生まれて初めて
泣き腫らした顔を隠しながら起きると、案の定いつものように実来が話しかけてきた。
「なっちゃんおはよ!昨日はよく寝れた?」
実来はそう言いながら顔を背ける夏輝の顔を見た。
実来は何かを察したように笑顔になり、「ねえなっちゃん!今日は何して遊ぶ?目覚めたら声掛けてね!」と笑い、実来は夏輝に手を振って走って行った。
そうは言われたけど、俺はその日もホールの端っこでただうずくまって窓の外を見ているだけだった。
遊ぶ気になんかなれない。
てか、あいつもここにいるってことは親になんかされたってことか?
昨日、事故に遭ったとか言ってたな。
自転車?車?ふうん、あいつ助かったってことか。
あれ、じゃあもしかしてあいつの親ってーーー。
まあ、どうでもいいか。そんなこと。
それからも毎日実来は話してかけてきた。
「なっちゃん!」
実来はそう言うと、「じゃんっ!」と言って夏輝にタンポポを差し出した。
「....は?」
夏輝が実来を見ると、実来は「なっちゃんにプレゼント!なっちゃんの好きな黄色のお花!」と笑った。
言われ、夏輝は少し実来を見つめると小さく笑った。
「...俺は好きって言ってねーし。お前が勝手に決めたんだろ」
夏輝がそう言うと、実来は驚いた顔をした。
「なっちゃんが...笑った!笑ったよ〜!」
実来はそう言って夏輝に抱きついた。
夏輝は「や、やめろよっ...!触んなっ!」と言って実来から離れようと体をのけぞらした。
「いいじゃんっ!なっちゃん大好きだよ〜!」
実来は嬉しそうに言った。
あれ、こんな風に笑ったのっていつぶりだっけ。
ううん、生まれて初めてだ。
誰かに『好き』って言われたのも、誰かに抱きしめてもらったのも、全部初めてだ。
こんなに嬉しいものなんだ。知らなかった。




