心の底から愛してる
「そう。夏輝くんはすごいね」
「え?なにが」夏輝は笑った。
「だって施設に来た頃の夏輝くんは全然笑わなくて、何言っても不機嫌そうだったし、何も食べてくれないし、色々あったから無理もないと思うけどね。今こうして夏輝くんがちゃんと勉強して、ちゃんと友達がいて、ちゃんと元気にしてくれてるってだけで、本当にすごいことなのよ」
「別に、そんなことねえよ。まあ、施設で楽しく過ごせたお陰かなあ」
夏輝がそう言って辺りをキョロキョロ見たとき、雅美は微笑みながらも少し視線を落とした。
夏輝は雅美が何を思ったのか察したのか、真剣な表情で言った。
「....先生」
「ん?」
「俺、高校卒業したら大学入って、大学卒業したら警察に入る」
夏輝がそう言うと、雅美は「それってもしかして...」と心配そうに夏輝を見た。
「うん。実来のこと、俺がちゃんと調べたいんだ。実来が自殺したんだとしても、真実が知りたい。どうやって調べるんだって言われたら....まだ分かんないけど、それでも自分で調べて、納得したいんだ。あの日実来に何があったのか。
でもさ、前に進めてないわけじゃないんだ。確かに俺はこの5年、ずっと実来のことを忘れられてないし、今でも実来が好きで、心の底から実来を愛してる。
だからこそ、進むために警察になるって決めたんだ。過去に囚われてるからじゃないよ。色んな人と話して、やっぱりこのままじゃだめだって思った。俺が他のことを考えるのは、その後でもいいかなって。てか、そうしたいんだ」
夏輝は穏やかに微笑み、先ほどの壁のラクガキのあたりを見ながらそう言うと雅美に視線を戻した。
雅美も「...そう」と穏やかに微笑んだ。
「うん。俺、あの日の先生の泣いてた顔も忘れられない。施設の奴らが泣いてた顔も、恭介の泣いてた顔も。もう、絶対後悔したくない。もう何も失いたくない。だから応援してよ」
あの日、塚本や今村と話していたときの雅美の化粧っ気の落ちた泣き顔。
ベッドで一緒に泣いていた恭介の泣き顔。
実来の死を知った施設の子供たちの泣き顔。
あの日の自分の後悔。
実来の手紙。
何1つ忘れていない。
この頭が、身体がすべて覚えている。
夏輝の言葉を聞き、雅美は「何言ってるの」と微笑んだ。
「当たり前じゃない。先生は、何があっても、どんなことがあってもあなたの味方よ。夏輝君がどんな道に進んだとしても、先生は夏輝君を応援するに決まってるでしょ?」
夏輝は嬉しそうに「先生…」と微笑んだ。
「あなたは絶対に幸せになるの。小さい時からあれだけ辛い思いばかりしてきたんだから、それでも強く生きてるあなたは最高にかっこいいし、必ず幸せな結末が待ってる。幸せになって、幸せに天国に行って、そしたら実来ちゃんにちゃんと伝えなさい。さっきの言葉」
「さっきの言葉…?」
「『愛してる』って、今度は実来ちゃんの目を見てちゃんと伝えるの。言えなかったわけじゃないのよ、いつか必ず実来ちゃんに届けるの。胸を張って、男らしく伝えてあげて。今の夏輝君ならきっとできる」




