残念だよ
「あ、でもさ」
夏輝はそう言うとゼリー缶を手に持ったまま恭介の方を見て言った。
「ん?」
「恭介も前、誰も好きになったことないって言ってたけど、誰かとキスしたこととかあんの?どんな感じ!?」
夏輝が純粋な疑問をぶつけてきた時、恭介は昨日、知佳と触れ合った感覚が一瞬蘇った。
知佳だけじゃない。他の奴らとの接触も、同じくらいの苦痛だった。
胃液が喉まで上がってくるような感覚。
キスをしたとき、吐き気だけじゃなく痛みすら感じてしまう感覚。
自分を求められる嫌悪感。
名前を呼ばれる度、殺したくなる衝動。
恭介はすぐに微笑み、笑って答えた。
「俺は誰ともそういうことしたことないから分かんないなあ」
「なーんだ。お前女子にモテるし、すげー経験あんのかと思ってたー」
う言いながらまた景色を眺める夏輝を、恭介は微笑んで見つめた。
なっちゃんの気持ちは今は、確実に実来ちゃんにしか向けられていない。
この5年、なっちゃんも俺と同じように女に触れられることに抵抗があった。
5年前のあの日に、実来ちゃんに、この場所に心を置いてきていたはずだ。
なっちゃんは上手く隠していたと思ってるかも知れないけど、俺には分かる。
実来ちゃんが死んでから、なっちゃんは明らかに変わった。
手を触れられただけでも激しく動揺して、瞳孔が開いていた。
けど、今度は自分から羽住綾花に触れている。
なっちゃんは少しずつ周りの人間にも、関係にも興味を持ち始めている。
いつか本当に誰かを好きになるかも知れない。
実来ちゃんの役目が終わる日も、近いのかも知れないね。
まだあと何年かは役に立つかなと思ってたけど、残念だよ。




