過去
あの日から恭介はよく喋るようになり、よく笑うようになった。
何かが吹っ切れたのか、それとも無理をして合わせてくれているのかは分からない。
だが同い年だった俺と恭介と実来は、施設でも学校でも常に一緒だった。
まるで本物の家族のように。
「俺の親、火事で死んだんだ。放火されて、犯人はまだ捕まってないって警察が。俺はたまたま近所のおばさんの家に行ってたから助かったけど。父親も母親も、次会った時には顔も分かんないくらい丸焦げだったんだ。本当にあれは俺の親だったのかなーって、今でも思うんだ」
ある時、恭介が話してくれた。
「そうだったんだ....」と実来。
実来は感受性が豊かで、本を読んだだけでも、こうして話を聞いただけでもすぐ泣いてしまう。
「なっちゃんは施設に来てからの方が幸せだって言ってたけど、聞いてもいい?」
恭介にそう言われ、夏輝は「別に隠すことでもねーし」と笑ってから言った。
「虐待されてたんだ、俺。毎日殴られるし、食べ物はもらえないし、掃除させられるし、弟の面倒も俺がほとんど見てたんだー。でもさあ、その時は外の世界を知らなくて、これが当たり前の生活だと思ってたんだよ。だから逃げ出しもしなかった。傷だらけだったけど学校の先生は何も言わないし、助けてとも言わなかった。だからこのままいつか死ぬんだなーとか思ってたんだよ」
「え、じゃあどうやって施設に?」
恭介が聞くと、代わりに実来が答えた。
「なっちゃんが学校の行事でね、市役所の見学に行ったの。その時に教育委員会にいたお姉さんがなっちゃんの痣を見つけて、それで通報してくれたの」
「そうだったんだ。あれ、じゃあなっちゃんの弟は?施設にいないよね?」
恭介はそう言って2人を見た。実来は少し俯いた。
「死んだ。それも、俺が保護されたその日に。警察と児童相談所の人が家に行ってくれたんだけど、その時まだ3歳だった弟がベランダにいたらしくてさ。真冬だぜ?そりゃほぼ裸で放置されたら死んじゃうよなあ」
夏輝は苦笑し、落ちていた石を拾って川に投げた。
「それは...つらかったね」と恭介。実来はやはり静かに泣いていた。
「まあな。保護されたあと、俺だけ温かい飲み物もらってさ、腹いっぱい食べ物がもらえて、綺麗な、それもふっかふかの布団で寝せてもらって、周りの大人もすごく優しくてさあ。この世界にこんな幸せがあるんだって、弟は知らないまま死んじゃったのかあって思ったよ。俺兄ちゃんだったのに、守ってあげられなくて、自分ばっかりこんな笑ってていいのかなあって、今でもたまに思うよ」
夏輝はそこまで話すと、2人が黙り込んでいることに気づき「あ」と言って笑った。
「でもでも、今は恭介と実来がいて、みんながいて、俺幸せなんだよ本当に。弟の分まで生きるって決めたんだよ。だからそんな暗い顔すんなよな~」
そう言って2人の間に入り、2人に肩を組んだ。
「なっちゃん...」と実来は泣きながら笑った。
「いやいや、実来には前にも話したことあるだろ?何で毎回泣いてんだよ」
夏輝はそう言いながら2人から腕を外し、指で実来の涙を拭った。
すると恭介は「なっちゃん」と言って夏輝を見た。
「俺、何があってもなっちゃんと一緒にいるからね。だからなっちゃんも、ずっと親友でいてよ」
真剣な表情で言う恭介に、夏輝は照れ臭そうに「おうっ」と笑った。
「実来ちゃんは?聞いてもいいのかな...」
恭介が言うと、実来は「もちろん」と微笑んだ。
「私は2人みたいな事情じゃないんだよ。交通事故でパパもママも亡くなったの。それから施設に来たの。1年くらいしてなっちゃんが施設に来て...あ、なっちゃんも最初はね、ずっと無口で何言っても反応がなくてね。恭ちゃんみたいに無愛想で怖かったんだよー?」
実来が言うと、夏輝は「やめろよ」と恥ずかしそうに笑った。
「そうだったんだね。でも、実来ちゃんだって辛かったよね。親を失った辛さに事情は関係ないよ」
恭介はそう言い、実来は「うん、ありがとう」と苦笑した。
「でも、最初に話したとき俺にあんなに偉そうに説教してきたのに自分もそうだったんだ?」
恭介に言われ、夏輝は「は?俺の話はいいだろ」と恭介の肩を叩いた。
「あーなっちゃん照れてる~~~」と実来。
この時間がずっと続くと思ってた。
明日も明後日も、何年先の未来もずっと。




