177 結婚式とハッピーエンド
アリエスの控室からひときわ大きな笑い声が聞こえてくる。
何事かと思ったら笑いすぎてお腹を抱えた二人が涙をぬぐいながら戻って来るじゃないか。心なしか、背後に控えるケフィウスさんまで笑いをこらえているように見えるのはきっと気のせいなんかじゃない。
「ねぇレグ、何大笑いしてたの?」
「ふふ、いや別に」
「デルフィ!」
「大したことじゃない。それよりほら、参列しなさい」
おしえてくれたっていいのに。ケチ!
そうして始まった二人の挙式。
厳かな礼拝室。響く神父様の声。
アリエスとアルタイル、二人が見つめ合って誓いのキスを交わすその時…
あれ…?これって…?
僕の頭に一枚のスチルが…、あの場面がフルカラーでよみがえった!まるで昨日のことのように!
そっか…、これってゲームの…
あれからもう何年たつんだろう。
…入学式の前の晩、最後のプレイ…最後の画面…最後に見た最後のスチル!
あの時僕はアリエスで…、それで一番好きだったアルタイルルートをもう一度って、しつこいくらい何度も繰り返してた。攻略後のストーリーには新しいスチルが増えたりするってお姉ちゃんが言ったから。
翌日は入学式だって言うのに、お母さんに叱られても布団に潜り込んで遊んでた。
結局次の日は寝不足でフラフラで、それでも〝みら学”のコミカライズ、どうしても初版がよくって入学祝を持って買いに行ったんだ。通常版と特装版両方買うつもりで。
そしてあの歩道橋、…寝不足の頭じゃ、…注意力は赤ゲージだ…
馬鹿だったな、僕。
でもこの素敵なシーンまでのストーリーを何度でも味わいたくて…。どのスチルも取りこぼしなく全部見たくて。繰り返し繰り返し次で最後って言いながら寝落ちするまで遊んでたんだ。
それがこの一番好きなルート、大好きな二人のこのエンド。
テオドールの断罪。光の神子となったアリエス。そして学院の卒業式。そこでアリエスはアルタイルを選び、レグルスもデルフィヌスもタウルスも、笑って二人を祝福して、そして迎える教会のシーン。誓いのキス。
そのスチルにかぶせるように、エンディングロールが流れていく…
本物がここにあった!
どこからかエンディングテーマが聞こえる気がする。
そうか、ついに迎えたんだ。僕の…一番お気に入りのこのエンドを…
滝のように流れる僕の涙、その涙の本当の意味は、僕以外誰も知らない…
あれから数か月…、オリヴィアさんは無事元気な赤ちゃんを産み、お兄様はお父様へと役職を変え僕もおじさまへと名前を変えた。
生まれた子供、パラクレートス君はアリエスの予想がぴったり当たって青い髪色の男の子。このレッドフォードの跡継ぎだ!
顔立ちは…、輪郭と鼻筋はスッとしたお兄様、だけど目元は少し目尻の下がったオリヴィアさんの目。
むむ…、これは将来セクシー担当になりそう。腐男子の僕が言うんだから…間違いない。
そのパット君はお兄様にベッタリで、オリヴィアさんより乳母の誰より、お兄様じゃないとダメみたいだ。
抱きかかえれば笑い、降ろせば泣き出すそんなパット君に、お兄様は僕の良く知ってる、優しい、頼りがいのあるあの顔で、
「困った子だ、パラクレートス。だが何も心配はいらない。全てお父様に任せておきなさい」
そう言ってくすぐったそうに微笑んでいた。
アルタイルは相変わらずお兄様に扱き使われてて、それでも最近は「手を抜くコツがつかめてきた」とかなんとか言っていた。
司法長官にはブルースター家の長兄が就き、アルタイルはむしろ敏腕ビジネス弁護士として、めきめきと頭角を現している。…やりがいは感じてるみたいだし良い…よね?…目標が変わることなんて普通だよね。そう、ジローみたいに。
そのジローの仕事は順調で、刺激が無いのは寂しいだろうとこの間自転車を依頼しておいた。何だこれって唸ってたけど、いいから早く作ってね。
王都にお祝いに来てくれたラクシアンのおじいさまとドゥーシアおばあさまをジローの商会に連れてった時には、今まで見たことないほど汗をかいていたジロー。
貴族や王家の偉い人に会うのとも違う、商会主として採点される緊張感があるんだとか。
でもおじいさまと半日ご一緒して、すごく勉強になったって感謝された。良かった、喜んでもらえて。
デルフィは相変わらず猫狂いで、最近ではバスティト神殿にこっそり自分の部屋を作ってそこに転移陣を配置している。
潔癖で生真面目なデルフィらしい整頓された部屋。そこはやっぱり猫グッズが溢れている。
レグルスが王太子から降りたことで、デルフィは弟王子、カノプス君のお目付け役となっている。つまり将来の宰相様。
レグルスと違いカノプス君は素直でまっさらなキャンバスだとまんざらでもないデルフィ。
でもレグルスはカノプス君はけっこう曲者だと言っていた。いわゆるあざと系。デルフィが気付くまでは黙っておこう…。
タウルスとリヒャルト君はあれからなんだかイイ感じ。
だけど、ここにきてまさかの!ヴェーバー伯の反対にあっている。跡取りが居なくなるからダメなんだって。えー!二人はどうするんだろう?
ルトガー君が「伯爵と伯爵夫人に弟を頑張ってもらったら?」と、役に立つような立たないようなアドバイスをしてたのには笑ってしまった…。
そしてアリエス!
僕とアリエスは日々エジプシアン神殿で、バスティト様のお世話に明け暮れている。
学術院と薬草園の世話で手いっぱいの僕は週末しか行けないけど、あんまり放っておくと時々部屋が強盗に荒らされたみたいになっている。
この間なんか全てのキャビネットから物という物が落とされ…、なんてひどい嫌がらせ…ウソでしょ…
「お兄様、大変言いにくいのですが…、バスティト様が今すぐ神殿に来て〝ぽいんたー”で遊べと仰っています…」
「ええー?今からランチ…え…」
「すみませんすぐに…」
「じ…じゃぁアリエスは何してるの?アリエスじゃだめなの?」
「僕は今から光の信徒と三階層の湖へお清めに参ります」
「…すぐにイキマス…」
そんな風にして過ごしていたから、レグがボレアリス独立国に行っちゃって留守にしてても全然寂しくなかったよ!




