第13話 対峙
ギャング、黒狼のボスは羽田空港から、日本のとある場所に移動していた。彼は、周りの人々に気づかれないよう、常に気配を消して歩く。歩きながら、周囲を警戒し、観察することが出来るその視野は、裏社会の中で生き抜き上に立つ者にとって何よりも大事なものだった。
日本……初めて来たが悪くない国だ。治安も良く、子供だけでも街中を歩くことが出来ている。フランスでは考えられないことだ。ギャングのボスである私が言うのも何だが、犯罪は起きやすく、子供だけで街中を歩けば、格好の的。それに比べれば、犯罪率は比較的少なく、子供だけでも歩くことが出来る日本は凄いと素直に思う。
だが、それはあくまで日本人であり、表社会の者たちだからこそであり、裏社会の者には関係ない。今も、かなり離れた場所から何者かに監視されている。その気配の無さは、黒狼と長年敵対しているドイツのマフィア、白鳥の者だ。
だが、攻撃をしてくるような素振りはない。敵対こそしているし、なんなら一向に終わらない戦いを終わらせるために宣戦布告して、わざわざ日本にまで来たのだが……。あくまで、その白鳥の者は監視するだけのようだ。
いきなり戦うのではなく、まずは情報収集から。その姿勢は、やはり裏社会の頂点に何百年も立っているマフィアなだけある。確実に勝てる戦いしかしない。それが白鳥だ。
攻撃しないのを見る辺り、まだ戦う気はないということ。それは黒狼にとっても好都合なことだった。先程、フランス本部から連絡があり、「応援には行けない」と報告されたからだ。
間違いなく、白鳥によるものだろう。だが、こちらも準備はしてきている。本部は間違いなく使えなくなるだろうと見越し、戦力を各地に分散させた。何処かが潰されても、必ず応援に来れるように。
この間も言ったが、勝率は白鳥のほうが高い。だが、僅かにでも勝てる確率があるのなら、それに賭けて戦う。それが宣戦布告をした者たちのあるべき姿勢であり、挑む者には必ず必要な覚悟だ。
我ら黒狼は、この戦いを終わらせるために戦う。負けたら傘下に入るか、皆殺しにされるか。どちらかだろう。可能性は薄いが、勝利した時は白鳥と手を取り、和解をする。それだけだ。
何かを特別望むわけでもない。元から、この戦いに決着を付け、終わらせるために戦うのだから。
◇◆◇
白鳥の幹部の一人、ゼーベルは東京のある場所に立っていた。相方は隠密が得意な同じ女性幹部の一人、ヴァイクだ。
「ヴァイク、気づかれたぞ」
「そうだね。でも、攻撃してくる気はないみたい」
「彼自身はだな」
「うん。来るよ」
「分かっている」
二人は、ビルの屋上から下を見下ろし、ある人物を監視していた。だが、その人物に気づかれてしまった。その人物自身が攻撃してくることはなかったが、恐らくその人物の部下であろう男が二人の前に現れる。
「初めまして。白鳥の方々。私は黒狼のメンバーの一人、エペと申します。」
「……」
「私と戦ってください。」
「本音は」
「邪魔なんですよ。監視が」
その男は、顔をマスクで隠していて、しっかりとは分からない。だが、かなり若いことは分かった。そして、彼――エペは、細長い突くための剣を手にしている。
対して、ヴァイクは距離を取り、ゼーベルは斬ることに特化した剣を手に握る。東京のとあるビルの屋上で、その戦いは始まった。
◇◆◇
ガルシア財閥日本支社最上階にあるCEO室。室内にある高級ソファに、アレンはいつものようにして腰掛けていた。アレンは、東京都内の細部な場所までびっしり書き込まれた地図を大きな画面に映して眺めている。
「まだ、チェックメイトではないね。黒狼のボス、デスタン……。やはり彼は欲しい。とても良い人材だ。」
地図を眺めながら、アレンは山程の資料を手にしていた。その資料には、黒狼のボス、デスタンについてが書かれている。
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デスタン
黒狼の第46代目ボス。
常に自らを鍛えることを億劫にせず、部下の訓練も指導し、戦力アップを行っている。
世界的に見ても難易度の高いドイツにあるダンジョンも攻略できるほど。
幹部クラスの者が対峙しても、成す術がないうちに負けてしまうほどの戦闘力。
人を惹きつける力を持っている。
彼に惹きつけられ、忠誠を誓う者も多い。
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「やっぱり、僕が戦わないと勝敗は決まらないかな」
アレンは、資料を眺めながら、最後にボソっと言う。時刻は17時で、夕日が差していた。
「最初から仲間だったら良かったのだけど」
今日もまた、少し短いです。




