15歳の彼
峯、と聞いてアキ君のことを思い出した。
久しぶりに聞いたその名前に、一瞬だけ固まってしまった。
「どうか、しました?」
そんなあたしを見て不審に思ったのか、恭介君はあたしの顔を見て不思議そうに言った。
あたしはすぐに笑顔に戻した。
「あ、ううん何でもない!峯って、ちょっと珍しい名前だからつい。知り合いに峯って人がいたの」
「そうだったんですね。もしかしたらその方、僕の親戚かも知れませんね」
恭介はそう言って微笑み、カバンの中から教科書や筆記用具を出し始めた。
「もしかしたらそうかもね」
菜々美は冗談混じりに笑った。
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それからあたしと恭介君は、図書館で会うたびに話すようになって色んな話をした。
恭介君はあたしより3つ下の15歳で、中学3年生。
受験勉強をしに来ているのだと言っていた。
愛実と同い年だったけれど、残念ながら同じ中学ではないみたいだった。
15歳とは思えないほど大人びていて、端正な顔立ちと落ち着いた雰囲気、低い声に、あたしは何となく心臓の鼓動が早くなった。
もう18歳になるあたしが、15歳の彼にこんな気持ちを抱くようになるなんて思ってもみなかった。
頭も良くて、むしろあたしが勉強している範囲すら理解できていることの方が多いようだった。
恭介君とは週に2回、3回と会う頻度が増えていき、あたしは彼に会える日が楽しみになっていた。
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そんな日々が続いてから2ヵ月が過ぎた頃、図書館の帰りは2人で帰ることが多くなった。
「ねえ、恭介君は兄弟とかいるの?」
ある時、ふと気になって聞いたことがあった。
恭介は「え、何ですか急に?」といつものように微笑んだ。
笑うと上唇が見えなくなるほど薄くなり、綺麗な二重にもう1本皺ができる。
頬にえくぼができるこの顔がすごく愛おしく感じてしまう。
「うーん、聞いたことなかったから。兄弟がいたら似てるのかなーって。恭介君のお母さん綺麗そうだよね、お父さんも絶対イケメンでしょ」
「別にそんなことないですよ?ごくごく普通の家庭ですよ。僕1人っ子ですし」
「そうなの?じゃあ仲は良い?」
「...全然普通だと思いますよ」
「そっかあ。お母さん何歳?若そうだよね」
「..さあ。何歳だか把握してなくて」
恭介はそう言って苦笑した。
「そうなんだあ。今度聞いてきてよっ」
菜々美は面白がるようにそう言って恭介の顔を見上げた。
「分かりました、聞いてきますって」
呆れたように笑う恭介は、まるで同級生や、さらには年上かのように思える時がある。
菜々美は満足気に微笑み、「じゃあお友達は?仲良い人とかいる?」と言った。
「いますよ。9歳の時からずっと仲良いんです。家族みたいに」と恭介。
「へえ!じゃあもう6年も仲良しなんだ。じゃあ確かに家族みたいだね。かっこいい?」
「そりゃもうかっこいいですよ。憧れるくらい」
「へえ!そうなんだ!じゃあ女の子いーっぱい寄ってくるでしょ」
「さあ、どうなんですかね。そういう話はあまりしなくて」
「ふうん?ねえ、恭介君は彼女とかいないの?」
軽く聞いておきながら、内心はどこかで『いない』という回答を待っていた。
「いないですよ。菜々美さんは?僕とこんなところで喋ってますけど、彼氏とかいないんですか?」
恭介は冗談を言うように菜々美を見た。
菜々美は『いない』と言う回答に少し嬉しくなりながら、「いないよ!」と答えた。
「そうなんですか?菜々美さんくらいの年齢だと1番楽しいんじゃないですか?」
「そ、そうだね。周りの友達は結構彼氏とかいるみたいで...色々話は聞いてるんだよ?でもあたし経験ないし、あんまよく分かんなくて。って、こんな話中学生の恭介君にするのも変だよね...!」
菜々美は恥ずかしそうに慌てて言った。
恭介はクスッと笑う。
「いいじゃないですか、恋話」
「ええっ、でもほら...恭介君は経験ありそうだし何か恥ずかしいからやめとく..!」
「僕経験とかないですよ」
「え、うっそ意外!モテるでしょ?ちゅ、チューとか、もうしたの....?」
「ないですよ。好きな人としたいのでとっておいてます」
恭介はそう言いながら笑った。
「ええっ、何それ可愛い!好きな子、いるんだ?」
菜々美は恐る恐る恭介を見ると、恭介は「えっ、ああ、まあ...」と一度菜々美から視線を逸らし、チラチラと菜々美を見た。
えっ、何今の...?
「...だ、だからまだしたことありません。誤解、しないでくださいね?」
恭介は恥ずかしそうにそう言い、上目遣いをするように菜々美を見た。
菜々美は恭介の態度に動揺しながら「...う、嘘だ〜」と笑った。
「本当ですって..!そういうのは、好きな人としたいじゃないですか」
「い、いやいや!慣れてそうだもんっ」
恥ずかしさのあまり、適当なことしか言えなくなった。
恭介はそんな菜々美を見つめ、足を止めた。
「...じゃあ、試してみますか?」
言われ、菜々美は「え?」と恭介を見た。
「僕とキスしたら、経験ないなって思うと思いますよ。下手でしょうから」
恭介はそう言いながら菜々美に視線を合わせた。
菜々美は「...え、でも、あの、好きな人としたいって..」と恥ずかしそうに恭介の顔を見つめた。
恭介はクスッと微笑んだ。
「はい。だから言ってるんです」
恭介はそう言うと菜々美の頬に手を添え、菜々美にキスをした。




