雌蝙蝠5.住処に迷い込んだ男の子と出会ったヴァンパイア
ミモザからこれまでの話を聞いて、今の自分の全てを思い出した訳ではないけど、『ウチ』という一人称は気に入ってるし、にんにくを大量に食べていても、受け入れてくれる人達がいるから決して孤独ではない。
(アリウムは時々様子を見に来てくれるし、ミモザにも悩み事を伝えてくれるので大体解決できる。ルドベキアさんの畑には、週に1度訪れて収穫や肥料まきなどを手伝ってにんにくをもらったり、世間話を楽しんでいる)
孤独ではないけど、何かが足りない気がする。考えても答えは出ないので、料理をする事にした。もちろん、にんにくを使う。
住処であるこの森には、野生動物や食べられる植物が数多く自生している。生にんにくの丸かじりが1番好きだけど、栄養が偏る事に気付いたので、前世の記憶を頼りに色々作っているのだ。最近のお気に入りはにんにくと野草の炒め物。番達の食事の為に飼っている、乳牛から搾った新鮮なバターを使うのでコクのある味に仕上がる。
アリウムが来た時は、にんにくなしで大量に作って近所の番達におすそ分けしてもらう。本当は直接配りたいけど、ヴァンパイア達にはしみついたにんにく臭で近づけないので、アリウム経由で頼むのだ。するとお返しに血抜きした動物の肉や魚、他の料理をくれるので、血が苦手なウチでも倒れずに肉の調理ができる。前世の言葉で言えばWin-Winの関係だね。料理の評判も上々だと彼から聞いたし。
今日は彼が来ない日なので、にんにくをたっぷり入れて炒める。美味しそうな匂いが漂い始めた頃、戸を叩く音がした。
(アリウムは来ないはずだけど、何かあったのかも…)
火から鍋を外して玄関へ向かう。戸を開けると、貧相な少年が立っていた。
「お姉さん、助けて…」
少年はそう言い残すと、気を失って倒れてしまった。
「大丈夫!?必ず助けるから!」
ウチは彼を抱き上げて、ベッドの上に寝かせた。
(すごく軽い。今にも消えてしまいそうだわ…)
彼の額に触れるとかなり熱く感じたので、木桶に水を汲んで布を濡らしたものを額に乗せた。
「うっ…」
「辛いよね。少しでも楽になるといいね!」
肩を叩いて声をかけると、ほんの僅かに頷いた気がした。その後も水で濡らした布で体を拭いたり、口元に水を含ませた布を絞ると飲んでくれるので少しずつ回復しているようだ。
「お昼を作りかけていたから、少し離れるよ」
空腹を感じたウチは、一旦キッチンに戻り、炒め物を完成させる。ついでに、彼が目を覚ました時に食べられるようにパン粥も作った。
様子を見に彼の下へ戻ると、意識を取り戻したのか、うっすらと目を開けた。
「よかった。気がついたのね!お腹は空いたかな?」
「お姉さん、すごい臭い…」
「にんにくを食べ過ぎたみたいで、ごめんね」
「うん…大丈夫」
「パン粥を作ったから、食べられそう?」
「うん…お腹ペコペコ」
「持ってくるから待ってて」
ウチは彼が回復した事を嬉しく思いながら、パン粥を部屋まで運んだ。
「安心して、にんにくは入ってないから」
「ありがとう」
スプーンですくって、息を吹きかけた粥を彼の口元に持っていくと、パクッと食べてくれた。
「美味しい…」
「よかった!どんどん食べていいからね」
「うん!」
パクパク美味しそうに食べてくれるので、嬉しい気持ちになった。彼はあっという間に完食し、満足そうな顔を浮かべている。
「おかわりは欲しい?」
「もう、お腹いっぱいだよ!」
「なら、ウチも食べてきていい?ずっと腹の虫が鳴ってるんだ」
「すごくうるさかったから、気になってたw」
「じゃあ、行ってくるよ。にんにくたっぷりでまた臭くなるから、先に謝っとくww」
「オレを助けてくれたから、文句は言えないよ」
「借りができてよかったw」
許可をもらって、ようやくお昼を食べる。にんにく炒めは冷めても美味しいので、空腹と相まってフォークが止まらなかった。パン粥も彼に残そうと思ったけど、気付けば堪えきれずに食べ尽くしていた。
(また作ればいっか!)
部屋に戻る前にせめてものと口をすすぐ。歯に詰まっていた野草が取れてスッキリした。
(よし、大丈夫)
「お待たせ。君の為にとパン粥を残すつもりでいたけど、食べちゃった…」
「すごい食欲だね…」
「ところで名前を聞いてなかったね。教えてくれる?」
「オレはアキメネス。お姉さんは?」
「ウチはエリカだよ。アキメネスは、どうしてここに来たの?」
「信じてくれるか分からないけど、オレは…」
そう前置きして、彼は話し始めた…。
蝙蝠6へ続く…
読んでいただきありがとうございます!
小話⑤パン粥の話がありますが、私はひたパンが好きです!スープに染み込んだパンって美味しいですよね♡




