事件
卒業式の朝、実来は起きて来なかった。
「あいつ寝坊してんじゃねーの」なんて笑いながら待っていた。
だが、実来の部屋を見に行った先生は青ざめた表情で戻って来た。
「実来ちゃんがどこにもいないの...!」
息が止まるかと思うほど、一気に血の気が引いた。
「いないって...どういうことだよ」
夏輝は青ざめた表情で立ち上がり、先生に歩み寄った。
「分からないの...とにかく夏輝くんと恭介くんは先に学校に行って。先生たち実来ちゃんを探すから」
そう言われ、夏輝は「嫌だよ...!俺らも一緒に探すって...!」と言って実来の部屋へ走った。
実来の部屋を開け、中に入った。
ランドセルには今日の卒業式の準備がされていた。
夏輝は焦った表情で実来のベッドの布団をめくり、実来がいないことを確認した。
「どこ行ったんだよ....!」
夏輝は1人小さく呟き、急いで施設の外へ走った。
庭も、近所の公園も、どこにも実来の姿はない。
夏輝は泣きそうになりながら「実来...!どこだよ...!」と大声を上げた。
後ろから走って来た恭介は「なっちゃん落ち着いて。俺たちが焦っても仕方ないよ」と言って夏輝の背中をさすった。
夏輝は溢れ出した涙を拭い、無言で頷いた。
結局実来は見つからず、夏輝と恭介は卒業式に連れて行かれた。
とはいえ、それどころではなく、2人はただ俯いていた。
実来の姿がないまま、卒業式は終わった。
2人が無言で施設に帰ると、何やら騒がしく、何台かパトカーが停まっていた。
2人は顔を見合わせ、走って施設の中へ。
「先生っ!実来は!?見つかったんでしょ!?」
夏輝がそう言いながら施設に駆け込むと、先生の目は真っ赤に腫れあがり、化粧っ気のない顔になっていた。
いつも笑顔の先生は、今日だけは笑っていなかった。
「...実来は?」
夏輝がそう言いながら先生を見ると、先生の向かい側に座っていたスーツの男が夏輝に言った。
「君たちは、百田実来さんと仲が良かったのかな」
言われ、夏輝は「...そうだけど。おじさんたち、誰?」と男を見上げた。
すると男は胸ポケットに手を入れ、黒い手帳を見せてきた。
「警視庁の、塚本と言います」
手帳には『塚本龍二』と書かれていた。
塚本の隣に座っていた若い男も続き、手帳を出して「同じく今村です。お兄さんたちは、警察官です」と言って夏輝を見た。
「....知ってるよ、パトカー停まってたもん。実来のこと、探してくれてるんでしょ?」
夏輝は呆然とした表情で、小さく呟いた。
恭介は塚本と今村を見て、何かを察したように「...なっちゃん」と呟き、夏輝の腕を掴んだ。
先生を見ると、先生は服の袖で涙を拭っていた。
嫌な予感がした。こんなにも予感が当たらないで欲しいと思ったのは初めてだ。
「...実来ちゃんはね、見つかったんだよ」
塚本に言われ、夏輝は「じゃあ...!」と一瞬期待しように塚本を見たが、暗い顔をした彼の表情を見て、すぐに口角が下がった。
「近くのビルにいたんだ。ただ、屋上から飛び降りたみたいでね、もう.......」
その言葉の先を聞くまでは、信じない。
そんなわけない。
だって昨日まで、嬉しそうに制服を眺めたりしてたじゃないか。
名残惜しそうにランドセルを撫でて「ありがとう」なんて言っていたじゃないか。
『高校も、大学も、会社も、老人ホームも一緒』だって言っていたじゃないか。
俺のこと『大好き』ってーーーーーーーーーー。
まだ続きを聞いてもいないのに、気づいたら涙が溢れていた。




