【手】 繋がれた手
「俺とお前、どちらかが死ぬしかない」
ケイゴが放った死の宣告に、レイトは「そうだね」と短く返した。シェルター内に、レイトの声が反響した。
ケイゴは空になったペットボトルを投げ捨てた。ゴミの山に当たり、耳障りな音を立て崩れ落ちた。
「…………」
レイトの突きさすような視線に、ケイゴは目を背けた。
ここに避難してから何日たっただろうか。シェルター内は全身がべた付くほど蒸し暑く、鼻が曲がりそうな異臭が立ち込めていた。
減っていく水と食料。救出隊の到着日まで、二人で生き残れないのは明白だった。
「大丈夫、絶対助けがくるって」
そう励まし合っていたのが、遠い昔に思えた。
「ケイゴ!ゴミはきちんと並べてって言ったじゃないか!」
「並べて何の意味があるんだ?水と交換でもしてくれるのかよ!」
ケイゴの拳がレイトの頬に痣を付けてからは、お互い口を閉ざした。
死の宣告が、久々の会話だった。
懐中電灯の明かりが、やせ細ったレイトを照らし出している。
「ケイゴの考えは何でも分かるよ。……親友だからね」
親友という言葉に、ケイゴの身体が固まった。思わずレイトの表情を見たが、懐中電灯がずらされて表情は読めなかった。
「ああ、そうだな。じゃあ、いつも通りでいいか?」
「じゃんけんだね。負けたら方が、ここから出ていく」
しばらく、静寂が訪れた。地上で何かが暴れているのだろう。微かな振動が懐中電灯の光を揺らした。
ケイゴはレイトを盗み見た。伸ばした手が力なく垂れ落ちた。レイトはただ目を閉じ、精神を統一させているようだった。
カタカタと、異音がした。ケイゴが手にしていたゴミが、床と擦れる音だった。
「随分考えているようだが、出す手は決まったか?どうせ運なんだ。考えても仕方ないだろ」
つい挑発的な物言いになってしまう。ケイゴの口がまた開きかけて、そのまま閉じた。
「出す手は最初から決まってるよ」
ケイゴの目が大きく見開かれた。レイトが拳を握り、こちらに突き出しているのだ。
「おい、それは――」
「僕はこの手を変えるつもりはない。ケイゴ、君が決めてくれ」
レイトの青い瞳が、ケイゴをじっと見つめていた。ふざけるな、そう叫ぼうとして、口を閉じた。レイトはこういうやつだった。ずっと、そうだった。
大きく息を吐き、レイトを見つめ返した。手の震えは止まっていた。
「……分かった」
そういって、ケイゴもレイトと同じように、手を伸ばした。今度は、レイトの瞳が大きく開かれる番だった。
「何の真似だい?」
「お得意の心理戦なんてやらせねえ。俺は、この手を変えない。勝ちたきゃ、勝てよ」
レイトがふっと右の口角を吊り上げた。何度も見てきた、笑い方だった。
「じゃあいくよ。じゃんけん――――」
救助隊がシェルターを発見したのは、それから数週間後だった。
異臭が立ち込める室内に、仰向けで並んだ二人の男を発見した。
その手は繋がれていたという。




