第6話 悲鳴の正体と探索者と仮面と
アレンが悲鳴の聞こえた方向に歩いていくと、そこには、数名の探索者たちと中心で傷だらけで座り込んでしまっている女性探索者が居た。近くには2台のドローンも飛んでいるので、どちらの探索者も配信しているのだろう。録画しているだけの可能性もあるが。
数名の探索者たちは、3体のハニークイーンと戦っていた。ハニークイーンの攻撃を軽々と躱し、協力して簡単に3体のハニークイーンを狩っていた。ハニークイーンは粒子となって消え、ドロップ品の蜂蜜と魔石だけが残る。
「大丈夫か?」
「は、はい……。助けてくださりありがとうございます。」
「たまたま近くを通りかかったら囲まれていたからな」
「間に合ってよかったよ〜」
「本当に助かりました。」
数名の探索者たちと傷だらけの女性探索者は少し離れた所に立ち、眺めていたアレンには気づかずに話している。その様子を見て、アレンは静かに背を向けた。
「もう大丈夫そうでした。解決したのなら、わざわざ割り込むようなことはしたくないので離れます。」
”大丈夫そうで良かった
”解決してるのならいっか
”普通に直ぐ向かっただけでも凄いよ
”まあ、割り込むのはね……
”離れたら何するの?
探索者たちに気づかれる前に離れたアレンは、次の階層に降りるための階段に来ていた。アレンは少し立ち止まる。それを不思議に思ったのか、コメント欄はどうした?などのコメントで埋め尽くされる。アレンの配信には急に初めていたにも関わらず、今では6万人以上が見に来ていた。
だが、一向に動き出す雰囲気がないアレンに、コメント欄は先程よりも困惑と心配するコメントで溢れていく。アレンの視線の先には壁しかなく、何かが居るという訳でもない。本当に壁しかない空間をジッと見つめていた。
”なんだ?
”なんかあったんかな
”大丈夫?
”どうしたの?
”なんで壁を見てるんや?
”何か居る……って訳でもないよな……
”うーん?
”精神的な問題か?
数分後、アレンはドローンでもギリギリ聞こえないくらいの声で口を開いた。ただ、それは独り言のようで、視聴者や誰かに向かっての言葉ではなかった。
「――なんてない筈なのにね。あの時、間に合えばどんなに良かったか」
だが、そう言うアレンの瞳には哀しさが映っている。その瞳がドローンに映し出されることは無かったが、近寄れない雰囲気を感じ取った視聴者たちは、いつの間にかコメントをする手は止まっていた。
「おっと、すみません。少し考え事をしてました。心配してくださりありがとうございます。」
”大丈夫だよ〜
”考え事か
”いいよいいよ。体調不良とかじゃなくて良かった
”本当に丁寧だな
”精神的な問題とかじゃないならまだ
アレンはドローンに向かって簡単な礼をすると、階段を降りて次の層へ移動した。先程までの様子とは打って変わって、アレンは笑顔で喋っている。だが、その笑顔も心から笑っているようなモノではなく仮面のように貼り付けた笑顔だった。
◇◆◇
「今日のニュースです。東京都〇〇区で男性の遺体が発見されました。遺体には首筋に一本の針が刺さっており、警察は殺人事件として調査を進めています。」
ガルシア財閥日本支社の地下で、マフィア白鳥のメンバーたちは静かに話している。ボスであるアレンが乗る車をいつも運転しているロルフもまた、テレビから流れるニュースを静かに見ていた。
「物騒だねぇ〜」
「ヴィル、アレ、お前だろ?」
「ん〜?そりゃぁ、ねぇ?ボスを監視してたんだから」
「お前も呑気だな」
「ドイツよりも仕事が楽だからね〜。それに、ダンジョンの魔物も弱いし〜」
ロルフがソファに座り珈琲を飲んでいると、隣にヴィルという黒スーツに黒手袋、そして首からヒヒイロカネのプレートを下げた少年が座ってきた。
ヴィルは、とても呑気な口調で話す。ニュースに流れていた殺人事件は、ヴィルがしたことだ。裏社会の者は常に戦場に立っている。いつ殺されても文句など言えない。そんな世界なのでヴィルが誰かに敬遠されることもない。そもそも、白鳥の敵なので言語道断だ。
そして、マフィア白鳥の中での立場と地位を表すのは、白鳥が描かれた金属プレートで、ボスがミスリル、幹部がヒヒイロカネ、構成員がプラチナだ。ヴィルはヒヒイロカネのプレートを持っているので、幹部の一人だ。そんな事を言うロルフもヒヒイロカネのプレート持ちなので、幹部の一人である。
「ロルフはさ〜日本のダンジョン行ってみた〜?」
「入ったことはない」
「そっか〜魔物たちみ〜んな弱くて、簡単だよ〜」
「ドイツとは全然違うことは知っている」
「うんうん、全然違うんだよね〜ドイツなんて、上層1階層からグレートタイラントとかハニークイーンがうろついてるのにねぇ〜」
ドイツにあるダンジョンは世界的に見て、どれも危険すぎる場所ばかりだ。ガルシア家が所有しているダンジョンも多く、白鳥のメンバーは訓練として探索するので一発で魔物を粉々に出来なければ死んでいる。
普通、ダンジョンは国が所有しているものだが、ガルシア家がドイツの貴族となった遥か昔から所有しているので、誰も文句など言えない。今の国になるよりも前から所有しているのだ。
そんなこんなで、白鳥のメンバーの実力は世界的に見ても、ほぼ負けなしだ。むしろ、勝てる組織があるのなら是非とも戦ってみたい。皆、常に強者を求めているし、簡単すぎて暇を持て余しているからだ。
「そういえば〜ボス、配信始めたんでしょ〜?こないだ〜前ボス、現総帥のルドルフ様が〜皆に絶対に見とけって言ってたよ〜」
「総帥が?ボスのことになるといつも親バカになるんだな」
「なるよね〜でも、ボスには敵わないし、参考にもなるから〜ちゃんと見てるよ〜」
こんな呑気に話しているヴィルでも、その実力は白鳥の中でもトップクラスだ。だが、そんなヴィルでもボスの相手にすらならないのでボスはとんでもない実力者だ。
元々の才能もあるが、ずっと鍛えてきたからだと知っているため、だれも陰口などは言わない。言った瞬間、敵とみなされることもあって、言うことは絶対にないのだが。
「速報です。東京都〇〇区で、女性の遺体が発見されました。遺体には、心臓部分に針が4本刺さっており、警察は殺人事件の関連性があると見て、調査を進めています。」




