第7話 黒狼
テレビから流れる声は、呑気に話していたヴィルや静かに話していた白鳥のメンバーの耳に響いた。「針が4本心臓部分に……」再び流れるその声に、周囲の空気が凍る。
「ヴィル、アレはお前じゃないだろ?」
「勿論。嫌だね。アイツらと一緒にされるのは。やり方が汚い」
「どうする。日本にまでやって来たぞ」
「フランスで大人しくしてれば良いものを……。全く、何処で情報が漏れたかな。十中八九ボスを狙っている筈だ」
先程までの呑気な喋り方とは打って変わり、ヴィルの瞳は鋭く冷たくなり、口調も変わる。周囲で静かに話していた、白鳥のメンバーたちも既に各々の武器を手にしている。
「ニュース速報です。今朝、東京都杉並区で60代男性の遺体が発見されました。遺体には、腹部と心臓部分に針が合計、56本刺さっており、警察は連続殺人事件として調査を進めています。」
またテレビからニュース速報が流れる。一般人が聞けば、物騒で危険だと思うだろう。だが、白鳥のメンバーたちは違った。驚くことなどせずに、冷徹な瞳で武器を握っている。
「確定だ。白鳥に宣戦布告かな。面倒だ。そして、手口が本当に汚い。日本の警察も、そんな杜撰なヤツらと一緒にしないでくれるかな」
「まずはボスに報告だ」
「当たり前だ。君たち、ボスから指示があるまで武器を携帯したまま地下から動くな。」
ヴィルの言葉に、武器を手にしていた白鳥の構成員たちは一礼をして下がった。ロルフは全国に通達し、ヴィルは直ぐに殺された者たちの身元を漁る。
今回宣戦布告をしてきた敵――黒狼はフランスを拠点に活動するギャング組織だ。そして、ドイツを拠点とするマフィア白鳥とは敵対関係にある。
◇◆◇
お台場ダンジョンに居たアレンは、スーツに身に付けていた連絡用のピンが反応したため、「もう時間だから配信を終わる」などという適当な理由を付けて配信を終了した。
「ヴィル、何があった」
『黒狼が宣戦布告をしてきました。』
「――被害は」
『ありません。今のところ、悪事に手を染めていた日本人を殺しているだけです。』
「そうか。どうやって判断した」
『私の手口を真似て、挑発してきました。品位の欠片もない杜撰なやり方でしたが』
「……父上に話をつける。それまで、世間的な行動を監視し、情報を集めろ。構成員は外に出るな」
『かしこまりました。失礼します。』
ヴィルから現状報告を聞いたアレンは、命令を出す。そして、直ぐにアレン自身もお台場ダンジョンから出るために階段を上っていく。気配を消していたが、直ぐ近くを黒尽くめの男たちが通り過ぎていく。男たちの肩には、黒い狼の絵が描かれていた。
黒狼の者たちだ。通り過ぎる直前に、アレンはグレートタイラントの毒を塗った針で首筋を狙って攻撃した。首筋に針が刺さった男たちは、うめき声を上げながら数秒後には息絶えていた。
グレートタイラントがドロップする毒は、即死生が高く、扱い易いので裏社会では日常的に使われている。今回は敵でもあり、裏社会の人間なので容赦などせずにアレンは殺した。
人を殺しても何の感情も動かない所はやはり、世界の裏社会の頂点に立つマフィア、白鳥の若きボスである。
アレンは、男たちの遺体はそのまま放った。ここは中層86階層。生息している魔物たちが餌として集まるのでバレるような心配はいらない。
先程と同じように気配を消したままダンジョンを出る。だが、このままだと勘付かれる可能性があるので、完全に姿を消す魔法を使ってガルシア財閥日本支社まで帰って来た。
帰って来て早々、アレンは最上階にあるCEO室で父、ルドルフに連絡するために通話を繋げる。
この通話もスマホではなく、ガルシア財閥軍用の数十ある無線のうち、ガルシア家の者しか使えない無線でだ。
録音や盗聴などされる訳にはいかいからである。常に無線での通話記録は消され続けていて、何処にも証拠が残らないようにしていた。
「父上、失礼します。少し緊急で報告したいことがあり」
『勿論大丈夫だ。何があった』
「長年の敵対組織、黒狼から宣戦布告がありました。」
『わかった。直ぐにこちらから何人か寄越そう。襲撃は?』
「先程、数名の男が。ですが、既に処理しています」
『気を付けてくれ。私とソフィアも暫く屋敷から出る事は控えよう』
「それが良いかと思います。では、失礼します」
アレンは簡単な報告をすると、直ぐに通話を切る。裏社会ではありがちな事なので、普段は父、ルドルフにまで報告をする事はない。
だが、今回は遥か昔から敵対関係にある組織で、かなりの実力者も所属しているので危険度も高く、報告をする必要があった。
CEO室のソファに座り、勝手についたテレビを眺めている。すると、ニュース速報が聞こえてきた。
「速報です。警察から、連続殺人事件として発表がありました。危険ですので、1人で行動することを減らすよう心がけてください」
耳にニュース速報を入れながら、ヴィルから受け取った報告書に目を通す。報告書には、今回の事について詳しく、最初の方から書かれている。
ヴィルの普段の口調や態度は呑気極まりないが、スイッチが入った時はとてつもなく優秀なのである。
そんなヴィルに、アレンは一つ命令を出す。
「ヴィル、暫く側にフランツと共に仕えてくれ。ドイツから父上が人を寄越す。その者たちに現状と、日本について詳しく教えてくれ。なふべく早めに問題を片付けるためだ。頼んだよ」
◇◆◇
フランス、パリ。何処かの建物の地下で、黒尽くめの男たちがズラッと整列している。
整列した先にある椅子に座るのは、仮面を付けた顔が見えない人物だ。
身体は、鍛えているのか筋肉が凄く、如何にも強そうなオーラを纏っている。
「お前ら、今回でヤツらとは決着をつける。」
仮面を付けた男は、野太い声で喋る。
「良いか。負けたら絶対の忠誠を誓い傘下に入るか、皆殺しにされるか。それだけだ。覚悟を持って挑め。」
「はっっっ!!!!!」
仮面を付けた男の言葉によって、その場で整列していた黒尽くめの男たちは士気を上げる。その熱意は、建物自体を震わせ、歴史に刻まれる程の力を示す。
裏社会での、遥かなる戦いか幕を開ける。どちらが勝ち、力を示すのか。黒き狼か白き優雅な白鳥か。どちらが勝つのかは全く予想出来ない。




