初めまして、実来ちゃん
まだ太陽が昇っている14時。
煌々と照らされたビルは、割れた窓ガラスから日が射していた。
綾花は鼻歌を歌いながら階段を上り、屋上へ向かった。
屋上に着き、綾花はオレンジ色のマリーゴールドと、黄色の向日葵を1輪ずつ、既に置いてあったマリーゴールドの横に置いた。
カバンから『ふるふるゼリー』のミカン味を2本出し、1本をマリーゴールドの近くに置き、1本のプルタブを開け、横に腰を下ろした。
「初めまして、実来ちゃん。私、羽住綾花って言います。急に来てごめんね。私ね、実来ちゃんに伝えたいことがあって来たの」
綾花はそう言って微笑んだ。
「ここに来たこと、夏輝くんや峯くんにバレたら、勝手なことするなって怒られちゃうかも知れないね。ここは、実来ちゃんと、夏輝くんと、峯くんの場所だもん。だから今日だけ、私の話を聞いて欲しいんだっ。まずはね、実来ちゃんに謝りたいの。
私ね、夏輝くんのことが好きで、勝手に色々調べたりしちゃって、それで実来ちゃんのこと知ったんだあ。ネット記事読んだだけで、分かった気になったの。実来ちゃんのこと何も知らないのに、知らない人が書いた記事で勝手にあれこれ考えちゃって、ごめんね。それに、夏輝くんに近づきたくて調べたの。実来ちゃんのこと、そんな風に利用して、ごめんなさい。
あとはね、一瞬でもあなたから夏輝くんを奪おうとしたこと、ごめんなさい。夏輝くんの心を欲しがっちゃったの。でも、夏輝くんは一切揺らがなくてさあ、そりゃもう流石に凹んじゃってね。でも実来ちゃんのことを知って、夏輝くん、『俺はこの先も実来しか好きじゃない』って言い切ってたよ。すごいなあ、実来ちゃんは。
最初はね、実来ちゃんのことずるいなーって思ったんだあ。施設でずっと一緒に育って、そりゃ夏輝くんが好きになるのも当たり前じゃんって。過ごしてる時間が違い過ぎるんだもん。
でもね、夏輝くんの話聞いてたら、そうじゃないんだろうなって思ったの。もし実来ちゃんの顔が違くても、声が違くても、性格が違くても、施設にいたのが私だったとしても、夏輝くんはきっとどこかで実来ちゃんと出会って、好きになるんだろうなあって。
私は少しくらいずるくても手に入るならって思うけど、きっと夏輝くんが選ぶのは私じゃなくて実来ちゃんなんだろうなあって。
もし実来ちゃんがここにいたら、夏輝くんはそりゃもうメロメロで、デレデレで、うざいくらい実来ちゃんのことが好きで、一生愛し続けるんだろうなあって思うんだっ。それで私は実来ちゃんが羨ましくて、嫉妬して、ちょっと嫌なこととかしちゃったりとかするかも知れないよねえ。
あ、でもさでもさ、峯くんも超イケてるよね?本当羨ましいなあ〜。私ならどっちか選べなくて、どっちも欲しい!ってなっちゃってたと思うなあ。彼女とか作らせたくないもん。
夏輝くんってね、学校ではいつも明るくて、優しくて、あ、頭も良くてね、結構人気なんだよ?そんな夏輝くんがね、実来ちゃんのこと思ってすっごい泣いてた。そりゃもう、子供みたいわんわん泣いててさあ。敵わないなあって思っちゃった。あ、これ本当に嫌味じゃないんだよ?!
あとはねー、あ、夏輝くんね、スマホとか、カーテンとか、私物が全部黄色なんだよ。あとはいっつもカレーライス食べてて。それもね、聞いたの。『黄色は実来がくれた俺の好きな色』だって言ってたんだよ。全っ然意味わかんないし、日本語変でしょ?!なのに、意味が分かっちゃったんだよね、なんとなくだけど。
マリーゴールド、好きなんだよね?向日葵はよく分かんないけど、夏輝くんの部屋に置いてあったから、もしかしてマリーゴールドが実来ちゃんで、向日葵が夏輝くん、みたいな話でもしたのかなあって勝手に思ってるんだけどね。だから今日はその2本を持って来ちゃいました、はは。
あ、あと私ね、マリーゴールドの花言葉調べて来たんだよ。『変わらぬ愛』とか『いつもそばに置いて』とか『逆境を乗り越える』って書いてあったの。これ、実来ちゃんと、夏輝くんと、峯くんにぴったりだなーって思ったの。
みんな、苦しい思いしたんだよね。私なんかには到底計り知れないけど、でも、だから魅力的なんだろうなって思うの。
初めてここに来た時、実来ちゃんのマリーゴールドを見て、本当に綺麗だなって思ったの。夏輝くんたちがいつ持ってきたお花なのかは分からないけど、なんていうか、色褪せない美しさって言うか?お花が置いてあるここは、やっぱり生きてるって思ったよ。その時は実来ちゃんのこと知らなかったけど、今考えてみたらすっごい腑に落ちるの。
ここには、ちゃんと実来ちゃんがいたんだよね。だからここだけ時間が進んでるみたいに、オレンジ一色なのにカラフルで、明るくて、動いて見えた。実来ちゃんがいるんだよね。
あ、あとね!初めてここに来た時は暗くてこわーいって思ったんだけど、実来ちゃんのこと知ってから今日来てみたら、なんか友達の家に遊びに来たみたいな気持ちになってね、鼻歌とか歌いながらルンルンでここに来たんだよ。
あ、私はね切なーいラブソングが好きなんだけど、実来ちゃんが12歳ってことは4年前だからー、その時だったら優里のドライフラワーとか、あ、マカロニえんぴつとかも流行ったよね!実来ちゃんはどんな音楽聴いてかなあ。あ...長々と喋っちゃったけど、何が言いたいかって言うとね、私も、実来ちゃんと友達になりたかったなあって!
だってさ、同じ男の子を好きになったんだよ?私たち。きっと喧嘩したりもするけど、仲良くなれたと思わない?仲直りしてさ、夏輝くんの好きなところ言い合っちゃったりとかして!
あ、じゃあ〜私が思う夏輝くんの好きなところはねえ、まずね、顔がかっこいいでしょ!はは、面食いとか言わないでね?顔から好きになって、話してみたら何かめっちゃ気遣われてたけど、結局放課後遊んでくれたし、家まで送ってくれるんだよ?優しいよね〜!あれ、実来ちゃん嫉妬してる?
じゃあ実来ちゃんは、夏輝くんのどこが好きだったのかなあ?やっぱり顔?優しいとこ?頭が良いとこ?あ、ちょっと抜けてて口が悪いとこも可愛いよね〜!....なんて、恋話できたかも知れないよね。
放課後ゴンチャとかスタバとか行ってさ、先生の悪口とか言いながら課題やったり、峯くんにも夏輝くんの惚気話とかしてさ!あ、マックの三角チョコパイ食べて歯にオレオついちゃったりさ。
やりたいこと、たくさんあったよね、きっと。12歳なんて、短過ぎるよ。
もっともっと夏輝くんや峯くんの傍で笑いたかったよね。話したいこと、やりたいこと、たくさんあったよね。
実来ちゃんたちのこと何も知らない私がこんなこと言うのはおこがましいかも知れないけど...なんか私も悔しいよ。実来ちゃんの辛いこと、私も一緒に背負ってあげたかったよ。一緒に笑いたかったよ。
私の好きな夏輝くんを心から笑わせられるのは実来ちゃんだけだからさ、そんな姿を見たかったよ。
でも、実来ちゃん心配してるでしょ、きっと。
夏輝くんと峯くんがちゃんと笑って生きてるかどうか。あのね、今はきっと2人とも、悲しみの中で本当の意味では笑えてないと思う。でも安心して欲しいの。実来ちゃんのこと、2人はきっと一生忘れないよ。
でも、笑って生きていける方法を、私が一緒に探すから。それくらい、私は勝手に2人を大事に思ってるの。まあ峯くんとは、これから仲良くなりたいと思ってるから..こんなこと言ってたって知ったらキモがられるし、内緒だよ?
だからいつか必ず、2人は幸せになれるよ。それで天国に行ったら、綾花って奴いなかった?って2人に聞いてよ。ていうか、私が天国に行った時、さっき行ったこと全部!一緒にしようね。その時は友達で、ライバルだよ」
屋上の入り口で綾花の話を聞いていた塚本は、思わず目頭が熱くなった。
少し鼻を啜り、手に持っていた『ふるふるゼリー』を見つめた。




