あの夜の炎
灯油ストーブに使う灯油缶は蓋が硬くて、9歳の俺の力では開かなかった。
だから予め父親にストーブを使いたいと言って蓋を少し開けてもらっておいた。
新聞紙はゴミ捨て場で拾ってきた。
ライターは父親がポケットに入れたままにすることも多い為、学校の理科室からマッチを持ってきた。
よく考えれてみればマッチの方が火がついた後に燃えてなくなるし、調べられる可能性も低い。
睡眠薬は、鬱気味だった母親がよく飲んでいるのを知っていた。
どこにあるかも、全部。
たぶん母がいつも会っている男と、父がいつも会っている女の都合だろうが、両親が夜に揃うのは決まって水曜日。
なら水曜日しかない。
それも、隣のおばさんと犬がいない日。
おばさんはよく犬を連れて隣町の実家に泊まりに行く。
当日は俺もおばさんの家に泊まりに行く。
そんな偶然を待ち構えるしかない。
何年先でもいい。絶対にやると決めていた。
灯油缶の関係上、冬にしかできないしことがネックではあるが仕方がない。
俺が子供で、力がないから。
蓋も開けられないし、これ以外に方法が思いつかない。
思いのほか、そんな奇跡的なタイミングはすぐにやってきた。
もちろん警察は放火犯がいると考えていた。
けど不思議と緊張感はなかったし、ちゃんと涙も絞り出せた。
一方で、気になったのは死んだ両親のことよりも、父親と会っていたもう1つの家族の方だ。
警察はこのことを知らないだろうし、俺も話す気はない。
そのうち警察が知ることがあったとしても、俺が知っていたと裏付ける証拠は何1つない。
俺は全部知っている。
父親と手を繋いでいた女が川本瑠璃子、娘が川本菜々美と愛実。
無論、小学生の俺にこれ以上のことを知る術はなかったが、名前が知れればそれだけで十分だ。
罪を犯したら裁かれる。
それがこの国の法律であると、学校で習った。
なら彼女たちが無罪っていうのは、違うと思うんだ。
最低な両親が死んだ後だった。
『お前はもう1人じゃないだろ?』と言ってくれた君が現れたのは。




