カレーライス
「...適当なこと言うなよ」
夏輝はそう言うと、実来から視線を逸らした。
実来はまた微笑み、「じゃあ好きな食べ物は?」と夏輝の顔を覗き込んだ。
「ねーってば...!」
夏輝はまた不機嫌に振り返ると、実来は「じゃあ来て!」と言って夏輝の手の引っ張り、テーブルの方へ。
夏輝は嫌がりながら実来について行き、椅子に座らされた。
テーブルの上にはカレーライスとお茶、スープ、サラダが置いてあった。
給食でしか食べたことがないし、給食もろくに食べたことがないから久しぶりに見た。
「ねえ、一緒に食べようよ。いつもあんまり食べてないし、お腹空いてるでしょ?ね、今日だけでいいから!」
実来はそう言いながら、夏輝にスプーンを差し出した。
夏輝は口を尖らせ、ムスッとしながらスプーンを受け取った。
「ほら、じゃあいただきますっ!」
実来もそう言うと、自分の前にある食事を食べ始めた。
「ん〜〜〜美味しい〜〜〜!ほら、なっちゃんも!」
実来に言われ、夏輝は不機嫌な表情のまま「...いただきます」と呟き、スプーンでカレーを1口分すくい、口に入れた。
「どう?美味しい?これ実来も手伝ったんだよ〜〜〜って、ええ?!なっちゃんどうしたの!?大丈夫!?」
実来の視線の先で、夏輝は静かに涙を流していた。
「...分かんない」
夏輝はそう呟くと鼻を啜り、泣きながらまた1口、また1口とカレーを食べた。
実来はそんな夏輝を見て安堵したように微笑み、自分も食事を始めた。
すべて食べ終えた頃、涙でもう前が見えなくなっていた。
ただ口に入れる物すべてが美味しくて、温かくて、初めて口にする味ばかりだった。
この食べ物が何なのかは分からないけど、ただ美味しかった。
生まれて初めてお腹がいっぱいになった。
その夜、布団を用意してもらって、その布団に入ってからまた涙が止まらなくなった。
何で俺ばっかり。
何で秋人は、こんなに美味しい物も、温かい布団も、優しい大人も知らないまま死んでしまったんだろう。
秋人はたった4歳でこの世を去った。
いつもお腹を空かせて、両親からの愛情ももらえず、泣いていただけの4年は、秋人にとって意味があったのだろうか。
秋人は幸せどうか、そんな判断もできないまま死んでしまった。
秋人は何のために生まれて、何のために生きて、何のために死んだのか。
俺も秋人も生まれたくて生まれたわけじゃないんだ。
愛せないなら産まないで欲しかった。
ずっとそう思っていた。
なのに俺だけ、俺だけ今日、『幸せ』だなんて思ってしまった。
秋人はそんなこと思う間もなく死んでしまったのに。
俺だけが生きてていいのかな。




