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第23話 『アレガルド・サンシャイン⑪』母と息子

『決勝戦

 覇国国軍剣術指南役、天使私設兵統括『頭』

 アンリ・サンシャイン』


 強者との戦闘の舞台となった舞踏場。ひび割れた地面が補修され、闘技館の舞台に、二人の強者が立っていた。


 最強。その名に恥じない両者だった。


 伝説がある。大陸全土に伝えられる最強伝説。

 鋼質有機体を殺せる人間が出始めた時、人々はふと思った。

 「結局、誰が一番強いんだ?」と。


 街の中に、森の中に、土の中に、数多の最強がいた。

 それは全員が鋼質有機体を殺せるほどの強者だった。地元で負けなしは当たり前、生涯負けなしは当たり前の世界。

 その中で、一人一人が、最強をかけて戦っていった。

 強者が強者と戦い、最後に立っている方が最強だと。

 それを途方もない回数繰り返していく。


 大陸全土の人間が、そんなふるいにかけられ、最強と名乗るものは一人また一人と姿を消していく。

 そして出来上がる、真の最強。天使私設兵統括という最高到達地点。


 名を「アンリ・サンシャイン」と呼ぶ。

 戦火の時代から、治世の現代まで、その最強伝説が覆ったことはない。


 勝ったり負けたりを繰り返すことなく、ただ勝ち続ける本当の最強。

 3度行われた神前試合では、その全てを優勝している。当代最強の使い手だった。


 切れない筈の敵を切り。殺せない筈の敵を殺し。数々の最強伝説を塗りつぶしていく頂点覇者。

 それが舞台の上で立っている。


 それに向かい合うのは白色の少年。そして厳選なる天の使い。

 名を「アレガルド・サンシャイン」と呼ぶ。

 大陸全土の武芸者が名乗りをあげ、負けた者は去り、勝った者は舞台に残る。

 最後に残ったのが、この両者だった。


 観客席は両者を見つめている。

 「大丈夫なのか?これ」

 「・・・うーん」


 その異様な光景に誰もが両者を眺めた後、観客席の最上階にいた人物を見つめた。

 覇国の統治者。最初の天の使い。

 名を「ウィスパー・サンシャイン」と呼ぶ。


 当代最強と名高いアンリは、その天使の片割れだった。

 アレガルド令息の母君にして、ウィスパー閣下の奥方だ。

 この場に天使の一家が揃い踏んでいる。


 大陸最強を決める最後の決勝戦。これは母と息子による戦いとなっていた。

 観客の心中は穏やかではない。このような殺し合いの場に家族で舞台に上がるなど見ていて楽しいものではないからだ。


 それでも、見逃すことが出来ない戦いだった。

 母と息子。向き合う両者の顔は穏やかで、母アンリは微笑みさえ浮かべている。


 両者の手に握られているのは何の変哲もない軍刀。

 黒髪をなびかせて歩くアンリ。それに応えるように歩みを進める小さな天使アレガルド。

 もう二人とも剣の間合いにいた。

 そこで止まる。両者必殺の間合いに入った。


 当代最強に変わりはないのか、世代交代の時代が来るのか。

 「勝負、初めッッッ!」

 今、勝負が開始された。


 その掛け声と同時に巻き起こる旋風。それは二人の本気の斬り合いによる刀の風圧だった。

 剣に当たらなくても、近くの風圧に巻き込まれるだけで殺させれかねない凄みがあった。


 俊速の一撃。疾速の一撃。神速の一撃。

 人間業ではない、攻撃がただの軍刀から巻き起こる。必中必殺の間合いの中。当たれば完全に死ぬような一撃を見舞い続ける。


 それでも当たらない。それでも傷がつかない。それでも死なない。

 両者は避けていた。避け続けながら切り続けていた。両者の刃は相手の体も、相手の刃も触れることすらできずに空回り続ける。


 超人の領域、その激闘は続いていく。当たらない刃、当てさせない体捌き。

 全てが紙一重で、全てが必殺の威力を以ていた。


 剣術の達人同士が見せる。気の読み合い、気の刺し合い。そのようなものは一切ない。全力で振り合い、全力で躱わし合っていた。


 両者の顔は笑顔だった。超常の剣術を見せつける腕の振り、腰の入り、足の捌き。その凶悪な身体操作に似つかわしくない笑顔という顔付きでその死闘に身を置いていた。


 一方はこの決闘を楽しんでいた。母との戦闘を楽しんでいた。

 一方はこの決闘を喜んでいた。息子の成長を喜んでいた。


 剣の差し合いが合計で百に近づいていく。もうここまでくれば、どこまでも続いてほしいと願う観客がいた。

 楽しい、嬉しい、喜ばしい。戦いには似つかわしくない感情の起伏がそこにはあった。


 90、91、92・・・。

 母アンリが気付いていることに、少年アレガルドは知っていた。

 母は賢い人だった。だからこそ「自分が手加減している」ことなどお見通しだろう、と少年は思った。


 93、94、95・・・。

 それでも手加減していることなど、母や父以外にはバレないように振った。

 もっとこうしていたかった。ずっと母と剣を交えていたかった。自分の母は最高にかっこいいことをみんなに知って欲しかった。


 96、07、98・・・。

 誇らしかった。偉大な父と、強靭な母の間に生まれたこと。その全てに感謝している。


 99・・・。

 世代交代の時間がやってきた。


 先ほどまで交わらなかった剣と剣が混じり合い。一方の剣が断ち切れた。

 柄の上から刃ごと飛ばされる。鍔迫り合いなどにはならない。


 アンリの持っていた剣が空中に飛ばされていた。

 白色の少年が、剣を上に弾いた余力のまま母の首元に剣を添えた。


 武器を持たないアンリ。その首にアレガルドの剣が触れている。

 勝負は決した。


「まいった」

 アンリがそう宣言すると、会場にいる観客は総出で立ち上がった。

 拍手が舞う。アレガルドとアンリに感謝すような声が数々と聞こえてくる。


 全員が感動していた、この親子に、天使の一族に。

 これが死闘で終わらないことを全員が感謝していた。 超常の力を持つ存在が覇国に二人もいる。その礎は覇国の統治に影響するだろう。


「もう・・・」

困ったようにアンリは息子へと向き合っていた。剣はもう収められている。


「母さん」

「駄目だよアル、手加減なんかしちゃ。アルなら一撃目で私のこと倒せてたでしょ?」


 母アンリは息子アレガルドのことをアルと呼んでいた。


「うん・・・でも」

「うん、かい。お母さんショック」


「あ、」

「ふふっ、うそうそ。アル、おめでとう」


 母が息子を抱き寄せ、熱い抱擁を交わした。

 観客の拍手がより強まった。歓声はさらに大きくなっていく。


 観客を守護する私設兵は(いいな〜)とアレガルドを羨ましがった。

 幸福に包まれ。観客からの盛大な拍手に彩られ、今回の神前試合は幕を下ろした。


 20年続いた最強伝説はここで終わりを迎える。それは新たな伝説の始まりだった。

 新時代が幕を上げる。

 覇国を守護する最強は、さらなる強者へと移り変わった。


 白色の少年。天の使いが最強と呼ばれた瞬間だった。


神前試合。優勝。アレガルド・サンシャイン。


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