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怪物  作者: 水野 すい
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知らないこと

家に帰り、夏輝は1人思考を巡らせた。


実来があのビルから飛び降りたのは3月18日の22時~0時の間。

俺たちが実来がいないことに気が付いたのは3月19日の朝7時。

見つからないまま俺と恭介は卒業式に出て、施設に戻ったのは確か13時頃。


その時、塚本さんと今村さんに実来の死を告げられた。

今日の康太の話をまとめると、実来が飛び降りたとされている18日の前日、3月17日の0時から2時の間、実来は1人でどこか外へ出かけていた。


レインコートと、髪が濡れていたこと、康太が窓を開けて雨を確認したことから外へ行っていたのは間違いなさそうだ。


3月17日の2時頃、実来は帰宅して康太に『トイレに行っていた』と嘘をついている。

康太の話では、その夜実来は泣いていた。

その時にはもう既に、実来のランドセルの中には俺に宛てた手紙が入っていた。


3月1日付近の康太の記憶では、実来は俺に宛てた手紙を書いていた。


仮にもし実来が自分で命を絶ったとすれば、3月1日から3月18日の間に何か起きたということになる。


いや、そうとも限らないか。


前々から何かに悩んでいて、3月17日にそれが爆発してしまうような何かが起こった?

雨の日に、それも夜中に外へ行かなければならない用事ってなんだ?


誰かに会っていたのか?

一体誰に?


実来は両親は既にいないし、きょうだいもいない。

親戚は葬儀の時に会った福岡に住む親戚だけ。

それも、実来を引き取って育てていないということは、経済的な理由か、その他に理由があるってことだし、実来がずっと関わっていたとは思えない。

だとすれば親戚ではない誰かということになる。


だが施設は基本的に19時以降は先生と一緒じゃなければ外出は禁止されていた。

あの当時最年長だったのは俺と実来と恭介だけだし、抜け出せるとすればこの3人しかいない。


だが俺は寝ていたし、恭介なら施設の中で話せばいい。

それに、恭介が実来を泣かす理由なんかない。


実来は俺への手紙の中で未来のことをたくさん書いていた。

やっぱり俺は実来が自分で命を絶ったとは思えない。


もちろん、あの手紙だけじゃ判断できないことは分かっているけど、康太に話していた内容からして死にたがっているようには見えない。


だとすればやっぱり、実来は誰かに殺された....?

17日の夜に会っていた奴ってことか?


だけどあの分かりやすい性格の実来が、そんな大きな悩みを俺や恭介に隠し通していたとは思えない。

感受性が豊かで、すぐに泣いてしまうような奴だぞ?


ーーーーーーーいや。


俺の知らない実来がいたとしたら?

現に、俺が実来が17日の夜にいなくなっていたことなんか知らなかった。

ましてや泣いていたことも、康太以外知らなかった事実だ。


それに、実来が俺のことを好きだったことも、告白してくれようとしていたこともあの日まで知らなかったじゃないか。


俺は実来のことを知った気になっているだけで、実際は知らないこともたくさんあったのではないか。

実来だって俺が実来のことを好きだということを知らなかったわけだ。


この5年、俺は俺が知っている実来しか見ていなかった。

俺はもっと、実来自身のことを知る必要があるのかも知れない。


もし実来が生きていたとしても、俺は実来のすべてを知れていたのだろうか。

人間、知らないことや知らなくてもいいこともあっても普通だ。

実来はあの日、何を考えていたのだろう。


警察の調べでは、実来以外があの場所にいた形跡は残されていなかった。

現場の状況からも、実来が自分で飛び降りたとしか考えられないと言っていた。


もし実来が自分で飛び降りたのだとしたら、やはりその鍵は3月17日にあるのではないか。

実来はどうして1日考えてから18日の夜に飛び降りたのか。


はたまた17日の出来事は無関係なのか。

時系列的に、無関係というのは考えにくい。


18日の実来は至って普通だった。

特段変なところなんかなかった。


俺は翌日に控えた告白で緊張して、上手く実来の顔を見れなかったけど、もしかしたら何かサインを出していたんじゃないのか。


思い出せ、思い出せーーーーーーーーーー。


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