孤独な家
恭介・9歳
「ただいま」
恭介がそう言って玄関のドアを開けると、玄関には知らない男物の靴があった。
恭介は靴を見ると視線を上げ、ゆっくりと家に入った。
母親の甘えるような声と、知らない男の声が聞こえる寝室を通り過ぎ、そのままリビングへ。
カバンを下ろしてすぐにテレビをつけた。
すると、その音に気がついたのか5分くらいして寝室から母親が出てきた。
「恭介…おかえり!」
母親がそう言い、恭介はニコッと笑ってから母を見て「ただいま」と言った。
母のロングヘアは少し乱れ、今まさに1番上のボタンを閉めていた。
「あ、あのね、今日もお母さんの友達が来ててね、でもあの、お父さんは心配性だから、あのーーー」
手櫛で髪を整えながら言う母の言葉に、恭介は「分かってるよ。お友達、ゆっくりしてったら。俺友達と遊びに行く約束してるから。夜ご飯も友達の家で食べようって言ってくれてるんだ。だから用意してくれなくて大丈夫だよ」とにっこり笑った。
「そ、そう…?いつもごめんね恭介」
母に言われ、恭介は「うん…」と微笑み、すぐに立ち上がった。
「じゃあ俺、もう出掛けるから。鍵は持って行くから閉めてて大丈夫だからね。行ってきます」
恭介はそう言うとカバンを手に、靴を履いた。
「あ、あ、まって恭介。これ、お友達と何かお菓子でも買って食べて!」
母はそう言って恭介に1万円札を渡した。
恭介は1万円札を見ると微笑み、母を見て「ありがとう。じゃ、行ってきます」と言ってドアを開けた。
「あ、うん!気を付けてね!」
母はそう言って恭介に手を振った。
外に出た恭介は角を曲がるまでスタスタと歩き、家が見えなくなったところで足を止め、一度自分の家を見上げた。
それからすぐまた歩き出し、公園に入って行った。
それから数日後の土曜日。
母と"お友達"を家の残し、恭介は1人宛もなく町を歩いた。
目的もなく歩き続け、知らない町に来た。
景色を見ながらゆっくり歩いていると、父親を見かけた。
そこにいた父は、恭介の知らない女と、恭介と同じくらいの年齢の『マナミ』と呼ばれる女の子1人、『ナナミ』と呼ばれる中学校の制服を着た女の子が1人と、4人で歩いていた。
父と彼女たちは手を繋ぎ、楽しそうに笑っていた。
恭介はそんな姿を見ると、表情1つ変えることなく視線を逸らし、反対方向へ歩いて行った。
19時になり、家に帰るとそこには父の姿も、母の姿もあった。
「おかえり恭介。今日は楽しかったかー?」
父はそう言って微笑んだ。
「お友達と公園に行くって言ってたわよね。怪我してない?」
母も微笑み、テーブルの上に皿を置いた。
恭介は「うん、楽しかったよ」と微笑み、キッチンへ。
手を洗い、ふと後ろのゴミ箱を見た。
スーパーの総菜のパックが幾つか捨てられていた。
皿の上に載ったおかずを見て、いつものだ、と思った。
父は先ほどキッチンにいた。気づいてて言わない。
まあ、それもいつものことか。
母の首に奇妙な痣。父から漂う知らない匂い。
恭介は二人を見て微笑み、「美味しそう。いただきます」と箸を手にした。
「お母さんの料理は最高だね」と父。
「もう、褒めたって何も出ないわよ」と母。
恭介はそんな2人と一緒に話して、笑った。




