表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/15

第8話 ヴィル

 鬱展開多少。ご注意ください。

 ヴィルは、ドイツの首都ベルリンで生まれた。両親は、ヴィルのことをとても大切に育てていた。ヴィルが大きくなっていくにつれ、両親たちは弟や妹にばかり構うようになっていった。


 自分に構ってくれることが減り、段々と両親はヴィルばかり怒るようになった。寂しかった。悲しかった。自分と違って怒られない弟と妹が憎かった。玩具を散らかしては片付けず、それを見た両親がヴィルに片付けなさいと言ってくる。「

 僕じゃない」と言っても、「お兄ちゃんなんだからちゃんとしなさい。」としか返事は返ってこない。


 父が出張で不在だったある日、とてつもない大雨が降った。雷がゴロゴロと音を立てる。寝る時間になってもずっと聞こえるその音にヴィルはとても怖がっていた。だが、自分は一人で少し離れた所でベッドに寝て、弟と妹は母と寝ている。母が「一緒に寝る?」とヴィルに聞いてきた。


 だが、ヴィルは「寝ない」と応えた。強がっただけだった。本当は怖い。一緒に寝たい。でも、そう思う自分が嫌だった。いつの間にか断っていた。一人でベッドにうずくまり、布団を顔まで上げて声を殺して泣いた。


 6歳になった。家の近くにあった小学校に9月から入学する。なんとなく楽しみだった。学校がどんなところなのか気になっていたから。


 小学校は半日制で、午前中は学校に行き、午後になると家に帰ってきて直ぐに習い事をした。習い事はピアノだった。指が細く長いヴィルは、ピアノを弾くのに丁度良かった。だけど、練習することがとにかく嫌いだった。指は動かせる。覚えれば目を閉じたままでも弾くことが出来る。


 ならなんで練習が嫌いだったのか。それは、教えてくれていた先生と母がとにかく嫌いだったという幼稚な理由だった。後、ヴィルにはどうしても楽譜を読むことが出来なかったのだ。


 小学1年生の最初の長期休みで、ピアノの習い事は辞めてしまった。次に習い始めたのは水泳だった。スイミングスクールに通い、泳ぎ方を教わる習い事。


 ピアノのときとは違って、少しやる気があった。でも、いつの間にかそのやる気もやりたくないという気持ちに変わった。嫌いな先生が担当の日は何が何でも休んだし、行かなかった。


 その代わり、学校は楽しかった。仲の良い友だちもできたし毎日が色とりどりに光っているように見えて、学校に行くことが一つの楽しみになった。


 3年生になった。水泳は今でも続けていた。そして、体操も習っている。練習するのは嫌いだったけれど、出来るようになっていくのは嫌いじゃなかった。


 だけど、そんな日々にも終わりが来た。父の転勤で学校を転校することになったのだ。3年生の終わりでベルリンから離れ、ヴィルたちはミュンヘンに引っ越した。


 新しい学校は、とにかく楽しくなかった。習い事は辞め、家に帰れば自由だ。でも、帰るまでが本当に地獄で毎日同じクラスの嫌いなヤツが絡んで来ては馬鹿にしていく。


 まるでいい玩具を見つけたかのような顔をしていた。殴りたかった。でも、殴れなかった。僕は怖かった。彼を殴って、クラスメイトから敬遠されるのが。嫌われるのが。怖かった。だから、馬鹿にされても言い返すだけで他は何もしなかった。


 4年生が終わると、ヴィルたちは小学校を卒業した。中の中といった成績から、ヴィルはゲザムトシューレ(総合学科)に進学することになった。

 

 だが、またアイツと一緒だった。クラスは別だったが、会うたびに絡まれる。本当に嫌だった。休みたかった。来たくなかった。でも、それは出来なかった。両親は何を言っても熱とかを出さない限り、休ませてはもらえなかった。


 いつからだろう。それくらいの時から、僕は仮面を被って生活するようになった。家族の前でも仮面を被って生活するようになる。本当の言葉は仮面の下に隠して、周りが求める答えを言うようになると、気が楽だった。アイツには絡まれるが、興味はなくなっていた。


 学期ごとに行われるテストで、ヴィルは悪い点数を取った。それを両親に見せれば、とてつもなく怒られた。悲しかった。なんで怒られなければいけないのか何度も自分に聞いた。でも、答えは返ってこなかった。


 学年末テストでは、赤点を取った教科が3つあった。両親に見せれば、案の定怒られた。「ちゃんと勉強をしないからそうなるんだ」 と永遠に聞かされた。もうどうでも良かった。点数が良かろうが、悪かろうが、どっちでも良かった。「見直しをしないからそうなるんだ」と父は言う。


 分かっている。見直しをしないからこそ、本来なら取れていたであろう問題も落としていたのだから。だが、ヴィルは見直しをして直すというのがとてつもなく嫌いで苦手だった。


 両親から怒られるたびに、ヴィルは自分を責めた。何故、そんな簡単なことも出来ないのか。何故、自分はいつも勉強が出来ないのか。何故、怒られてもどうでも良いと思うのか。


 どうでも良いと思ってしまう自分が嫌いだった。憎かった。その日の夜、ベッドに静かにうずくまって声を殺して泣いた。辛かった。本当は褒めてほしかった。頑張ったね。って。何も言わずに、ただただ受け止めてほしかった。


 「自分」という存在を認めてほしかっただけだった。でも、両親は「勉強しろ」や「頑張れ」。「それくらい出来る人はいっぱい居る」しか言わなかった。


 ああ、この人たちには何を言っても無駄なんだとその時改めて思った。この痛みや苦しみは誰にもわからない。話しても聞いてくれない。そう考えれば、何故自分が存在しているのかわからなくなった。


 世界から消えたくなった。長い間、仮面を被り続けていたヴィルは、「自分」という存在を見失った。何をしたいのか。何がしたいのか。すっかりわからなくなり、空っぽになった。


 また1年が経った。ヴィルの成績は良くならなかった。一人、路地裏で泣いていた。すると、どこからともなく現れたカッコいい男性が「どうした?」と声をかけてきた。カッコいい男性の側には、同じぐらいの年の男の子が居た。


 その男の子の名前はアレンというそうだ。僕、ヴィルの人生はその男の子によって、とてつもなく変わることになるとは、あの時の僕は想いもしなかった。


 いつの日か、僕はマフィアの幹部になり、アレンという男の子の部下になった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ