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31話「なんんとか逃走したい」

「さてと、一体どうしたものか...」


パトリオットは槍を担ぎなおすと、深いため息をつく。彼らはあくまで、運び屋をしていた仲介人に過ぎない。


騎士団は、人々の権利の代行者であるという特性上、基本的に、容疑者をその場で殺すことは許されていない。よって、今のパトリオットの行動は、明らかに規約違反だった。


「またファルス団長に怒られるな...。ああ!人はどうして争うのか!」


左手を胸に当て、人類を悲観するヒロインかのような仰々しい仕草で、パトリオットは一人月へ訴える。しかし、彼の問いに答えるものは、誰一人いない。


「また神は沈黙か...。ハリス君!もう潜伏しなくていいよ!この死体を片付けるのを手伝って...」


パトリオットは自らの足元を見やる。確かにこの手で突き刺した男。薙ぎ払った傭兵たち。それらがすべてが、跡形もなく消えていた。


地面には血痕一つ残っておらず、まるで蒸発してしまったかのようだ。魔法による偽装。それ以外に、今の状況は作り出せない。


「...なるほど。これはやられたね」


魔法による偽装か。薙ぎ払った時には既にこの場にいなかった。とすると、今からパトリオットが追いかけても、彼らに追いつけるかどうか...。


「ま、足止めはハリス君がしてくれるだろう」


パトリオットは両手で槍を持つと、その場で大きく背伸びをする。槍の先にある刃が、月光に照らされ、不気味に光った。


「待っててくれよクソドロ諸君!今度は殺さないよう、最善を尽くすよ!神に誓って!」
















「ごめんなさい、ごめんなさい、僕のせいで、僕のせいで...」

「反省はいつでもできる!今は自分の身を守ることに専念しろ!」


先ほど石をはねた犯人、ガジが自己嫌悪に陥る中、私たちは山の中を逃走していた。後ろを振り返ることは無く、ただひたすらに茂みの中を突っ切っていく。


くそ、完全に騎士団を甘く見ていた。あの殺気に、あの槍での一振り、すべてが規格外。この山は警備の数が少ないんじゃない、少ない人数で侵入者を退けれるから、少人数で事足りているのだ。


ガーランドの魔法が無ければ、私たちは物言わぬ肉塊になっていた。そしてあの男に殺されていたら...おそらく「不本意な幕引き(アンコール)」は発動していなかっただろう。


「おいフェシー!失敗したらお前が死んでくれるんじゃないのかよ!」

「私は...」

「ガンサ!次余計なこと言ったら、フェシーより先にお前を殺すぞ!」


ガーランドはガンサのヤジに、罵倒で返事をする。私は懐にしまった短剣を、服の上から握りしめた。今ならまだ間に合う、今ならまだやり直しがきく。


私の心を見透かしたかのように、隣を走るガーランドが、静かに首を振った。「魔法は使うな」そういうことだろう。私は奥歯をかみしめる。悔しい。これじゃあ、あの時と何も違わない。私が父を見捨てた、あの時と...。


「っ...!みんな!止まって!プロテクション!」


突然、ハリーが天に向かって半球状の防御魔法を展開した。直後、空から魔力を帯びた無数の矢が降りそそぐ。それらはすべて魔法壁にはじかれると、そのまま地面に突き刺さった。


「狙撃兵か...!皆散らばれ!障害物を使って...」


ガーランドは弾かれた矢を見る。矢が...光っている?


「おいガーランド!散らばるったって...」

「防御姿勢をとれ!」


ガーランドはガンサ達に指示を出すが、手遅れだった。瞬間、地面に刺さった矢は、連鎖的に爆発していく。


木々が倒れ、砂埃が宙を舞った。最初の矢はブラフ。本命は、矢自体に込められていた魔力を、時間差で爆発させることだったのだ。


(何が...起こった...?)


私は、爆発に吹き飛ばされた体を、何とか起こす。体は痛むが、動けないほどではなかった。


何とかまだ生きている...まさか、威力を調整していたのか?だとしたら、この矢の使い手はとんでもなく緻密な魔力操作ができる人間だ。


「ああ、さっきぶり!会いたかったよ諸君!」


胡散臭い声を挙げながら、土煙の向こうから近づいて来る者がいた。鎧を着こんだシルエット、舞台の上にでもいるかのような大げさな動き...。


「僕も反省してね!君たちを殺すことはしないよ!約束だ!神に誓ってもいい!」


間違いない。あの男はパトリオット、私たちを殺しかけた奴だ。しかし、先ほど私たちに恐怖を植え付けた槍を所持していない。隠しているのか?


フェシーは最低限の状況把握を行いながら、ゆっくりと後退していく。


とにかく今はこの場を離れなくては。幸い、目立った怪我はしていない。このまま突っ切れば何とか...いや、無理だ。あの男がここに居るということは、私たちを上回る速さで追いかけてきたということ。このまま逃げてもまた追いつかれるのがオチだ。


「フェシー聞け」


その時、ガーランドが私に声をかけた。


「俺が時間を稼ぐ。その間にお前はあいつらを連れて逃げろ」

「無理だガーランド。あいつを抑えたとしても、まだどこかに狙撃手が...」

「だが、生存率は上がる...だろ?」


ガーランドは不敵に笑い、剣を持って土煙に向かって歩いていく。


「ガーランド...!」


そこまで言い、私は口をつぐんだ。ガーランドは父が死んだ後、私に生き方を教えてくれた。私に、金の稼ぎ方を教えてくれた。だが、「私も一緒に行く」、この一言が出てこない。死ぬのが怖いんじゃない。私はきっと、今まで稼いだ金が、無意味になることを恐れているのだ。


「フェシー、お前に言っておかなくてはいけないことがある」


言葉を詰まらす私に、ガーランドが振り返って言う。


「お前の父親は生きている」

「なっ...!」


心臓が跳ね上がった。嘘だ、父は...父はあの時死んだはずだ。あの時、確かに...。


私が...殺した。



































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