ただ会いたいだけ
「じゃあこの辺で1回休憩しよう。俺ちょっとトイレ行ってくるね」
カフェで勉強を初めてから2時間が経った頃、恭介はそう言いながら立ち上がった。
愛実もペンを置き、「分かった!」と微笑んで背伸びをした。
恭介がトイレに行ったのを確認し、愛実がスマホを見ると、《夜逃げ班》のグループに30件ほど、通知が溜まっていた。
トークルームを開き、未読になっていたメッセージを確認してみた。
【今日も母親呑んだくれてたから出てきた。誰か泊めて〜】
【家来る?】
【行く!】
【あとで個チャするわ】
なんて会話が殆どだった。
この家出しているのが愛実もよく話していた女で、愛実と同じ17歳だった。
この女を泊めているのは21歳の大学生の男。
この男は愛実も体の関係を持ったことがあるが、性病を移され酷い目に遭った。
とはいえ自分を求めてくれる男だ。
愛実は彼を慕っていたし、性病が治ってからも会おうと言われれば会っていた。
ーーーそう言えば、恭介くんは彼女とかいるのかな。
普通に高校行ってる男の子なんて今まで関わってこなかったせいで距離感が分からない。
こんなあたしにもすごく優しくしてくれるし、あの顔だもん、普通に恋愛くらいしてるよね。
それとも、進学校だって言ってたし勉強漬けで恋愛なんかしてる暇ないのかな。
いずれにしてもあたしには考えても分からないことだ。
こうして会ってくれるってことは、普通に考えて彼女とかはいないってことでいいのかな。
彼となら、あたしはもっと深い仲になりたいんだけどな。
勉強なんて、本当は口実だ。
実際、彼に会って彼に釣り合うような女になりたいと思ってちゃんと学校に行こうと思ったのは本当だけど、どうすれば自然に彼と会えるかと考えたら、これしか思い浮かばなかった。
勉強を教えて欲しいと言ったら、恭介君は快く引き受けてくれた。
それからは週に2回、こうして会ってくれる。
私生活の話なんてあんまり聞いたことなかったけど、少しくらい聞いてもいいよね。
そんなことを考えていると、スマホを見ていた愛実の目の前に抹茶ラテの入ったグラスが置かれた。
愛実が見上げると、隣に座る恭介がいた。
「えっ、ありがとう…!」
愛実が言うと、恭介は「ううん。同じので良かった?」と言いながら空のグラスを指さした。
先程まで愛実が飲んでいた抹茶ラテのグラスだ。
「もちろん!ありがとう!」
愛実は嬉しそうに恭介を見た。
「抹茶好きなんだね。前も飲んでたよね」
恭介はそう言いながら頬杖をつき、愛実の顔を見つめた。
愛実は恭介の視線に胸が高鳴りながらも、「あ、う、うん…!」と恥ずかしそうに抹茶ラテを見て言った。
「前に話した、その、お父さんみたいな人が抹茶好きだったの。よく買ってきてくれて」
「そうなんだね。その、お父さんみたいな人って、お父さんではなかったってこと?あ、ごめんね答えたくなかったら大丈夫だよ」
恭介はそう言って苦笑した。
「あ、ううん全然!えっと、その人は多分…うちの母親の彼氏だったんじゃないかな。あの時はよく分かんなかったけど、今考えてみたら平日の夜に来ることが多かったし、土日はたまにしか来ないし、不倫だったんじゃないかなーなんて」
「…そうなんだ。愛実ちゃんはその人のこと、好きだった?」
「え?ああ、うん。優しくしてくれてたし、なんなら本当の父親だと思ってたくらい。あたしが4歳くらいの時からもういたからさ」
「へえ、4歳か。じゃあもし本当に不倫だったとしたら、よく気付かれなかったね」
そう言った恭介は、いつも通り優しい笑顔だった。
「そうだよねー。まあでも冷え切ってたんじゃないのかなあ。だってね、うちの母親の作った料理食べて1番だとか言ってたし、あたしとお姉ちゃんのことも、世界一愛してるよ〜とか、よく言われたんだよね。まあ、だから本当の父親だと思ってたんだけど。だってあのお父さんみたいな人が他に家庭があったら、奥さんとか子供とか、惨め過ぎるよね」
愛実はそう言って笑い飛ばすように話し、抹茶ラテを飲んだ。




