優しい笑顔
「おい、コイツもう泣いてるだけで何の反応もしなくなってきたわ」
「そろそろ飽きてきたな」
「もういいんじゃね?眠いわ」
「こいつどうする?」
「その辺に捨てればいいだろ」
「ちゃんと動画撮ったか?通報されたら面倒臭えーぞ」
「撮った撮った。あとでこの女に送りつけときゃいいだろ」
そんな会話をしたあと、男の1人が菜々美に近づいてきた。
「おい、聞こえてるか?このことサツに言ったらこの動画、バラまくからな。いいな?」
言われた菜々美はただ、泣きながら呆然と天井を見つめているだけだった。
男はイライラした様子で「おい、聞いてんのかよ!」と菜々美の頬を叩いた。
すると、部屋の入り口から声が聞こえてきた。
「ねえ」
聞き覚えのある少しハスキーな低い声に、菜々美は一瞬で胸を刺されたような気分になった。
菜々美がゆっくり入り口の方に目を向けると、そこには恭介が立っていた。
「何サボってんの?早くそのボロ雑巾みたいな女、滅茶苦茶にしなよ」
そう言った恭介の表情は、いつもの優しい笑顔だった。
******
恭介君.....?
何言ってるの...?
頭の中が真っ白になった。
恭介は表情1つ変えずに中に入り、裸で動けなくなっている菜々美の横にしゃがみこんだ。
「...きょう..すけ君....?」
言いたいことはたくさんあった。
だけど、力を振り絞って出たのは彼の名前だけだった。
ただ涙だけが溢れてきた。
恭介は微笑み、ソファの横に落ちていたブランケットを拾うとそれを菜々美にかけた。
「休憩も必要ってことかな。俺、1日にこんな人数相手したことないから分かんないや。ごめんね?」
そういう恭介を見て、菜々美はただ泣くことしかできなかった。
「ねえ、俺のこと好きだった?何で?俺が優しくしてくれるから?俺が求めてくれるから?そんなことで俺のこと好きになるの?俺ね、そういう気持ちってまったく分からなくてさあ」
恭介はそう言うと菜々美から目を離し、辺りにいる男たちを一度見た。
「女はセックスが好きなんでしょ?セックスの為なら誰を傷つけてもいいと思ってるんでしょ?人の物を盗ってもいいと思ってるんでしょ?良かったね、そんなに大好きなセックスができてさ。本当、反吐が出るよ。君にも、君の母親にも。
まあ、もうどうでもいいんだけどね。君を通して、何か理解できることがあるかも知れないと思って近づいてみたけど、なーんにも分からなかった。愚かで、哀れで、単純で、本当にしょうもない。
やっぱり俺には女なんか理解できないってことが分かっただけでもまあ、収穫はあったのかなあ。君に費やす時間とか、君を抱かなきゃいけなかったし...ちょっと代償が大きすぎる気もするけど」
恭介はキョトンとした表情でそう言い、静かに泣いている菜々美を見た。
菜々美の目に髪の毛がかかっているのを見て、恭介はその髪を優しく耳にかけた。
「この髪も、蜘蛛の巣みたいで本当気持ち悪いよね。あ、そうだ。ねえ、君と会うのは今日が最後だと思うけど、俺に話しておきたいこととかある?ちゃんと聞くよ」
恭介がそう言うと、菜々美は涙と血でぐちゃぐちゃになった顔を恭介に向け、小さな声で呟いた。
「....恭介..君...」
「ん?なに?」
「....好き」
そう言った菜々美の声は、酷く声がかすれていた。




