思い出の場所
夏輝はその日、久しぶりに施設を訪れていた。
というのも、テストも終わったことだし園長が時々くれる手紙を見て、何となくふらっと訪れたのだ。
施設の入り口から中を覗いた時、懐かしい記憶が蘇ってきた。
実来と恭介とよく遊んだ庭のブランコ、砂場、滑り台。
3人で抜け出して怒られた小さな穴の開いたフェンスは新しいフェンスに変わっていた。
取り合いになった竹馬。
鍵が硬くてなかなか開けられなかった縁側の窓。
鼻血が出やすかった夏輝の鼻血を見て、実来が今にも泣きそうな顔で心配そうに見つめてきた、よく日の当たる縁側。
どこを見ても、何を見ても実来と恭介との思い出が笑っていて胸が締め付けられる。
すると、施設の入り口から「あ、夏輝くん!」と話しかけられた。
夏輝が入り口に目を向けると、そこには白戸雅美という当時からよく面倒を見てくれていた先生が笑っていた。
彼女こそ、よく手紙をくれている先生だ。
「お、先生っ!」
夏輝は微笑み、雅美に歩み寄った。
「夏輝くん久しぶりね!高校生になってからは入学して1回来てくれたから...2回目?かしら」
「それくらいかなあ?ごめんねなかなか来れなくて。手紙くれてたのにさ」
「仕方ないわよっ。だってこの辺じゃ1番頭の良い高校に入ったんだもの、忙しいでしょ。それにしても、制服着てると本当大人っぽくなったわね」
雅美は夏輝の姿を下から上へと見て、夏輝の顔を見上げて嬉しそうに言った。
夏輝は照れ臭そうに言う。
「まあなっ。様になってんだろ?」
「なってるなってる。あんなに小さかったのに、もう先生が見上げないと顔見れなくなっちゃったんだね?」
「うっせ。中学ん時から背伸びてたっつうの」
「まあ、それもそうかな?でも、また大きくなってる。男の子っぽいね。あ、ほら入って入って」
雅美はそう言いながら夏輝の腕を引っ張り、施設の中へと入った。
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「うわあ、壁塗り替えたんだ?去年来た時はここの壁、昔と同じでボロッボロだったよなあ」
中のホールを見るなり、夏輝は壁を触りながら言った。
雅美はホールの椅子を引き、「そうなのよ。去年白く塗り替えたのよ」と笑いながらテーブルにお茶のペットボトルを2本置いた。
「あ、昔夏輝くんが恭介くんに張り合って書いてた身長のラクガキはね、お願いして残してあるのよ」
雅美は「えっとこの辺だったかな」と言いながら壁を見て、「あったあった」と笑いながら壁を指さした。
夏輝も雅美の横に行き、「うわ、本当だ。懐かしい」と笑いながら壁を見た。
壁には汚い字で『なつき』と、綺麗な字で『きょうすけ』、その隣には丸っこい文字で『みく』と書いてあり、何本も黒い線が書かれている。
『みく』の文字を見て、夏輝は一瞬口角が緩んだ。
「俺、今じゃ恭介と同じくらいか...それ以上背あるかも知んないよ?すごいっしょ」
夏輝はそう言いながら椅子に座った。
雅美も夏輝の向かい側に座り、「ええっ、本当に?」と笑った。
「今日、恭介も誘ったんだけど用があるみたいでさ。今度2人で来るよ」
「そっか。2人とも忙しいのに手紙もくれてありがとうね」
「いやいや。俺らにとってここは実家みたいなもんだし、雅美先生も母ちゃんみたいなもんだからさ。むしろずっと気にかけてくれてて嬉しいんだ。感謝するのは俺の方だよ。ありがと」
夏輝がそう言うと、雅美は「もう、やだなあ」と恥ずかしそうに笑った。
「あんなに生意気だった夏輝くんにそんなこと言われる日が来るだなんて、先生泣けちゃうって~」
「はあっ?俺だってもう大人の階段上ってんだよっ、礼くらいちゃんと言えるわ」
「本当成長したのね。どう?学校は。ちゃんと友達できた?」
「もちろん、楽しくやってるよ。友達は、いっぱいいると思うけどー...まじな奴ができたかも」
夏輝はそう言って苦笑した。
「ええ?まじなやつって?」
「んー...なんていうか、大事な話してもいいと思える奴?恭介以外に」
言われ、雅美は嬉しそうに微笑んだ。




