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怪物  作者: 水野 すい
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69/100

残念だよ

「あ、でもさ」


夏輝はそう言うとゼリー缶を手に持ったまま恭介の方を見て言った。


「ん?」


「恭介も前、誰も好きになったことないって言ってたけど、誰かとキスしたこととかあんの?どんな感じ!?」


夏輝が純粋な疑問をぶつけてきた時、恭介は昨日、知佳と触れ合った感覚が一瞬蘇った。


知佳だけじゃない。他の奴らとの接触も、同じくらいの苦痛だった。

胃液が喉まで上がってくるような感覚。

キスをしたとき、吐き気だけじゃなく痛みすら感じてしまう感覚。

自分を求められる嫌悪感。

名前を呼ばれる度、殺したくなる衝動。


恭介はすぐに微笑み、笑って答えた。





「俺は誰ともそういうことしたことないから分かんないなあ」





「なーんだ。お前女子にモテるし、すげー経験あんのかと思ってたー」


う言いながらまた景色を眺める夏輝を、恭介は微笑んで見つめた。







なっちゃんの気持ちは今は、確実に実来ちゃんにしか向けられていない。

この5年、なっちゃんも俺と同じように女に触れられることに抵抗があった。


5年前のあの日に、実来ちゃんに、この場所に心を置いてきていたはずだ。

なっちゃんは上手く隠していたと思ってるかも知れないけど、俺には分かる。


実来ちゃんが死んでから、なっちゃんは明らかに変わった。

手を触れられただけでも激しく動揺して、瞳孔が開いていた。


けど、今度は自分から羽住綾花に触れている。

なっちゃんは少しずつ周りの人間にも、関係にも興味を持ち始めている。

いつか本当に誰かを好きになるかも知れない。





実来ちゃんの役目が終わる日も、近いのかも知れないね。

まだあと何年かは役に立つかなと思ってたけど、残念だよ。



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