ずっとこの場所で
「先生…ありがとう。何か、先生ならそういうこと、言ってくれる気がしてた」
夏輝は照れくさそうに笑った。
「でも1つだけ、伝えたいことがある」
雅美はそう言って人差し指を立てた。
夏輝は不思議そうに「何?」と雅美を見る。
「夏輝君が実来ちゃんを今でも大好きなのは分かる。でも、恋をしちゃだめってわけじゃないのよ。もし夏輝君が心から好きだなって思える人と出会えたら、その人を実来ちゃんと同じように愛しなさい。いつでもいいから。ちゃんと誰かを愛して、誰かに愛されて生きなさい。実来ちゃんだって、そう思ってるはずだから。実来ちゃんを言い訳に、誰かを愛することから逃げちゃだめよ」
「でも俺.....」
夏輝は苦笑し、少し視線を落とした。
雅美は優しく微笑んだ。
「すぐじゃなくていいのよ。無理に誰かを好きにならなくていい。でもね、きっと自然にそう思える人にいつか出会えるから。もし出会えなかったらそれはそれでいいの。あなたにはまだまだ未来があるんだから、色々悩んでいいの。でも、もう自分を犠牲にする生き方はしちゃだめってこと。自分の為に生きて欲しいの。その中で実来ちゃんのこと、大切にしてあげて」
「うん...ありがと。ちゃんと楽しく生きていく。恭介と同じ老人ホームに入って、100歳まで生きるんだ」
夏輝はそう言って笑った。
「そうね、恭介君と一緒だったら....先生も安心かな」
「えっ、俺だけじゃ不安なの?」
「うーん、ちょっと危なっかしいところがあるからね、夏輝君は。恭介君ならしっかりしてるし、実来ちゃんもその方が喜ぶでしょ?」
「ま、まあ...それもそうか...?あ、それと俺、もう1個目標があってさ」
夏輝がそう言うと、雅美は「ん?」と不思議そうに雅美を見た。
「俺勉強して、いい大学入って、警察に入って、めーっちゃお金稼ぐ。そしたらこの施設に寄付したい。ここが...俺の実家が一生なくならないように」
言われ、雅美は目を丸くした。
「俺が今生きてるのはこの場所と、先生たちのお陰だから。俺がこの場所、絶対に守り続けるから。だから先生は安心してずっとここで働いててよ。先生まだまだ若いっしょ?てか、ばあちゃんになって動けなくなるまでここにいてよ」
夏輝はそう言って笑った。
雅美はそんな夏輝を見て、「...不思議な子だなあ、夏輝君は」と笑った。
「ええ?」
「まだ高校生のくせにそんな大きなこと言って。なのに先生、夏輝君ならきっと実現しちゃうんだろうなあって、心の底から信じてるの。そんな未来が見える気がする」
「なんだよそれ。気がするとかじゃなくて、まじでそうするのー」
「うん、ありがとう。夏輝君」
「いや、俺がそうしたいんだってば」
照れ臭そうに笑う夏輝を見て、雅美は目頭が熱くなった。
そんな話をして、夏輝は「あーもう恥ずいわっ」と笑いながら立ち上がった。
「あ、ねえ俺と恭介が住んでた部屋見に行ってもいい?あの部屋今誰か使ってる?」
夏輝がそう言うと、雅美も立ち上がった。
「今は康太君と勇樹君が使ってるけど、夏輝君が行ったら喜ぶんじゃないかしら。今日来るって言ったら喜んでたから。むしろ行ってあげて」
「まじか!康太も勇樹もあれから5年だから...えっ!今もう12歳!?やっばまともに会話できんじゃね?俺のこと覚えてんだ~嬉しい~」
夏輝はそう言いながら廊下を歩き出した。
「先生洗濯物があるから、先に行って遊んでて」
雅美に言われ、夏輝は「はいよ~」と言いながらかつての部屋へと歩いて行った。




