ずっとこのままでいたい
「それでね、なっちゃんってば今日もユカちゃんの髪の毛ぐしゃーってしててね、ユカちゃんが嬉しそうにしてるの。だからユカちゃんのこと好きなのって聞いたのに、好きじゃないって怒るんだよ?」
その翌日、今度は夏輝がいない日の帰り道のこと。
実来は怒りながら恭介に言った。
恭介はニコニコしながら実来の話を聞いていた。
「そっか。実来ちゃんはなっちゃん取られて怒ってるんだね」
「えっ?!違うよっ!その、なっちゃんのね、そういう、好きじゃないって怒るのに、あの、そういうことするところが嫌いなの...!」
実来が慌てた様子でそう言い、恭介はクスっと笑った。
「ふうん、そっか。なっちゃん、ユカちゃんと仲良いもんね。中学とか入ったら付き合ったりとかするのかもね」
「えっ?付き合うって、もうユカちゃんとしか一緒に帰ったりしないってこと...?」
実来は目を見開いた。恭介は相変わらずニコニコ。
「うーん、どうだろうね。でもユカちゃんが1番大事ってことになるんじゃない?」
「そしたら、私は2番...?」
「分かんないけど、そういうのに2番とかないんじゃない?1番以外の女の子はみんな一緒っていうか、そうじゃないとだめなんじゃない?」
「みんな一緒...ええ...そうなの...どうしよう恭ちゃん。そうなっちゃったら何か、何か嫌じゃない...!?」
「俺は男だし、なっちゃんに好きな子ができても何も変わらないと思うけど。実来ちゃんは1番じゃないと、いつか離れちゃうかもね」
「ええ~....ずっとこのままでいたいよお...そしたらずっと11歳のままでいいのに...」
「んーでも、大人にならなきゃ、なっちゃんの1番になることもできないよ?なっちゃん、そういうのあんまり気にしてなさそうだし。大人になって一緒にいれたら、それが1番ってことでしょ?」
恭介がそう言うと、実来は「そっか...!」と呟き、笑顔で言った。
「じゃあ早く大人になりたいな!それでずっとずっと一緒にいるの!」
施設に帰り、恭介は自分と夏輝の部屋へ。
ランドセルを置いて、机の上に宿題を広げた。
頭の中に浮かんできた、あの父親と母親。
母は見知らぬおじさんといつもベッドで何をしていたんだろう。
なぜいつも朝は綺麗だった髪が乱れていたんだろう。
父は一緒にいたおばさんと、2人の女の子は誰だったんだろう。
父がよく行っていた『家』はなんだったんだろう。
なぜ父と母は、互いに自分とは違うボディソープの香りがしたんだろう。
3人でいても、全員が違うことを考えていたのはなぜだろう。
この疑問は11歳の恭介にとって、理由が分かっていないことの方が少なかった。
でもこの気持ちもあの日、全部家に置いて来た。
全部燃えて灰になった。
最初から何も無かったんだ。
ゴミが処理された、それだけのことだ。
それでもまだゴミは残ってるみたいだから、ちゃんと処理しないとね。




