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30話「なんとか依頼を成功させたい」

この魔法に気づいたのは、私が8歳の時だった。この世界では、基本的に6歳までには、電気や火以外の特殊な魔法を覚える。しかし、私は6歳を過ぎても火の魔法しか使えず、己のみじめさから、何度も泣いたものだ。


「大丈夫、フェシーはきっと、すごい魔法が使えるようになるさ」


傭兵の父は、よくそう言いながら、私を慰めてくれた。あの時の父の手の感触は、今でも鮮明に覚えている。


父は白眉団の古株で、あの頃は今よりも構成員は多かった。仕事こそ今よりも少なかったが、少ない報酬の中で何とか毎日食いつないでいたものだ。父親。彼は私の唯一の肉親であり、私の目標だった。


だから、彼が死んだときから、私のもとに、あの長剣だけが帰ってきたときから、私の目標は変わってしまった。









「おいフェシー。お前酒のことチクっただろ」

「何のことだ。すまない、魔法のせいで記憶があやふやでな。もうガーランドは知っていると思ったんだ」


私の隣にいるフードを被った男、ガンサは「ちっ」と舌打ちをする。彼も傭兵団の一員だ。酒癖は悪いが、彼の実力には私も一目置いている。


例の山の中、私たちは任務を遂行していた。時刻は丑三つ時。山の中とは言え、深夜は流石に静かだ。部隊は合計5人。獣道を皆で踏み慣らしながら、予定通り魔物を輸送している。


「そんなことより...ここって魔女が住んでるんですよね...。やっぱり、別の道から行った方がよかったんじゃ...」

「ガジ、あなたまたそんな弱気なこと言って、フェシーさんのことが信じられないわけ?」

「いや、そんなつもりじゃ...」


同じくフードを被った男女二人が口論をしている。先ほどからびくびくしている男がガジ、そして、強気な発言をしている女性がハリーだ。二人とも、傭兵になって日は浅いが、実力は確かなものである。


「不安な気持ちになるのも無理無いわ。けど、もうこの手段しか残されてないの」

「で、いざとなったらお前が死んでくれるわけだ」


ガジに対して言った気遣いだったが、ガンサは皮肉めいた言い方で、私に突っかかってくる。私はあえて返事をせず、そのまま歩み続けた。


私の魔法、それは、簡単に言えば「死に戻り」だ。私が死ねば、死んだその日の、私が目を覚ました朝まで時が戻る。その際、記憶は引き継がれるが、同じ日に魔法を使いすぎると、記憶の混濁がひどくなるのが欠点だろう。そして、この魔法にはもう一つ欠点がある。それは、「死に戻り」は、私が自殺したときにしか発動しないということだ。つまり、第三者から攻撃され、私の生命活動が停止した場合、おそらく魔法は発動しない。


自分で決断したときにしか「繰り返し」は許されない。私は、この魔法を「不本意な幕引き(アンコール)」と呼んでいる。


「お前ら、仲がいいのは結構なことだが、もう少し緊張感を持ってくれよ」


先頭で魔物の手綱を引きながら、ガーランドは後方をついていく私たちを注意する。


「でも、さっきから魔力探知には何も引っ掛かりませんよ?」

「だとしてもだ」


ハリーは不満そうに頬を膨らましながら、「はーい」と気のない返事をした。確かに、この山に入ってから騎士団の気配はまるで感じない。いくら警備がざるとはいえ、ここまで人がいないものだろうか。


私は前方の魔物を見やる。蛇のような尻尾をもち、犬のような胴体と顔を持った魔物。世間ではキメラと呼ばれているらしい。時々グルルと唸っているが、猿轡がついているため、嚙みつくことはできない。


このまま上手くいけばいいが。私はそんなことを思いながら、無心で後をついていく。自殺をすることは苦ではない。ただ、問題なのは、記憶の混濁の方だ。例えるなら、朝食を食べているのに、気持ちとしては自分が歯を磨いていたり、風呂に入っているように感じる。つまり、非常に気持ち悪い状態ということだ。実際、気を抜けば倒れそうなほど、私は疲弊していた。


「フェシーさん大丈夫ですか?」

「ええ、大丈夫よガジ。ちょっと疲れてるだけ...」


私がそう言った時だった。前方を歩くガーランドがいきなり歩みを止める。


「どうしたんだガーランド」

「いや、何か...」


その瞬間、私たちの前で、緑色の液体が飛び散った。緑色の液体、それがキメラの血液であることは一瞬で理解できた。


「散らばれ!」


ガーランドの掛け声で、私たちは近くの茂みへ隠れる。突然の奇襲。あり得ない、ハリーがずっと魔力探知をしていたはずだ。まさか、探知範囲外からの攻撃?


打ち抜かれたキメラは完全に動かなくなっている。くそ、任務は失敗だ、やり直さなくては。


私は懐からナイフを取り出し、自分の首に突き立てる。次は6回目。私の精神が持つかわからないが、かけるしかない。しかし、命を終わらせようとした私の手が、いきなり何者かに掴まれる。


「待てフェシー、早まるな」

「っ...!ガーランド、なんで」


左手で私の手を掴んだまま、ガーランドは右手で腰の剣を抜く。


「まだ誰も死んでない。それに、お前も限界なんだろ?」

「それは...」


言葉を詰まらす私を見て、ガーランドは軽く笑った。


「撤退だ、任務は失敗した。だが、命が助かれば、それだけでおつりが帰ってくる」


ガーランドは、向こうの茂みにいる仲間にハンドサインを送る。そのサインを見て、ガジ達も静かにうなずいた。


私は拳を握りしめる。


私にもっと力があれば任務を成功できたかもしれないのに。今のままじゃ、金も満足に稼ぐことができない。自分が...憎い。


白眉団が各々撤退の準備に入る、その時だった。


「おや、せっかく迎えに来たのにもうお帰りかい?クソドロ諸君」


私たちは声をした方を振りかえる。キメラの死体のすぐ横。騎士のような鎧をつけ、槍を手にした男が、そこには立っていた。


「あっと、まずは自己紹介か。うん、人との出会いは、名乗ることから始まるからね」


私たちは男にばれないよう後退を始める。見たところ、おそらく騎士団の人間だろう。こちらの方が人数は多いとはいえ、戦闘はなるべく避けた方が良い。


「僕の名前はパトリオット。5番隊所属の、しがない一般兵さ。僕の仕事は主に町周辺の警備と...」


瞬間、不自然にはねた石が道に転がる。それは、ガジが誤って跳ねさせたものだった。


「ふむ...どうやら君たちは僕の話を聞く気が無いらしい。残念だなあ、無抵抗で出てきてくれたら、痛めつける気なんてなかったのに」


男はそう言うと、担いでいた槍を構える。瞬間、私は今まで経験したことのないほどの殺気を感じた。殺される、それは理屈ではなく、本能で感じる恐怖。私の全細胞が、「逃げろ」と告げていた。


「待て、分かった投降しよう」

「おや」


突然、茂みから一人の男が姿を現す。ひげをたくわえた男、ガーランドだった。武器を捨て、手を挙げたまま、ガーランドは騎士団の男に近づいていく。


「あれ、君一人だけかな」

「ああそうだ。俺だけでこの魔物を運んでいた」


ガーランドは何とか表情を変えないように、パトリオットと会話する。冷や汗が背中を流れた。


「うーん。そうかそうか、一人か...」


パトリオットは俯き、一瞬考えるような仕草をする。そして、パトリオットが再び顔を挙げたその瞬間、ガーランドは槍に貫かれた。鮮血が地面に散る。


「お前...!」

「そんな顔しないでおくれよ。僕には嫌いなものが二つあってね。それは、この街に害をなす人間と、嘘をつく人間だ。そういうやつらを見ると、ぶち殺したくなる」


パトリオットはガーランドから勢いよく槍を引いた。血を吐きながら、ガーランドはその場にうずくまる。


「残念ながら、君はその二つどちらにも当てはまってしまった。本当に残念だけど、死んでもらうしかない...もちろん、君の友達にもね」


パトリオットは槍を再び構えると、そのまま空を薙ぎ払った。瞬間、周囲の木々や茂みは消し飛び、勢いよく土埃が舞う。刈り取られた茂みの中、そこには血を流しながら横たわるフェシーたちがいた。


「やっぱり、こうなっちゃうなあ。僕はただ、この街を守ろうとしているだけなのに...」


槍を担ぎなおし、パトリオットはため息をつく。月光が、倒れこむ白眉団を明るく照らしていた。














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