傷み
夏輝がそう言うと、綾花の目から涙が溢れた。
夏輝は「えっ」と呟き、「え、え、何で!?」と言って泣いている綾花を見た。
綾花は次第にどんどん泣き始め、拳を握りしめながら「だって....!」と口を開いた。
「みんな......小さい頃からつらい思いしてたのにっ....!何で実来ちゃんは死ななきゃいけなかったんだろうとか...!3人ともつらい事があって...それでも施設で前向きに生きてたのにっ....!あんまりだよ....!そう思ったら...なんか涙出てきちゃってっ...!ごめんね...つらいのは夏輝くんの方なのにっ....!」
そう言いながら泣いている綾花を、夏輝は自分も泣きそうになりながら見つめた。
「私はっ....自分が生まれてきた理由とか...生きてていいのかだなんて....考えたこともなかったしっ....!温かい食べ物もっ...布団もっ....優しくしてくれる人も...当たり前にあってっ....!いつもお腹いっぱいになるまでごはんが食べられて...!大切な人が傍にいてくれてっ...失ったことなんかなくて....!自分のことばっかり考えて生きてて...夏輝くんが何を好きかも分からなくて...ずっとつらい思いばっかりしてきたのに...いつも明るく振舞って...無理してたことっ....分かろうともしてなかった...!それなのに簡単に『好き』だなんて言って困らせて.....!ごめんね....ごめんね...!」
そう言って泣いている綾花を見て、夏輝もまた少し涙が溢れては手で拭い、「あーもう泣くなよ...!」と言って綾花の前にティッシュの箱を置いた。
「だって...!どんなことがあって施設に行ったのかは分からないけど....つらかったよね...」
泣いた顔でそう言って夏輝を見る綾花を見て、夏輝の頭の中に両親と暮らしていた時の記憶が流れてきた。
汚くて狭い部屋と、殴られた痛み。
光が差さない押入れの中。
いつも空腹でぼんやりと見えていた視界。
カビの生えた毛布。
常に自分から漂う血の臭い。
喉が渇いて隠れて飲んでいた風呂場の水。
外から聞こえる楽しそうな子供の声。
スリッパで近づいてくる怖い音。
秋人の泣き声。
施設に行ってから話しかけてくれた実来の声。
実来の優しい笑顔。
明るい声色。
温かい手。
俺の人生に初めて射した光。
それが実来そのものだった。




