを差し出してくれる。

「また明日な、ミケ!」

 私は嬉しくなって、にゃあ、と鳴いた。

     *

 朝になって目を覚ますと、窓の外から声が聞こえた。

「ひまりー! 行ってくるぞー!」

 窓を開けると、制服姿のはるとが手を振っていた。

「はるとお兄ちゃん、いってらっしゃーい!」

「おう! また帰ったらな!」

 私は、にこにこしながら手を振った。

 今日も、はるとに会えた。

 明日も、きっと会える。

 だって、おうちがお隣さんだもん!

 私は、猫だったときのことを全部覚えている。

 でも、難しいことはよくわからない。

 ただ、はるとが優しくしてくれると嬉しい。

 はるとが笑っていると、私も笑顔になる。

 だから、これからもいっぱい遊びたい。

 いっぱいおしゃべりしたい。

 そして、いつかまた、はるとに猫のおやつをもらいたい。

 ……あれ?

 今の私は、人間だから、おやつは食べられないのかな?

 まあ、いっか!

 今日も、はるとお兄ちゃんに会いに行こう!

 私はランドセルを背負って、元気いっぱいに玄関を飛び出した。

 お隣の家から、はるとの笑い声が聞こえた。

 それだけで、今日もとってもいい日になりそうだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。