第5話 2度目の配信
初配信から数日、アレンは先日と同じ男性構成員、ロルフの運転する車に乗ってお台場ダンジョンに来ていた。
少し離れたところで降ろしてもらい、ダンジョンへ近づく。服装は黒スーツに黒手袋。それに加えて金髪碧眼の美男子ときた。当たり前のように周りからの視線は凄まじい。昨日の配信が一夜にして拡散されまくったためもあるのだが。
「見て、あの人じゃない?」
「そうかも。本人だよね?」
「多分」
「配信で見たときも綺麗だな〜とは思ったけど、生で見るともっとヤバい」
「1年ぶりにお風呂に入って外に出てみたらまさか見ることが出来るとは……」
アレンは周囲を警戒していた。すれ違うとてつもない美人や、美少女に声をかける事はない。トラップである可能性もあるからというのも理由の一つだが、本音は女性に興味がないからだった。
少し歩いて、入口に着く。立っていたダンジョン省の者に通行証を見せ、ダンジョンへと入る。ダンジョン省の人間は少し驚いたような表情をしたが、直ぐにポーカーフェイスへと戻していた。
今日もまた人目がない場所まで歩いて行き、ドローンを亜空間から取り出す。同時に、適当な剣も取り出した。ドローンは起動ボタンを押せば、勝手に追跡してくる。配信開始ボタンを押せば、「Hiyoko」で配信が開始した。
「こんにちは。シュヴァンです。」
”こんちわ〜
”告知とか何もないからビックリした
”お台場ダンジョン?
”この人か。めっちゃ拡散されてた人
”イケメンでイケボだ……
コメントにもあるが、アレンは告知などはしていない。「Hiyoko」には告知機能などもあるが、特に必要生を感じなかったのと、突発的のほうが面白そうだと考えたからだ。
「お台場ダンジョンです。今日は一応階層を数えながら来ましたよ。前回は、魔物と区間ごとに書かれている階層番号を見ないと分からなかったので。」
”階層番号で判断してたんか
”あれ便利だよなぁ……区間終わりの階段のところに階層の数字が書かれてるから結構わかりやすいし
”一応……?
”お台場ダンジョンかー……虫……
”う゛っっっっ
”ダメージ受けてる人も居ますよ、と
前回は、初めて日本のダンジョンに来たというのもあって、階層関連のことをすっかり忘れていた。ドイツとは色々違うのだ。人生で2度目の軽い失敗だった。
今回はしっかり頭に知識を入れてきたので、大丈夫だろう。生息している魔物もかなり弱いので、階層さえ覚えてしまえばもう簡単だ。
「ここは中層の81階層に降りる為の階段です。先日配信を終了したのがこの場所だったので」
配信のときはマフィアのボスや、ガルシア財閥日本支社のCEOだとバレる訳にはいかないので、喋り方を少しだけ変えている。いや、変えていると言うのだろうか。それは良くわからない。
”お散歩するみたいに言わないでくれ
”まあ、シュヴァンだし
”まだ2回しか配信してないよね?
”そうだね。2回のうち、1回は今だよ
”1回壊れれば慣れるのは簡単簡単
喋りながら、階段を降り、中層81階層に入った。中層81階層では蜂の姿をした魔物が生息している。ハニークイーンという魔物だ。
アレンを見つけると、ハニークイーンは毒を撒き散らしながら近づいてくる。それは、とてつもない速さ。いつの間にかおしりの針をアレンに向けて突き立てていた。
だが、アレンはなんともないように軽く避ける。そしてハニークイーンが振り向く前に剣を振り下ろす。ハニークイーンは殺されたことにすら気づかずに粒子となって消えた。
残ったのは、瓶に入った黄金に輝く蜂蜜と魔石だけ。アレンは何も言わずにスッと拾い上げる。配信を見ていた視聴者は何が起きたのかイマイチ理解できなかった――というより、処理が追いつかなかった。
”は!?
”え゛?
”何が起きました??????
”ハニークイーンが襲ってきたと思ったら瞬きする瞬間も間もないまま粒子となって蜂蜜になったんだが……
”シュヴァンだから
”それで片付けて良いことではない
「さ、進みましょうか。」
何事もなかったように進んでいこうとするアレンに、コメント欄は何か言いたげな雰囲気だったが、気にせずに進んでいく。
ハニークイーンがドロップする蜂蜜は、とても甘く、紅茶に入れたりするのが人気の使い方。ただ、かなりの値段はするので高級品だ。アレンが赤ちゃんの頃、毒殺しようと何処かの組織が仕掛けてきていたのもあって、アレンとしては暗殺用の道具として考えていた。
”良いなぁ……
”何が?
”ハニークイーンの蜂蜜って紅茶に入れると美味しそうじゃん
雪華97”紅茶飲みたいけど、匂いが……
”匂いダメな人紅茶キツイよねぇ、、、美味しいのに
謎にほんわかとしたコメント欄を他所に、アレンは今日もまた背景と化した魔物たちを狩っていた。いつの間にか亜空間の中も蜂蜜だらけになっている。甘いものは得意じゃないので、白鳥のメンバーに配ろうかと考えた。
使い方は人それぞれだが、アレンのように暗殺用の道具と考えるメンバーも居るだろう。一応、料理とかに使えとお願いしとくか。
でも、毒を混ぜればかなりいい感じに使えるんだよな。グレートタイラントの毒とハニークイーンの蜂蜜は相性が良さそうだ。今度、実験として試してみよう。
”なんか飲める紅茶はあるの?
雪華97”紅茶……というより緑茶系なら
”分かりみがすごい。香水の匂いとかヤバい
”マジか
”やっぱり人それぞれなんだな
一体なんの話をしているのか良くわからないコメント欄を横目に、アレンは周囲を見渡した。先程まで溢れかえっていたハニークイーンはアレンの手によって排除され、ほぼ蛻の殻となっている。
これでも、ダンジョンの仕組みなのか数日経てば元に戻る。原理は今でも分かっていないが、自然現象の一つだろうと言われている。そもそも、考えるだけ無駄なのだ。ダンジョン自体、世界ができたときから存在していて、魔物もずっと存在していたのだから。
呑気に考え事をしていると、遠くから大きな悲鳴が聞こえてきた。正体がバレたくないので、基本関わらないが最善の選択肢だが、配信がついているのでそうもいかない。
”ん?
”ナンだ?今の悲鳴……
”小説でよくある展開だな
”あれでしょ?救ったら執着がどうのこうのの
”それだけじゃないけどな
”あながち間違ってはない
”存在自体が小説みたいなもんだからな。シュヴァン
「なんでしょう?行ってみます?面倒事なのは目に見えていますが」
アレンはコメント欄の言うそういう系の小説は読んだことがないので、よく分からない。面白そうなのは良いが、面倒事は苦手だ。
前に謎のチンピラ共に囲まれ、連れて行かれそうになったことがあった。マフィアのボスがなんで?と言われればそうなんだが、面白そうという勘に任せた結果、警察が来て事情聴取される羽目になり、時間を取られた上に、正体がバレそうになって危なかったのだ。
その時、人生で初めて軽い失敗をした。そこから、面白そうなことに興味はあるが、面倒事になると手を引くことが当たり前になっていた。
でも、行かなかったら行かなかったで何か言われるのは目に見えているし、一応、確認はしてみようかな。




