黄色
「ねえ、夏輝君って言うんでしょ?んー、じゃあ、なっちゃんだね!」
施設に来て何日か経ったあと、実来にそう言われ夏輝は実来を睨むように見た。
「あっこっち見てくれた!ね、なっちゃんごはん食べないの?お腹空いてるでしょ?一緒に食べよーよ!」
実来はそう言いながら夏輝の手を握り、テーブルの方へ歩こうとした。
夏輝は手を振り解き、「触んなよっ」と不機嫌に実来を見た。
「もうーっ、なっちゃん!女の子にそう言うこと言ったら失礼なんだよ〜?」
ヘラヘラしているこの女を見ると、無性が腹が立つ。
ああ、そうか。母親を見ているみたいだからだ。
俺や秋人を放ったからかしにして、父親ではない男が家に来て、こうしてヘラヘラと笑っていた。
あ、そっか。俺あの人のこと嫌いだったんだ。
男に媚びて、ヘラヘラ笑ってる女が心底嫌いだと気づいた。
「うっせーよ!勝手に名前呼ぶなよ!俺に構うな!うぜーんだよ」
夏輝は実来を睨んで、怒鳴るように言い放った。
すると実来は、なぜかもっと嬉しそうに笑った。
そんな笑顔を見たら一瞬、秋人の笑顔が過った。
「なっちゃんが喋った!ずーっと無視してたのに。ねえ、なっちゃんは何色が好き?」
実来に言われ、夏輝は顔をしかめて「は?何言ってんだお前」と言った。
「ねえ、質問してるんだよー?ちゃんと答えて」
実来にそう言われ、夏輝は不機嫌な表情で「...ねーよ。好きな色なんか。なんでもいい」と言った。
「ええっ好きな色ないの!?じゃあ私がなっちゃんに似合う色、選んであげるね!」
実来はそう言うと立ち上がり、一度どこかへ走って行ったかと思えば、何かを持って戻って来た。
実来の手には、毛糸玉が入った箱が。
毛糸玉を手に、「んー」と言いながら俺にかざし、実来は黄色の毛糸玉を夏輝の頬に当てた。
「やめろよっ」
夏輝が嫌がると、実来は「黄色だ!なっちゃんは向日葵の黄色!これからは、なっちゃんの好きな色は黄色だよ」と笑った。
「はあ?俺の好きな色...何でお前が勝手に決めるんだよ。意味分かんねえ...」
夏輝はそう言うと実来から視線を逸らした。
「私はねオレンジが好きなの。あ、見て見て!」
実来はそう言うと横にあった本棚から植物の図鑑を出し、「えっとね〜」と呟きながらページをパラパラとめくり「あった!」と言って夏輝に図鑑を見せた。
『マリーゴールド』と書かれた花が載っており、オレンジ色で、花言葉は『勇者』『健康』『変わらぬ愛』と書いてあった。
「このお花はね、『逆境を乗り越えて生きる』って言う花言葉もあるんだよ。私の大好きな花なの」
実来がそう言うと、夏輝は「ぎゃっきょう...?」と顔をしかめた。
実来はクスッと笑い、「私も知らなかったんだけどねえ、事故に遭ったとき警察の人が教えてくれたの」と言ってから本を閉じ、夏輝を見て言った。
「『嫌なこととか、つらいことがあってもぜーーったい大丈夫だよ』ってこと。なっちゃんも、きっとこれからいーーーっぱい!楽しいことが待ってるよ」
実来はそう言って笑った。




