雌蝙蝠4.にんにく農家と出会ったヴァンパイア
「待たせたわね。あたしの番を紹介するわ!」
「はじめまして、エリカさん。ボクはアリウムだよ」
「エリカです。アリウムさん、よろしくお願いします」
「あたしは留守番してるわ。その前に充電させてくれる?」
「どうぞ、子猫ちゃん♡」
アリウムさんは服で隠していた首を差し出す。番の証である『2つの吸血痕』が痛々しかったが、どこか嬉しそうにしていた。
「愛してるわ♡」
「ボクもだよ、ミモザ♡」
現場を目撃したウチは、普通じゃないヴァンパイアでよかったと思った。どんなに愛し合っていても先に番が死んでしまうし、傷口が癒える事もないのだ。複雑な気持ちで2人の気が済むのを待っていた…。
「エリカさん、すみません。人目も憚らずイチャついてしまって…」
「気にしないでください。2人の幸せを願っていますから!」
「半日は大丈夫そうだから、無事ににんにくを調達できるといいわね!」
「ありがとう。行ってくるね」
再び服で傷を隠したアリウムさんと、ヴァンパイアの住処を出る。
「ミモザから聞いたけど、にんにくが大丈夫だなんて驚きました!」
「そうですよね。自分でも訳が分かっていませんが」
「気楽に話せるように、敬語はなくしましょうか」
「ありがとう。これからは崩すわ」
「ボクはにんにくを生でかじったりはしないけど、エリカはそれで美味しいと感じたんだね」
「目の前ににんにくが転がってても嫌な感じがせず、むしろ力が出る気がして思わずかじったんだ」
「生きるのに必死だったんじゃない?今更だけど、にんにく畑に近づいてだめそうだったら引き返そうね」
「うん、そうするよ」
(ミモザも本能だけじゃなく、気遣いができる所に惹かれたんだろうな)
「番が基本仕事に行ったり、買い物をしに街なかへ出かけてるけど、首の傷さえ隠してれば普通の人と変わらないから安心して過ごせると思うよ!」
「確かに、ヴァンパイア達は日用品をどうやって調達しているか気になっていたから納得だね」
「番は人間だから食べ物から栄養を摂るけど、ヴァンパイアは1日2回の吸血行為で生きられるんだ」
「番が先にいなくなったらどうするの?」
「動物の血を吸って生きるか、番の後を追うらしいよ。ちなみに、生まれてから番を探している間は動物の血を吸っているけど、人間の血の方が美味しいみたい」
「なるほど。だから本能で見つけようとするんだね。美味しいし、相手も逃げないから」
「痛そうだと思ったでしょ?少しの痛みはあるけど、吸血時間は短いし、人間の恋人同士のように愛し合っている時間の方がはるかに長いよ」
「少し安心した。アリウムには少しでも長く生きてて欲しいから」
「心配してくれてありがとう。番に選ばれても、普通の人間と寿命は変わらないよ」
「そうなんだ。色々教えてくれてありがとう!」
「どういたしまして。話しているうちに目的地に着いたみたいだよ!」
彼に言われて視線を移すと確かに畑が見えた。遠くからでもにんにく臭が漂ってくる。
「懐かしい匂いだ。エリカは大丈夫?」
「平気よ。むしろ今すぐにでもかじりつきたいくらい!」
「ハハハ!ボクも番になる前までは、ルドベキアさんのにんにくを料理に使って毎日食べていたんだ。気に入ると思う」
「それは楽しみね♡」
「行こうか」
畑に辿り着くと収穫作業をしていた男性が顔をあげる。
「俺の畑に何か用か?ここは観光できる場所じゃないぞ」
「違います。ルドベキアさんのにんにくが食べたくてお手伝いに来ました」
「そうか。男の方は頼れそうだが、お嬢さんさんは汚れるのが嫌だろう」
「ウチも手伝いたいです!にんにくを生でかじるくらい好きなんです♡」
「珍しいお嬢さんもいるもんだ。手伝ってくれるのは助かるからな」
「ありがとうございます!」
こうしてルドベキアさんにやり方を教えてもらい、にんにくを引き抜く。
「初めてにしては上手じゃないか!嫁と子供は手伝ってくれないものだから、代わりに来て欲しいくらいだ」
「嬉しい!どんどん抜きますね」
「こうして恩返しできるとは思いませんでした」
夢中で収穫を続けるとにんにくの山ができた。
「よし、これくらいでいいだろう。ほら持っていきな!」
収穫した中の半分ほどを布袋に詰めて渡してくれる。
「ありがとうございます!」
「堅苦しいお礼なんかいいから。また来いよ!」
「うん、ありがとう。また来るね」
これがルドベキアさんとの初対面だった。布袋はアリウムが持ってくれたが、心配な事があってウチは聞いた。
「にんにくを持ってくれるのはありがたいけど、匂いが体に移らない?」
「そうだな、エリカの住処に着いたら、川で水浴びさせてくれると助かる」
「いくらでも使っていいわ!協力してくれたミモザの為だもの」
帰還後、ウチの家で留守番していたミモザと合流し、先に帰ってもらう事にした。アリウムが水浴びを終えた頃、着替えを持ってミモザが戻って来た。
「まだ匂いが残っているけど、なんとか耐えられそう」
「ごめんね、ミモザ。ウチの為に尽くしてくれて」
「いいのよ。ただ、今後は近寄れないかもしれない」
「ボクは時々様子を見に来るよ。何かあったらボクを頼って!」
2人と別れたウチは、早速にんにくにかじりつく。
(あの時食べたにんにくと同じ味がする…)
投げつけられたにんにくは、ルドベキアさんのにんにくだったのだ。命を救ってくれたにんにくに感謝して、美味しくいただいたのだった…。
蝙蝠5へ続く…
読んでいただきありがとうございます!
小話④ヴァンパイアの弱点をあえて好物にしたら面白いんじゃないかと思って生まれた物語ですが、かくいう私はたまに食べるくらいで充分な人です。




