不思議な感覚
下駄箱で夏輝と合流した恭介は、2人であのビルの屋上へ。
恭介は階段を上がっていきながら、各フロアの足跡を見た。
5階まではついている、小さな足跡。
恭介はあの日、綾花がこのビルに入って行ったところを思い浮かべた。
6階まで上ったとき、足跡は真っ直ぐ屋上に向かっていた。
恭介は7階で足を止め、「ねえ」と夏輝を呼び止めた。
「ん?」
夏輝も足を止め、恭介を見た。
「俺たち以外に誰か来たのかな、このビル。5階まで足跡があった」
すると夏輝はふと、綾花がビルに行ったと言っていたことを思い出した。
「ああ...多分綾花だ」
言われ、恭介は一瞬止まり、すぐに夏輝を見た。
「綾花って、羽住さん?この間の学食の」
恭介がそう言うと、夏輝は「そそ」と言いながらまた階段を上り始めた。
恭介は「...そうなんだ」と微笑んで夏輝に続いた。
「でも、何で羽住さん?女の子が1人で来るような場所じゃないよね。なっちゃん、この場所のこと話したの?」
階段を上りながら恭介が言った。
夏輝は何気ない会話のように答えた。
「いや、俺が話したわけじゃないんだけどさ。色々あって、実来のことも知られてたみたいで」
夏輝に言われ、恭介は夏輝の部屋での二人の会話音声を思い浮かべた。
「えっそうなの?それは、またどうして...」と恭介。
「俺がこのビルに入って行くとこ見られたらしくて、それで気になって入ったんだと。それで屋上に置いてある花見て、ネットで事件調べたって言ってた。まあ、そりゃこんな廃墟に花供えられてたら誰かが死んだんだなって思うよなー」
軽い口調で話す夏輝に、恭介は「そうなんだ」と言ってから微笑んで続けた。
「意外だな。なっちゃん、勝手に過去探られたら怒るタイプだと思ってたけど。そんな風には見えないね」
「あ、まあ。そりゃ聞かされた時は勝手に詮索されて腹立ったんだけど、まあ色々あって」
そう言ったところで、2人は屋上についた。
「色々って?」
屋上についてからも恭介は話を続けた。
2人はいつものように、コンクリートの上に座りながら話を続ける。
「んー...どっからどう説明すればいいのか...」
夏輝はそう呟いて苦笑した。
「まあ最初はむかついて色々言っちゃったんだけど、その後仲直りって言うか?うん、仲良くなった」
夏輝がそう言うと、恭介は「ごめん、はしょり過ぎてて全然分かんない」と笑った。
「だ、だよな...?えっと、情けないけど俺、綾花の前で泣いちゃったんだよ。昔のこととかも、説明したわけじゃないけど、怒ってぶちまけちゃってさ。俺結構ひどいこと言っちゃったし、嫌がるようなことしちゃったんだけど、あいつ怒るでも謝るでもなく『我慢しなくていいんだよ』とか言って慰めてきてさあ。なんていうか、正直じんわりしちゃった~みたいな?」
夏輝の簡易的な説明を聞き、恭介はニコニコしたまま「ふうん」と呟いて口を開いた。
「それで絆されて羽住さんと付き合うことにでもしたの?」
恭介が言うと、夏輝は「言い方棘あるなっ」と言ってから答えた。
「付き合ってねーよ。これからも付き合うとかではないかなあ。でも、まあ、うん。普通に人としては?好きだなって思ったよ」
「そうだったんだ。でも、あの子なっちゃんのこと好きなわけでしょ?付き合いたい方で。思わせぶりなことしてたら誤解されるんじゃない?もしかしてもう何かしちゃった?」
冗談を言うように笑う恭介に、夏輝は「あーいや」と呟いてから言った。
「俺もそうだと思ってさあ、抱きついちゃったしちゃんと言っておこうと思って付き合う気はないよーってちゃんと言ったよ?あ、謝りもしたっ」
「いや、俺に言い訳しなくても」と恭介は笑う。
「あ、そっか。んーでも、正直落ち着くなあとか思っちゃった」
夏輝がそう言って苦笑すると、恭介は「ん?何が?」と微笑んだ。
「え、女の子にこう、ぎゅって抱きしめてもらうの。なんていうか、身体小さくてかわいいし、何かいい匂いするし。不思議な感覚っていうか?」
夏輝はそう言いながら自分の両手を見つめた。




