ちゃんと言えば良かった
その後、俺は取り乱して過呼吸を起こしたらしい。
あまり覚えていないが、ベッドに連れて来られ、「落ち着いたら話そう」と塚本とか言う男に言われたこと、先生もひどく泣いていたことは覚えている。
弟が死んだ時もこんなだったな。
弟がもういないなんて信じられなくて、何日も泣き続けたっけ。
その時は両親を恨んだ。
勝手に俺や弟を産んだくせに、ろくに世話もしないで放ったらかしだった両親がまだどこかで生きているのかと思うと死にたくなった。
俺の弟を殺した奴らの血が、俺にも流れているなんて思いたくなかった。
でも今度は誰を恨めばいい?
まだちゃんと聞けてないけど、"飛び降りた"って言ったか?
ーーーーー実来が自分で?
そんなわけないだろ。
俺、今日お前に告白する気だったんだぞ。
いつも人の話聞かないけど、今日くらいはちゃんと聞いてくれても良かっただろ。
実来と、恭介は俺の未来にいないとダメなんだよ。
お前がいたから俺は今日まで、クソみたいな親のことなんか忘れられるくらい楽しく生きて来られたんだろ。
俺より先にいなくなるとか、なしだろ。
せめて俺と付き合って、結婚して、俺の前で安らかにいなくなれよ。
俺を見送れよ。
こんな急にいなくなるなんて聞いてねえよ。
「...なっちゃん、大丈夫?」
ベッドで蹲っていた俺に、恭介が言った。
「うん......恭介は?大丈夫か?」
すっかり暗くなった部屋で、電気もつけずに答えた。
「...うん。明後日、葬儀だって。さっきの刑事さんたちが」と恭介。
「そっか.......」
「その時に詳しく教えてくれるって。俺たちにも話聞きたいって言ってた」
「うん....何でお前そんなに平気なんだよ。悲しくないのかよ」
「平気なわけないでしょ。でも、俺まで取り乱しちゃったら、なっちゃん何するか分かんないし..実来ちゃんが悲しむよ....」
恭介もそう言ってうずくまった。
「何もしねえよ....俺にできることなんか何もねーし.....」と夏輝。
「いや、ほら...後追い、とかさ...」
「....それもいいかもな」
夏輝が言うと、恭介は「だめだよっ!」と言ってベッドを降り、夏輝のベッドを覗いた。
暗闇に慣れて来て、少しだけ顔が見える。
恭介も泣いていた。
「分かってるよ.....そんなこと.....」
そう言うと、せっかく止まった涙がまた溢れてきた。
「俺さ.....」
夏輝は膝を抱え、頭を埋めながら弱弱しい声で言った。
「ん?」と恭介は夏輝を見た。
「....あいつが中学の制服着て見せびらかしてきた時、本当はめちゃくちゃ可愛いって思ったのに...恥ずかしがって素直に言えなくて....可愛いって、まだ伝えられてねーよ....」
言われ、恭介は「うん.....」とだけ呟き、俯いた。
夏輝は泣きながらまた口を開く。
「海で実来が転んだ時、本当が俺が助けたかったし.....」
「うん.....」
「同じ老人ホームに入ろうって言ってた時も、俺もそうしたいって言えてないし.....」
「うん.....」
「実来にかっこいいって言われた時、嬉しかったって、ありがとうって言いたかったし.....」
「うん...」
「あいつが作ってくれたミサンガも..女子に茶化されて恥ずかしくて外しちゃったけど、本当はずっと大事に持ってるって言えてないし...俺があげたミサンガつけてくれてるの嬉しかったし....」
「うん.....」
「今日、好きだって言いたかったのにこんなことになって....こんなことなら、もっと早く、好きだって言えば良かった......!」
夏輝はそう言うとまた声をあげて泣き出した。
恭介も涙を流しながら夏輝の隣に行き、夏輝の背中をさすった。




