2024年8月18日 17:00
それから何度もキスをして、あたしはこの日処女を捨てた。
経験がないと言いながらスマートに行為をしている彼を見て、疑うでもなく、あたしは純粋に嬉しい気持ちでいっぱいになった。
お母さんはパートでいないし、愛実は友達の家に行くと言っていたこの日、あたしの家で行為に及んだわけだけど、いつも暮らしている部屋がまるで違って見えた。
ボロアパートの1室に住んでいたあたしの部屋は、小さな部屋に古びた畳があるシンプルな部屋だった。
いつも薄暗くて、電気がチカチカしていたのに今日はそれがまるで気にならないどころか、良い雰囲気にすら感じた。
この日感じたこの感覚がどれほど幸せなもので、どれほど愚かなことだったか分かったのは、この日から1ヵ月後のことだった。
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この日から数回、恭介君と会っては図書館の帰りに体を交えた。
けどお互い受験生ということもあり、会う機会はどんどん減っていった。
よく考えてみたらあたしと恭介君はいつも図書館で会っていたせいか、連絡先を知らなかった。
そのお陰で忙しくなった途端、会えなくなった。
一般的に男女がそういうことをしたら付き合うのではないか。
でもそんなことは言われていないし、あたしも言っていない。
友達に相談したこともあった。
遊ばれたのだ、と一言で済まされてしまった。
あたしは15歳の彼に遊ばれてしまったのだろうか。
そんなことを考えていたある日、いつものように図書館へ行った帰りのことだった。
今日も恭介君は図書館に来ていなかった。
落胆しながら『赤毛のアン』を開いた時、あるページに緑色の付箋が挟まっていた。
【8/18 もしこれを見ていたなら西公園に来てください 会いたいです K 】
と書かれていた。
菜々美はハッとしてスマホを見た。
今日は8月18日だ。
『赤毛のアン』をしまい、菜々美は急いで西公園へ向かった。
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2024年 8月18日 17:00
菜々美が西公園に到着するとすぐに「菜々美さん!」と声が聞こえた。
振り返ると、そこには息を切らして走ってくる恭介君がいた。
「恭介君…!」
一瞬で今まで考えていたことがなかったかのように、彼に会えただけであたしの心は踊っていた。
「来てくれたんですね!菜々美さんなら、気づいてくれると思ってました...!」
菜々美に会うなり、恭介は照れくさそうに微笑んだ。
「連絡先、そういえば交換してなかったよね...!付箋、気づかなかったらどうするつもりだったの?」
菜々美は嬉しそうに笑った。
恭介は「うーん、待ちぼうけだったかも」と苦笑した。
「ねえ、今日もうち来る?」
菜々美はそう言いながら恭介の手を握った。
恭介は「うん、行きたい。でも」と菜々美の顔を見た。
「僕、塾に通い始めたんです。だから最近図書室に行けなくなって...それで今日、塾に忘れ物して来ちゃったんで、ここでちょっと待ってて下さい」
「あ、そうだったんだ。うん、ならあたしも途中まで一緒にーーー」
「ううん。すぐ近くだからここで待ってて。女の子連れて来たりなんかしたら勉強しろって怒られちゃいますっ」
そう言って苦笑する恭介に、菜々美は「分かった」と微笑んだ。
「ありがとうございます。じゃあ、ちょっと行って来ますね」
恭介はそう言うと菜々美の手を離して手を振った。
菜々美も「うん、気をつけてね」と手を振り、恭介の背中を見送った。
恭介の姿が見えなくなると菜々美は手を下ろし、近くにあったベンチに腰を下ろした。
やっぱり恭介君に会うと全部どうでも良くなっちゃうなあ。
会う度、話す度に好きになる。
少し困った顔も、少しハスキーな低い声も、くしゃっと笑った顔も、やっぱり好き。
今日こそ付き合おうってちゃんと言おう。
よく考えてみたら『好き』って言ったことなかったな。
恭介君の気持ちもちゃんと聞かなきゃ。
進学校に行くみたいだし、あたしも大学に行くし、来年からはもっと会えなくなっちゃうかなあ。
高校生になったら他の女の子とも出会って、好きなっちゃったりしないかなあ。
あたしは3歳も年上だし、ちゃんと恭介君が就職するまで待たないと。
話したいことがたくさんある。
早く戻って来ないかなあ。




