抹茶味
「…そうだね。もしそうなら相手の家庭はめちゃくちゃなんだろうね」
恭介はそう言って微笑み、自分のコーヒーを飲んだ。
「でもどうなんだろ、不倫とかってさあ、今時珍しくもないじゃん?あの人、結構うちに来てたってことは、あたしの母親のことも、あたしとお姉ちゃんのことも、大事にしてくれてたってことなのかなあ」
愛実は一人言のように、特段見る必要もない壁に書いてあるメニュー表を見た。
「…その人は?いなくなったって言ってたけど、愛実ちゃんのお母さんと別れたってこと?」
「あ、ううん。死んじゃったの。なんか家が火事になったとかで。まあうちの母親の立場上葬儀は行けなかったけど、お墓参りには何回か行ってるよ。その人が好きだった抹茶のクッキーとか供えたりしてさ」
愛実が言い、恭介は両親の墓を思い出した。
毎年命日になると、抹茶味のクッキーが4枚置かれていたのだ。
あの人たちの墓参りなんて、最後に行ったのはいつだろう?
なんてぼんやり思いながら、恭介は「そうだったんだね」と愛実を見た。
「ごめんね、悲しいこと思い出させちゃったよね」
恭介がそう言うと、愛実は「ううん全然!」と笑った。
「…愛実ちゃんのお姉さんは?何歳なの?」
恭介の言葉に、愛実は一瞬表情が固まった。
「どうかした?」
恭介が愛実の顔を覗き込むと、愛実はハッとしたように「あっ…ごめん」と呟いた。
「お姉ちゃんは…2年前に死んだの」
「あっ…次から次へとごめんね」
恭介は申し訳なさそうにそう言い、愛実を見た。
「あっいや…いいの。あたしがこんなになっちゃったの、お姉ちゃんが死んだせいだからさ、はは…」
愛実はそう言って何かを誤魔化すように抹茶ラテを飲んだ。
「…お姉ちゃんが死んでから母親がおかしくなっちゃってね、あたしとまともに会話もしなくなって…それでもう全部嫌になっちゃったの。それも、お姉ちゃん知らない男に、それも何人にもレイプされたんだよ?信じられる?それで自殺しちゃってさ…もう、あたしの人生も散々って感じ…」
愛実の表情は笑ってはいるが、どこか悲し気だった。
恭介はそんな愛実を見つめ、少し辺りを見渡してから再び愛実に視線を戻した。
「…ここ、出ようか」
******
カフェを出た2人は、川沿いにある外のベンチに腰を下ろした。
「…ごめんね、大丈夫?」
恭介は優しくそう言いながら、今にも泣きそうな表情をしている愛実を見た。
「うん…ありがとう。ごめん、自分から変な話したのに」
「ううん、俺が聞いちゃったから。落ち着いた?」
「うん、もう大丈夫。本当ごめんね、あ、あの恭介君…」
愛実はそう言いながら、恥ずかしそうに自分の手を見た。
先程までは少し動揺していたせいか気にならなかったが、恭介が愛実の手を握っていた。
すると恭介は「あ、ごめんね。嫌だった?」といいながら手を離して愛実を見た。
「えっ…!いや!嫌なんかじゃない!むしろ…嬉しいって言うか…」
もじもしして俯いている愛実を見て、恭介はクスッと微笑んだ。
「良かった。少しでも安心できたなら」
「あ、安心って言うか…うん、ありがとう…」
恥ずかしそうに俯く愛実を見て、恭介は優しい笑顔のままだった。
「何かあったらいつでも言ってね。何もできないかも知れないけど、話聞くくらいはできるからさ」
恭介がそう言うと、愛実は「う、うん!言う!絶対言う!ありがとう……!」と目を輝かせた。




