蝙蝠の溜まり場1.(番外編)本能でにんにく好きの番に出会ってしまった普通のヴァンパイア
あたしは番を探す為、街なかに来ていた。
(今日こそは運命の番を見つけるわよ!)
最近、番探しを始めたあたしは苦戦を強いられていた。
本能で運命の番が分かるのだが、いつ訪れてもそのセンサーが反応しない。
(100万人いる中から見つけるのなんて至難の技よね…)
諦めかけて暗い気持ちになった心をなんとか変えようと首を降る。
(さっき決めたでしょ。何が何でも見つけるのよ!)
人混みの中を歩いていると、鼻に付く匂いがした。
(まさか、にんにくの匂い?ここにはいられないわ)
踵を返して帰ろうとするも、慌てて転んでしまう。
「痛い!ついてないわ…」
「お姉さん、大丈夫ですか?」
「う、臭っ!!」
あたしが転んだのを心配して声をかけてくれたのは嬉しいが、その口から強烈なにんにく臭がして吐きそうになる。
「すみません。さっき、にんにく料理を食べたもので…」
「あたしは平気だから、近づかないで」
「分かりました。お役に立てず申し訳ないです」
足の痛みを隠しながらもよろよろと歩く。しばらくは番探しをやめようと思った。
家に辿り着くと、膝から血が出ていた。外の川で傷口を洗っていると、近所のおばちゃんがやって来た。
「番探しはどうだい、ミモザ」
「男性のにんにく臭にノックアウト寸前だし、転んでケガするしで最悪…」
「それは災難だったね。薬をあげるから、塗って早く治しなさい」
「ありがとう。ねぇ、おばちゃんはどうやって番を見つけたの?」
「私もね、ミモザと同じように苦戦したよ。転んでケガをした時に助けてくれた人が、運命の番だったんだよ。ただ、にんにくは食べてなかったけどね」
「そっか。あたしはケガが治るまで休もうかな」
「ゆっくり探せばいいさ。風向きは良くなっているはずだから」
「ありがとう。おばちゃんの言葉を信じてみるよ!」
おばちゃんがくれた薬はすぐに効き始め、1週間ほどで全快した。
「おばちゃん、ありがとう!番探しを再開するね」
「慌てないようにね」
あたしは今、街にある大きな橋の上にいて、その下を流れる川を眺めていた。自然が好きなあたしにとって、癒やしになるのだ。
「あの、もしかしてこないだのお姉さんですか?」
突然の声掛けにあたしは振り向いた。直後、胸の高鳴りを覚える。
「え?あなたは…」
「やっぱりそうだ!あなたにもう一度会いたくて、大好きなにんにくを絶ちました」
「確かに、臭くない…ってすみません!あたしも謝りたかったんです。こないだは、大声で叫んでしまってごめんなさい」
「ボクは別に謝って欲しかった訳ではありません。衝撃的な出会いだったから、またどこかで会える気がしていて」
「あたしの為に好きなものを絶って、なおかつ、いつ会えるか分からないあたしを探してくれてたなんて…」
「ここでは話しづらいので、カフェに行きませんか?」
「気持ちは嬉しいけど、あたし、実はヴァンパイアだから食べられないの…」
「それ、都市伝説じゃなかったんですね…」
「そうよ。あたしの牙を見て。人より鋭いでしょう?」
彼に近づいてあたしの尖った歯を見せる。
「なるほど。だから、にんにくを極端に嫌がったのか…単純に口が臭くて避けられたのかと思いました」
「普通はそう思って当然だわ。人前にはめったに姿を見せないから」
「じゃあ、なんでここに来たのです?」
「それは…」
「教えてくれるまでどきません」
「つ、番を探しに来たの…」
恥ずかしくて、消え入りそうな声でつぶやく。
「それは見つかったんですか?てか、どうやって分かるものですか?」
顔を覗き込まれたまま聞かれるので、顔が熱くなる。
「多分、あなたがあたしの番よ。本能がそう言ってるの」
「ボクの努力は無駄じゃなかった!嬉しい…」
彼が感極まって泣き出した。
「あたしも運命の番が見つかって嬉しい♡一緒に来てくれる?ヴァンパイアの住処があるの」
「君といられるのならば、例え地獄でもついて行くから」
手を取って歩き出す。まさか、にんにく好きの男が運命の番だなんて誰が思うだろう。
「名前聞いてなかったわ。あたしはミモザよ」
「ボクはアリウム。改めてよろしく」
「よろしく」
「ヴァンパイアについて詳しく教えてくれる?道のりは遠いんでしょ?」
「そうね。何から言おうかしら…」
知っている事を一通り話した所で、住処が見えてきた。
「ここがあたし達ヴァンパイアの住処よ。あそこにいるのは近所に住むおばちゃんよ。いくつなのかは分からないけど」
「寿命が200年だっけ?見た目が若すぎて分からないね」
「基本的には自分より若い番の血を吸うから、若返るの。確か、子供は3人いるわ」
「そうなんだ」
おばちゃんについて話していると本人が近づいて来た。
「ついに番を見つけたようだね。おめでとう、ミモザ」
「おばちゃんの言う通り、追い風が吹いてたのよ」
「そうかい。番さんの名前は?」
「アリウムです」
「早速だが、婚姻の儀をするから待ってくれ」
「はい」
おばちゃんは集落の人を呼んで、テキパキと準備する。
あたしも婚姻の儀は見た事がなかったのでドキドキしている。
「アリウム、左手を出しな」
「はい…痛っ!」
針で薬指を刺された。血が軽く出る。
「その手をミモザに差し出して、ミモザはその血を吸う。そうすれば婚姻は成立する」
アリウムが血の滲む左手をあたしの顔に向ける。
あたしはその指を軽く吸った。
「結婚おめでとう!」
「奥さんを幸せにするんだよ」
ヴァンパイア達の祝福を受けて、無事に婚姻の儀は終了する。
「ミモザ、こちらに来なさい」
おばちゃんに呼ばれたあたしは、耳打ちである事を告げられた。
「初めは怖いだろうが、少しで構わない。頑張りな」
「分かったわ。皆が通る道だものね」
「後は若い2人で」
集落の人はそれぞれの家へ帰っていく。残されたあたし達も家へと向かう。
「さっき、おばさんから何を言われたの?」
「これから分かる事よ。そして、一生続く事でもあるわ」
寝室へ向かったあたし達は、ベッドの上に座る。
「あなたはあたしにこの先、首の血を吸われ続ける。痛みはあるけど、もがき苦しむほどではないわ。今日は初めてだから、さっきくらいの血を吸うわよ」
「覚悟してたけど、改めて聞くと緊張するね」
「好きな人に傷なんてつけたくないのに、ヴァンパイアに生まれたばかりにこんな事をしなきゃいけないなんて」
「ボクは、それでも君を好きになった事を後悔はしない。『地獄でもついて行く』って言ったでしょ」
「うん、ごめんね。大好きよ」
あたしはアリウムの首筋を軽く噛み、吸った。当たり前だけどさっきよりも血の味がする。
「っ!」
「今日はここまでにするから。綺麗な首に跡なんて付けたくなかった」
「ありがとう、ミモザ。ボクを君の番にしてくれて。この証が何よりも嬉しいんだ」
「しみるけど、水で傷口を流してあげるね」
「行かないで。今はこのままがいい。それよりも、ボクも跡を付けてもいい?」
そう言うと、アリウムはあたしの首筋に赤い跡を付けた。
「痛っ!」
「これでお揃いだね」
「そうね。嬉しいわ…」
これが、あたしとアリウムの出会い。
完
読んでいただきありがとうございます!
小話⑪運命の人が分かるセンサーが私も欲しいです。可視化できたら皆幸せになれるのになって思います!




