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29話「なんとか金を稼ぎたい」

ある人が言った。「この世は金がすべてではない」と。


ある人は言った。「金のために生きる生活は空虚だ」と。


だが、そういうやつらに限って、資産はたんまり有り、暇さえあればバカンスだとか言ってどこかへ出かけている。金の価値をフル活用して、毎日を過ごしている。


確かに、金はすべてではないのかもしれない。けれど悲しいことに、この世には、金を持っていてできないことはあっても、金が無くてできることなど何もないのだ。だから私は金を稼ぐ。それが汚いやり方でも。



それが、自ら命を絶つことに繋がっても。








「がはっ!」


私は苦悶の表情で目を覚ました。見覚えのあるテントの仮組柱が見える。いったい私は、今日だけで何回この柱を見たのだろう。意識が朦朧としている。流石に時間をかけすぎだ...次こそ成功させなければ。


私は寝袋から出ると、傍らに置いていた剣を取った。長剣、唯一残った、肉親の形見。皮でできた鞘は冷え切っていた。手に取ってみると、その冷たさが私の体に伝わる。死人のような冷たさ、私とこの剣にどれほどの違いがあるだろう。人を切り、金という自己的な理由で自らをすり減らす。いずれ、皆死んでしまうというのに。...だめだ、卑屈になるな。私は金を稼ぐのだ、そして、一生の安寧を手に入れる。両親が勝ち取ることのできなかった、安寧を...。







「ガーランド、私だ」

「よお、いい朝だな、フェシー」


私がテントの外に出ると、立派な髭を蓄えた男、ガーランドが剣の点検をしていた。時刻は早朝。山の向こうからは、ちょうど上ってくる太陽の姿が見える。


「ところで...」

「昨日の酒ならないぞ、ガンサが全部飲んだからな。それと...これで五回目だ」

「まだ言ってる途中だろ」


ガーランドは苦笑して、私を見つめる。そんなこと知るか、ガーランドにとっては初めてかもしれないが、私はすでに4回同じやり取りを繰り返しているのだ。


「で?俺ら白眉団は壊滅か?」

「そこまで見てないが、まあ流れ的にそうなったと思う」


白眉団は、私が所属する傭兵集団だ。構成人数は5人程度の小規模。少人数だが、別に人数に文句があるわけではない。人が増えれば、それだけ私の取り分が減るからだ。


「ったく。厄介な依頼引き受けちまったぜ。今からでもバックレるか...」

「それはだめだ。私たちの評判にも関わるし、何より、今回はかなり報酬がいい」

「お前はそればっかだな...」


ガーランドはため息をつくと、懐から一枚の紙を取り出した。今回の依頼書だ。今回の依頼、それは魔物を護衛すること、また、無事に魔物を街まで送り届けることだった。


近年、魔物の数が異常に減少している。人間というものは、それまでありふれていて、厄介とすら思っていた物でも、その数を減らすと、途端に口惜しくなる生き物だ。今回の件も、その法則にのっとっている。


最近の騎士団の悩みの種、魔物のペット化だ。教団の動きが鈍くなった代わり、金持ち連中が魔物を秘密裏に取り寄せ、愛玩動物として育てようとしているのである。無論、街で魔物を所有することは法律違反だ。


「それで、『今回』はどうするんだ?」

「そのことだが、やはり全員で護衛した方が通り抜けれる可能性が高いと思う」


街の周辺は騎士団が護衛している。よって、いくら商人に変装していても、手荷物を調べられれば一発アウトだ。運ぶ魔物も、そう簡単に隠せれる大きさではない。


「それはつまり、騎士団と正面からやり合うってことか?」

「それも試したが、まあ見事に全滅だったよ」

「やったのかよ...」


ガーランドが渋い顔をした。仕方がないだろ、こっちだって藁にも縋る思いで、ありとあらゆる手段を試しているのだ。まあ、自分が死んだと聞いて、いい思いになるやつもいないだろうが...


「これまでの経験を考慮して、今回は別の場所から通ろうと思う」


私は、テントからとってきた地図をガーランドの前に広げた。


「この山だ」

「そこはだめだ」


ガーランドはきっぱりと言った。...想定通りだ。


「お前も知っているだろう。その山には魔女が住んでるんだよ。何の前触れもなく山が吹き飛んだり、ドラゴンがその辺で行方不明になったり...」

「それはすべて2年前の話だろう。事実、この二年間ではそういう噂もすっかり聞かなくなった」


街の裏側に位置する山には魔女が住んでいる。市井ではそこそこ有名な噂話だ。そんなこんなで人が近づかないからだろうか、その山は騎士団の警備が極端に少ない。無事に抜けるとしたらここしかないのだ。


「もし失敗しても、次で私がうまくやるよ」

「お前は次があるかもしれねえけどよ...。はあ、しょうがねえか」


ガーランドは頭をかきながら立ち上がると、剣を鞘にしまった。


「皆を起こしてこい。作戦を説明する」

「知ってる」


私は言われるよりも先に、他のテントに向かって歩き始めていた。これで5回目...流石にこれ以上は私の体もつらい。ガーランドにはあのように言ったが、正直、この作戦がうまくいかなければ、万事休すだ。

必ず、成功させなければ。


「ああそうだ、ガーランド、その剣は置いて行った方が良いぞ」

「ん?なんでだ」


私は振り返ることもなく言った。


「前回、その剣が相手に折られて、そのままガーランドは殺されてた。だから、もっと丈夫なやつを持って行った方が良い」

「...」


ガーランドは、少女の言葉を聞くと、黙って、磨いていた剣を投げ捨てた。カランと乾いた音が響く。


「そうゆうのを早く言えよ...」


ガーランドはため息交じりに言った。しかし、テントの入りこんだ少女、フェシーに、彼のつぶやきが届くことは無かった。



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