32話「なんとか仲間を逃がしたい」
「おや?また一人かい?」
「ああ、お前のために全員が残る必要もないだろう」
ガーランドはパトリオットの前に姿を現すと、静かに剣を構えた。目標は時間稼ぎだ。のらりくらりと攻撃をかわし、スキをみて自分も離脱する...。
「お前はさっき”神”とか言ってたが、神様は殺しも了承してくれるのか?」
「どうだろうね。僕も実際に会ったことは無いからさ。けど...僕がまだ死なずに生きているということは、神様も容認してくれているってことだろ?」
パトリオットは両手を広げ、壇上の居る役者のようなそぶりで語る。
...いちいち胡散臭い奴だ。
「...さっきの槍は持ってないようだが、ハンデと捉えていいのか?」
「ああ、そう捉えてくれて構わないよ!あれを使ったら、君たちすぐ死んじゃうだろうから」
なめられたものだ。
ガーランドは魔力を手中させ、足に力を込める。次の瞬間、地面が網目状にひび割れ、周囲の空気が鉛のように重く沈んだ。
「洗脳的幻想群」
ガーランドの魔法、それは、言うならば相手の洗脳。対象の深層心理を一時的にジャックし、その場に誰かが居るかのように錯覚させる。射程距離はおよそ2メートル。一度発動すれば、ガーランドが魔法を解く、もしくはガーランドが射程距離外に離脱するまで、魔法は解除されず、相手も本体を見つけれない...はずだった。
「っ......!」
一直線に叩き込まれたパトリオットの拳を、ガーランドは辛うじて剣で受け止める。その衝撃で、ガーランドの体はわずかに後方へ弾き飛ばされた。
おかしい。あいつには、俺が見えていないはずだ。だが、間違いなくパトリオットはこちらを認識して攻撃してきている。
「なぜ場所が分かる?と聞きたそうだね。良いよ教えてあげる。君の魔法、さっきの消えた死体から考えて、幻を見せる魔法かと思っていたけど...どうやら洗脳系だったみたいだね」
ガーランドは距離を開けたまま、じりじりと左へ移動していく。見えないはずのガーランドを、パトリオットの視線が正確に追っていた。
やはり...この男、見えている。
「確かに、君の姿は見えにくくなっている。けど、僕には洗脳系は効きにくいんだ。どうしてだと思う?」
「...」
パトリオットは教師が生徒に質問するような、穏やかな口調。しかし、ガーランドは手を挙げ、質問に答えるでもなく、この場を離脱する好機を狙っていた。
「それはね...僕はもう、僕自身を洗脳しているからさ。嘘をつかない...とね。だから、君の洗脳が付け入るスキが、僕には無いのさ」
嘘だ。ガーランドはさらに強く、剣の柄を握りしめる。
洗脳は命令があるたびに上書きされていくもの。いつされた洗脳かは知らないが、魔法が付け入る空白が無いなど、そんなことあり得ない。
「逆説的に言えば、僕が口にする事柄はすべて事実だ。何か聞きたいことがあれば気軽に...」
その瞬間、パトリオットの言葉が途切れる。
いない。ガーランドが...消えた?馬鹿な、さっきまでそこに気配が...。
「鎧だと、外が見えにくそうだな」
瞬間、パトリオットのフェイスシールドが吹き飛ぶ。死角からの一撃。ガーランドが、剣で下から突き上げたのだ。
パトリオットは思わずその場で膝をつく。
このまま逃走する。そんな考えが、ガーランドの脳裏をかすめたが、すぐにその発想を振り払う。
今から逃げても、洗脳が不完全な以上、すぐに追いつかれてしまう。ならば、ここであいつらが逃げられるよう、俺が危険を排除すべきだ。
「どうした?立てよ」
「言われなくたって...立つさ」
パトリオットは先ほど突かれた顎を触りながら、その場で立ち上がる。彼の顔には、狂気じみた満面の笑みが浮かんでいた。
夜明けまで残り2時間。フェシーたちが山を脱出するまでの時間は...約50分。
「...今日は騒がしいわね」
ガーランドたちが戦闘する中、山奥のログハウスでは、一人の魔法使いが目を覚ましていた。黒い髪に、先の尖った帽子をかぶるその姿は、まさに魔女そのものである。
最低限の身支度を済ませると、彼女は扉を開け、暗闇の中へと溶け込んで行った。
山の魔女。
ある者は彼女を「魔法使い」と呼び、ある者は「師匠」と呼び、そしてある者は彼女を...
「復讐者」と呼んだ。




