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怪物  作者: 水野 すい
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誰なんだろう

学校を早退して病院へ行くと、泣き崩れている母がいた。


「何があったの?」と聞いても、母はずっと泣いているだけで私の存在に気づいてすらいないようだった。


その後、お姉ちゃんの元に案内された。

案内してくれた警察のおじさんに、「顔は見ない方がいいかも知れない。君の判断に任せるよ」と言われた。


けど、そんなことを言われたらちゃんと顔を見てお別れしなければとも思った。

恐る恐る顔に被せられた白い布を取ると、衝撃というより不思議な感覚に陥った。


この人は誰なんだろう、と思った。

目は瞑っているし、鼻も、唇も、頬の形ですらお姉ちゃんとは思えなかった。

血は綺麗に拭き取られているけど、傷跡から滲んだ血の跡が生々しかった。


この人は本当にお姉ちゃんなのか。

警察の人はちゃんと調べてくれたのか。

よく分からないけど、血とか、指紋とかちゃんと調べてくれたのかな。


別人と間違えてるんじゃないのかな。


お姉ちゃんはもっとこう、目がくりっとしていて、鼻は高いし、肌も白くて傷1つない綺麗な感じだった。

唇だってもっと薄かったし、さくら色で笑うと上唇が見えないくらい薄い。

歯も、前歯は欠けていなかったと思うんだけどーーーーーーーーーー。


そんなことを思ったいたのに、だんだん視界がぼやけてきた。

あたしは泣いているんだ、と気づいたのは10秒ほど経ってからのことだった。


どうして泣いているの?

だって、目の前にいるこの女の子はお姉ちゃんじゃないのに。

絶対違うのにーーーーー。


でも、鎖骨にある2つのホクロには見覚えがあった。


小学生の頃はよく一緒にお風呂に入って、お姉ちゃんに髪を洗ってもらった。

涙が止まらなくなり、あたしはいつの間にかその場に崩れ落ち、お姉ちゃんに抱きついていた。




******




葬儀が終わると、思ったよりすぐに涙は止まっていた。


ママはもう喋れる状態じゃなくて、葬儀の打ち合わせも準備も、後のことも全部あたしと叔母さんで済ませた。


忙しなく過ごしていて悲しみに浸る時間が少なくなった。

むしろこれで良かったのかも知れない。

そうじゃなきゃ、あたしはこの2日間ずっと泣いていたことだろう。


全部夢を見ているようだった。

家に帰ればお姉ちゃんがまたカレーを作ってくれているんじゃないかなんて思った。


でもこれはやっぱり現実で、家に帰ってもお姉ちゃんはいなくて、お姉ちゃんの汚れた制服がハンガーにかかっているのが余計に、あたしの心を追い詰めた。


この日から、ママはずっと窓の外を見て動かなくなってしまった。



******



その後、警察の人から犯人グループが捕まったと知らされた。

犯人は10代の男6人グループで、お姉ちゃんは彼らにレイプされ、暴行を受けた。

挙句道路に放り出され、病院で保護されたものの目を覚ました翌日に屋上から飛び降りたらしい。

屋上から飛び降りる瞬間を見た患者さんがいたそうだ。

お姉ちゃんは自殺した。

詳しい理由は分からないが、レイプ被害に遭った被害者にはよくあることだそうだ。

あたしは犯人グループへの怒りを感じながらも、何もできない自分にも腹を立てざるを得なかった。

あれから2年、ろくに母とも口を利かない日々の中で、あたしは絶望していた。






そんなあたしの日々の希望は今、恭介君ただ一人だけだった。





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