1秒たりとも
それを聞いた塚本は目を瞑り、大きな溜息をついた。
「お前そんなん聞いて..否定しないでって、そりゃ無理な話だろ?」
「あんたにとっては数ある事件の中の1つかも知れないけど、俺にとって実来は1人しかいなかったんだ。代わりなんかいない。本当は秋人を殺した両親だって殺してやりたい。でも、実来がいたから思い留まれたんだ。俺から秋人と実来を奪った奴がのうのうと生きてるなんざ、許せるわけないでしょ」
淡々と言う夏輝に、塚本は宥めるように言う。
「お前なあ、そんな簡単に『殺す』なんて物騒なこと言っちゃだめだよー?警察入るんだろ?犯罪に手染める想定なんか絶対すんな。それに、俺の中で実来ちゃんの死は確かに警察人生の中の1つだよ。でもそんな簡単に思えないから今だって諦めてないんだよ」
そう言われ、夏輝は塚本を見た。
「え..?諦めてないって、自殺って断定されたでしょ?」
「そうだよ、そうだけど、それは警察の判断。1警察官の俺の意見じゃない。何度も言ったよ、もう少し調べてくれってな。だからこうして証拠探してんだろ?」
塚本の言葉に、夏輝は少し驚いた表情を浮かべた。
「...てっきり罪悪感消化する為に俺にちょっかいかけてきてんだと思ってました」
「はあ?お前そんなん言われたおじさん傷つくよ?お前のことも、恭介のことも心配なんだよ俺は。俺だけじゃない、今村も必死に調べてる」
「今村さんも?」
「そう。だからお前が諦めないのはいいことだけど、俺たちのことを頼らないなんて悲しいこと言うなよ。お前はもっと大人を頼れ、クソガキ」
塚本はそう言って夏輝の頭を軽く叩いた。
夏輝は「....まあ、ちょっとだけなら頼ってやってもいいけど」と呟いた。
塚本は「生意気になりやがって」ともう一度夏輝の頭を叩いた。
「まあとにかく、お前の気持ちは分かった。あ、あともう1個聞かせて」
塚本はそう言って夏輝を見た。
「なんだよ」と夏輝。
「恭介、元気か」
「ああ...この間ちょっと会ったけど元気そうでしたよ」
「やっぱお前ら距離置いてたのか」
「仕方ないでしょ、恭介といるとお互いに実来のこと思い出しちゃうんだよ。向こうも俺のことちょっと避けてたみたいだし。でも、意味ないって分かったし、やっぱ恭介は家族だなって思ったよ」
夏輝がそう言うと、塚本は「どういうことだ?」と言った。
「....俺、あいつといたら実来のこと思い出してつらいって思って中学ん時避けてた。でも、恭介といようがいまいが、俺はこの5年、実来のこと1秒たりとも忘れることなんてなかった。だから意味ねーなって思ったんすよ。今日だって羽住さん...あ、さっきの女の子ね。あの子と何話しても実来のことばっか考えてた。悪い子じゃないのは分かるけど、やっぱどうしても興味持てないし」
「...なるほどなあ。お前、クソガキなのにモテるんだ?」
塚本がそう言うと、夏輝は呆れた顔をした。
「はあ?今そんな話してなかったろ。ふざけやがって」
「まああれだ。あの子、お前の過去のこととか何も知らないんだろ?」
塚本は足を組んだ。
「そりゃな。話してねーし話す気もねーよ。今日だって別に遊びたくて遊んでたわけじゃねーし...」と夏輝。
「なら中途半端なことはすんなよ。これは警察としてじゃないぞ、男として言ってるからな」
「んだよ、うっせーな。当たり前だろそんなもん。つか、俺の話聞いてねーんすか?あの子といても実来のことーーーーーー」
夏輝がそう言ったとき、塚本は夏輝の言葉を遮って言った。
「でもお前、実来ちゃんのこと考えても、あの子に興味がなくても、ちゃんと家まで送ってたろ。笑ってたろ。少なくともお前はちゃんと成長してるよ。心に実来ちゃんがいたとしても、お前は他の人に優しくしたり、笑ったりできるようになってる。あの日からちゃんと時間は動いてる。俺はお前がちゃんとした17歳になってて嬉しいよ」
言われ、夏輝は少しだけ塚本を見つめ、すぐに視線を逸らして「...うざ」と呟いた。
恭介は部屋で1人、イヤホンをして夏輝と塚本の会話を聞いて1人呟いた。
「ふーん。なっちゃん、まーた悪い虫がついちゃったんだあ」




