淡い気持ち
卒業式を前日に控えた3月のある日、夏輝は恭介と2人で施設へと向かっていた。
歩きながら、どこかそわそわして落ち着かない様子の夏輝を見て、恭介は言った。
「なっちゃん、どうしたの?落ち着きないけどトイレ?」
恭介に言われ、夏輝は「ちっげーよ!」と顔を上げた。
「あ、あのさ恭介....お前には言っておきたいことがあって....」
夏輝はそう言って立ち止まった。
恭介は「ん?」と言って立ち止まり、夏輝を見る。
「あ、えっと...その...恭介ってさ...実来のこと、どう思ってる?」
恐る恐るそう言って恭介を見る夏輝に、恭介は平然と答えた。
「どうって、家族だよ。なっちゃんと同じくらい好き。なんで?」
「あっいや..!その、明日もう卒業するじゃん..?で、来月には俺ら、中学生になるわけだろ...?そしたら別の小学校からも色んな奴が来て、新しい出会いがあるだろ?そしたらさ....実来も、好きな奴とかできるかも知んねーじゃん...?だからその...俺.....」
ブツブツとそう言う夏輝に、恭介は「...うん」と頷いた。
夏輝は恥ずかしそうに顔を上げ、勢いよく言った。
「俺...!明日実来に告ろうと思う!恭介はどう思う!?」
言われ、恭介は少しだけ驚いた顔をして、すぐに微笑んだ。
「いいんじゃない?ていうか、なんで俺に聞くの?」
「何でって..!もし恭介も実来のこと...その、好きだったら何か、勝手に告ったりするのはずるいかなって思ったから...てか!実来のこと、そういう好きじゃないってことでいいんだよな...!?」
「うん、違うよ」
「本当に!?俺に遠慮してるとかじゃない!?」
「うん、遠慮してない。ていうか、実来ちゃんはなっちゃんのことが好きだと思うよ。だから上手くいくと思う」
真顔でそう言う恭介に、夏輝は「えっまじ!?」と必死に食いつく。
「うん」と恭介は微笑んだ。
「恭介がそう言うなら...っていうか、告ろうとは思ってるけど何つーか、その先のこととかは何も考えてなくてさ、はは。俺そーゆーのあんま分かんねーし、ほら、たまにさ、俺らのクラスでもいただろ?付き合ってるーみたいな奴ら。でも付き合うって実際どういうことかまだ分かんねーし、今以上に何か実来に求めてるわけでもないんだよなあ。てかそしたら告る意味ない...!?」
夏輝が言うと、恭介は穏やかに淡々と言った。
「俺も女の子好きになったことないから分かんないけど、手繋いだりするんじゃない?」
「え、でも手なんか結構繋がねー?」
「うーん、そういうのとは違うんだと思うよ。あとはチューとか」
平然という恭介に対し、夏輝は「ちゅ、チュー...!?む、無理無理無理!そんなんしたら俺、実来の顔見れないって...!!」と慌てながら言った。
「でも、そういうことなんでしょ。大人はみんなやってるよ、きっと」
「大人ってすげえ~.....俺はまだまだ子供でいいや...」
夏輝はそう呟くと、笑顔になり恭介を見て言った。
「でも!話聞いてくれてありがと!俺明日頑張って実来に伝えるよ!」
「うん。頑張ってね」
恭介も微笑んだ。
「ああでもっ、もし俺が実来とその...付き合うーとかってなっても何も変わらずさ!3人で遊ぼうな!」と夏輝。
「なっちゃん、すごい自信だね」
「ちっげーよっ!もしもの話だよっ.....!」
そして俺が、実来に自分の気持ちを伝えることは叶わなかった。
この先も一生、伝えられる日は来ない。




