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怪物  作者: 水野 すい
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78/100

抹茶味

「…そうだね。もしそうなら相手の家庭はめちゃくちゃなんだろうね」


恭介はそう言って微笑み、自分のコーヒーを飲んだ。


「でもどうなんだろ、不倫とかってさあ、今時珍しくもないじゃん?あの人、結構うちに来てたってことは、あたしの母親のことも、あたしとお姉ちゃんのことも、大事にしてくれてたってことなのかなあ」


愛実は一人言のように、特段見る必要もない壁に書いてあるメニュー表を見た。


「…その人は?いなくなったって言ってたけど、愛実ちゃんのお母さんと別れたってこと?」


「あ、ううん。死んじゃったの。なんか家が火事になったとかで。まあうちの母親の立場上葬儀は行けなかったけど、お墓参りには何回か行ってるよ。その人が好きだった抹茶のクッキーとか供えたりしてさ」


愛実が言い、恭介は両親の墓を思い出した。

毎年命日になると、抹茶味のクッキーが4枚置かれていたのだ。


あの人たちの墓参りなんて、最後に行ったのはいつだろう?


なんてぼんやり思いながら、恭介は「そうだったんだね」と愛実を見た。


「ごめんね、悲しいこと思い出させちゃったよね」


恭介がそう言うと、愛実は「ううん全然!」と笑った。


「…愛実ちゃんのお姉さんは?何歳なの?」


恭介の言葉に、愛実は一瞬表情が固まった。


「どうかした?」


恭介が愛実の顔を覗き込むと、愛実はハッとしたように「あっ…ごめん」と呟いた。


「お姉ちゃんは…2年前に死んだの」


「あっ…次から次へとごめんね」


恭介は申し訳なさそうにそう言い、愛実を見た。


「あっいや…いいの。あたしがこんなになっちゃったの、お姉ちゃんが死んだせいだからさ、はは…」


愛実はそう言って何かを誤魔化すように抹茶ラテを飲んだ。


「…お姉ちゃんが死んでから母親がおかしくなっちゃってね、あたしとまともに会話もしなくなって…それでもう全部嫌になっちゃったの。それも、お姉ちゃん知らない男に、それも何人にもレイプされたんだよ?信じられる?それで自殺しちゃってさ…もう、あたしの人生も散々って感じ…」


愛実の表情は笑ってはいるが、どこか悲し気だった。

恭介はそんな愛実を見つめ、少し辺りを見渡してから再び愛実に視線を戻した。


「…ここ、出ようか」




******




カフェを出た2人は、川沿いにある外のベンチに腰を下ろした。


「…ごめんね、大丈夫?」


恭介は優しくそう言いながら、今にも泣きそうな表情をしている愛実を見た。


「うん…ありがとう。ごめん、自分から変な話したのに」


「ううん、俺が聞いちゃったから。落ち着いた?」


「うん、もう大丈夫。本当ごめんね、あ、あの恭介君…」


愛実はそう言いながら、恥ずかしそうに自分の手を見た。

先程までは少し動揺していたせいか気にならなかったが、恭介が愛実の手を握っていた。

すると恭介は「あ、ごめんね。嫌だった?」といいながら手を離して愛実を見た。


「えっ…!いや!嫌なんかじゃない!むしろ…嬉しいって言うか…」


もじもしして俯いている愛実を見て、恭介はクスッと微笑んだ。


「良かった。少しでも安心できたなら」


「あ、安心って言うか…うん、ありがとう…」


恥ずかしそうに俯く愛実を見て、恭介は優しい笑顔のままだった。


「何かあったらいつでも言ってね。何もできないかも知れないけど、話聞くくらいはできるからさ」


恭介がそう言うと、愛実は「う、うん!言う!絶対言う!ありがとう……!」と目を輝かせた。


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