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第22話 『アレガルド・サンシャイン⑪』発展途上

「ありえない・・・」


 環境を変化させる神秘の魔導書『仙術西天経典』はもうこの世に存在しない魔導書だったからだ。


 すでに何年も前に焼却されている。その目撃者も多くいる。


 失われた魔導書。だからこそ幻とよばれる一冊だった。

 その魔導書を見ることなど、この年端もいかない少年が読むには不可能だ。


 この少年が使うには無理のある神秘。

 それを何事も無いように少年は使用した。


 まるで自分に元から備わっている機能を使うようにして仙術を使ったのだ。


 学習する。

 それは翼を持つ鳥が親鳥の飛行を真似するように。

 人が師の剣術を会得するように。


 他人からの学習だけで仙術を使用したことになる。

「意味が・・・分からない・・・」

 もう武芸者も権力者も全員の認識を置き去りにされていく。


 魔導書読まなければ魔術は使用できない。そんな当然な出来事も、この少年には通用しない。


 単純なことではある。目の前の天使は『魔導書』を使用せずとも神秘が扱えたのだ。

 少年の顔は「こういう風なことも出来るんだ」と驚いている様子だった。


 さっきまで出来なかったはずの仙術の使用。そして仙術による剣の生成という高度な技。それをこの一舞台で会得したことになる。


 『底知れぬ』。その表現がこの天使には丁度いい。

 そして少年は手に持った二つの軍刀のうち、一つを空中に投げた。


 まるで手裏剣ように空中を直線に飛ぶ軍刀。それは触ることすら出来ない老人に命中した。

 まるで空中浮遊するように、軍刀が宙に浮いてしばらくしてから地面に落ちた。


 先ほどまで空気と同化していた老人が姿を現した。老人の黒色の手に赤い血が滴っている。


「まイッたね」


 空気と言っても、手裏剣を持って投げる瞬間は固体化する。その一瞬の間を見逃さずに、老人の実体化した手に軍刀は投擲されていた。


 しかし、それで受けていた傷もすでに塞がっていた。自身を空気にするように、空気を自身へと変換させることがこの老人には可能だった。


 人の戦いではない。

 ただ、その戦いも終盤だった。


 軍刀を握り少年は老人の懐へ飛んだ。

 瞬きすらも許さない、その俊歩。

 常人なら接近を感じることなく斬り殺される。その速度に、老人は冷静に反応していた。


「それはモウみた」


 そしてその少年の軍刀が振るわれるよりも先に、老人は瞬時に空気へと同化した。


 実体から空気に変化するのは一瞬だ。

 仙術を長年使用してきた者でも腕一本を変化させるのに数秒はかかる。またしても超常の領域。


 少年の軍刀が空を切る。

 誰もが攻撃の失敗を感じた時。地面に赤い血が撒き散らされた。


 ゆっくりと、空気に紛れて黒色の老人が姿を出した。その右腕は綺麗な断面を見せて斬り落とされていた。


「・・・そ・・・ソウゾウ・・・いじょうダ」


 少年が振るった剣の先。その空間には、老人がいた。

 誰も理解出来ていなかった。触れることすら出来ない絶対不破のその体に傷が2回を出来上がっていた。


 老人は信じられない者を見るように少年を見た。切れた右腕から出血をしている。

 老人ですら理解の出来ない「仙術」。


 少年は軍刀を媒介にして「空気と同化した老人の体を実体へと変化させる」という仙術を使用したのだ。


「環境を変化させる」という仙術の応用。

 それを少年は軍刀を媒介にして行った。

 誰もが想像することすら叶わなかった技術の応用。


 軍刀の刃は老人の実体化と当時に、その実体化した肉体を切り裂いている。離れ技が二重にして老人の体に叩き込まれていた。


 先ほど覚えたはずの仙術ですら百戦錬磨の老人の技術を超えていった。

 誰にも理解されることなく、その一瞬の攻撃を完了してしまう。


 見ている人間からすれば、老人はただ透明化して、そこに少年の刃が通っただけのようにも見える。

 しかし真実やその技術は、あまりにも深い位置にあった。


 洗練された技術は第三者から見れば容易く行なっているように見える。そして、少年の仙術はもうすでにその領域にあった。


「すごイね。かんパイだネ」


 もう老人はその傷を治そうともしない。すでに勝敗は決している。

 だが、その老人は負けることも、生きることも願わなかった。


「ぼくはここでしぬんだね」


 無言でそこに立つ少年。それを前にして老人は世間話をするように話し始める。


「ぼくがここで、テンシのサンカにはいるといってもキイテくれないだろ。そんなのいうきもないしね」

 ははは。と渇いた笑いを出し、老人は続けた。出血は止まらない。


「いちおう、きいておきたい。きみが『じゅつ』をまなんだのは、さっきがはじめてかい?」


 その片言の質問に、少年は首を縦に振って答えた。


「・・・なんかグニャグニャするのは、さっき初めて知ったし使った。爺さんに会えていなかったら出来なかった・・・と思う。だからありがとう。教えてくれて」


「マイッタね」


 そう言い、老人は地面へと倒れ込んだ。

 血液が水溜りを作っている場所に倒れ込み、盛大に血飛沫が舞った。


 勝てる。そう思っていた。

 自分なら負けない。そう本気で願っていた。

 だけど現実は違っていた。目の前の少年に傷一つ付けるどころか、さらなる技術さえも与えてしまった。


 二つの強者がぶつかりあい。残った強者が立っている。一人の暗殺者による一つの最強伝説は、ここで終わりを迎えた。


「なんて・・・イチゾクだよ」


 そう言ったまま、老人は動かなくなった。

 医療班が舞台に上がる。そして死亡が確認された。


 勝敗が決する。

 歓声が、拍手が闘技館へと轟いた。

 もう誰も少年を否定する者はいなかった。


 誰もが少年を天の使いだと認めていた。

 白色の少年は舞台へと降りていく。

 新たな天使の誕生、危険指定者の抹消。輝く帝国の未来に観客全員は拍手を以て答えた。


 準決勝。アレガルド・サンシャイン勝利。


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