生き甲斐
駅前にある噴水の近くは、この辺じゃ有名な待ち合わせスポットになっていた。
辺りを見渡すと、どこもかしこもカップルと思しき若い男女がいる。
きっとこの中にいる男女のうち、半分以上は本当にカップルなんだろうなんて思いながら、愛実はトートバッグの中身を確認した。
キャンパスノートが1冊、数学の教科書が1冊、筆記用具もある。
「よし」と呟き、愛実はスマホを手にした。
《夜逃げ班》というグループ名も、まだ連絡を取らなくなってから2週間足らずだというのに懐かしささえ感じる。
行く宛てもなく、ただ街を徘徊していた時に出会った若者たちのグループだ。
彼らといる時間は確かに楽しかったし、充実感もあった。
家に帰りたくない愛実にとっては、同じ気持ちで住処を転々とする彼らといるのは気が楽だったのだ。
去年の秋頃から彼らと一緒にいることが増え、中にはクスリをやっていたり、体を売っていたりする者も少なくはなかった。
だが当時の愛実からすれば、人生が壊された者同士、同情もしていたし軽蔑など一切していなかった。
実際、愛実自身もパパ活で体を売って稼いだ金で生きていたし、メンバー内の数人の男とも関係を持っていた。
彼らと距離を置いてから2週間、なぜだか2週間前までの自分や、メンバーが恐ろしく愚かに思えていた。
そんなことを考えていると、愛実に足音が近づいてきた。
愛実は顔を上げると、すぐに立ち上がって微笑んだ。
「恭介くん!」
そこには、優しく微笑む峯恭介がいた。
今は彼に会うことだけが生き甲斐で、少しでも彼に良く思われたい、それしか考えていなかった。
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「ごめんね、待たせちゃったかな」
恭介がそう言うと、愛実は「全然待ってないよ!」と言ってスマホをしまった。
本当は30分も前に来ていたのだが。
「でも、いつもごめんね。恭介くんも勉強忙しいのにわざわざあたしに教えてもらっちゃって…」
愛
実が苦笑すると、恭介は笑顔のまま首を横に振った。
「全然。人に教えるのも勉強になるし、むしろ俺の方が感謝してるよ。それに愛実ちゃん、覚えも早いし教え甲斐があって楽しいよ」
歩きながら恭介はそう言って微笑み、カバンから何かを手に取った。
「はい、これ」
恭介に手を差し出され、愛実は不思議そうに手を出した。
恭介は「勉強には糖分が必要だからね。今日も頑張ろうね」と言って愛実の掌の上に1つ、チョコレートを置いた。
愛実は嬉しそうに「うん!ありがとう…!」と恭介を見上げた。




